渋谷らくごプレビュー&レビュー
2016年 1月8日(金)~12日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
国宝、柳家小三治一門の白眉、柳家喜多八にはたったひとりの弟子がいる。何度も弟子入りを拒否し続けたが、熱心に懇願を続けたその弟子は遂に2003年、入門を許可され、2006年に二つ目に昇進、「ろべえ」という名前になった。
一見、けだるそうに見えるのはこの師弟の芸風。客席の雰囲気に合わせて、その日の落語を調整していく受け身の広さ。
ろべえさんがトリをとったら、なにをどう演るのか。そんな想像を巡らせて、こうかな、ああかなとドキドキしていた。
意を決して喜多八師匠にご提案すると、「へへっ、おもしろいねえ、じゃあ俺が開口一番あがるってのはどうかな」とのお言葉。
この記念すべき日に、春風亭一之輔と神田松之丞が脇を固め、ろべえさんを盛り立て、追いつめる。
どの出演者のことも知らない、という人が来て下さってもうれしいです。この日のことは、一生忘れないと思います。
レビュー
文:山本ぽてと Twitter:@YamamotoPotato 性別:女性 年代20代 職業:ライター兼会社員 自己紹介:好きなパンはカレーパン。ピンク、表彰状、おっぱい、ジャニーズ、コミックソング、さしみこんにゃく、啓発ビデオが気になっている。
1月12日20時~22時
柳家喜多八(やなぎや きたはち)「黄金の大黒」
春風亭一之輔(しゅんぷうてい いちのすけ)「普段の袴」
神田松之丞(かんだ まつのじょう)「正宗の婿選び~日本名刀伝~」
柳家ろべえ(やなぎや ろべえ)「二番煎じ」
私たちはみんな、ろべえさんの味方だった
柳家喜多八「黄金の大黒」
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柳家喜多八師匠
喜多八師匠が弟子・ろべえさんに支えられて舞台のそでからあらわれたとき、会場は静かにどよめいた。舞台そでから高座まで歩けないほど足が悪い、とわかったからだ。動揺を隠すためか、拍手は大きくなった。そもそも、この日の会場は超満員だった。後から聞くと、渋谷らくごで一番人が入った日らしい。
喜多八師匠は年始の寄席も休んでいた。弟子のろべえさんがトリの会に、体調の悪い喜多八師匠が出てくる。感動的な構図だ。もしかしたら、喜多八師匠の高座が見れるのも残り少ないのかもしれない。
その感動的なしかけに巻き込まれないで、ちゃんと喜多八師匠の落語をみることはできるのだろうか。勝手な想像だけど、喜多八師匠はそういう態度に厳しそうにみえる。「お涙ちょうだいでやってるんじゃないよ、こっちだって粋にやるんだから、適当にみやがれよ」と思っているに違いない。
「師弟愛ですよ」と照れくさそうに笑いながら、喜多八師匠は左のほほに手を添えた。そして、「怖いもんですよ。前座としてあがるのは」と小さい声で言いだした。まさに風前の灯火。病は気からなので、弱気にならないでほしいと私は強く思った。
「本当は『子ほめ』をやろうと思っていたんですけど」と、前置きをしてやったのは「黄金の大黒」。この話は、大家から呼びだされた長屋の人々があつまるところから始まる。
「これは店賃の催促だな。最後にいつ払った?」
「1月ためてる」
「おれはここに引っ越してきて一度入れたきり」
「おれは親父の代に一度」
実は、店賃の催促ではなく、大家の子どもと長屋の子どもたちが普請場(建築現場)で遊んでいたときに、砂場から黄金の大黒が出てきたので、「めでたい」と喜んだ大家が、長屋のみんなにご馳走する会をひらくようだ。喜ぶ一同。しかし、意地悪な番頭が「めでたい席なので、羽織を着て口上を言え」と催促する。貧乏な長屋なのに、羽織をどこから調達するのか、そして口上はどうなるのか……とみんなで知恵をしぼり工夫に工夫を重ねるという噺。
噺がはじまって、気がついた。
あれ、喜多八師匠、ぜんぜん元気だ。そういえば、いつも病弱なふりをして入ってきて、ぼそぼそマクラをしゃべり、噺は力強いことを忘れていた。この人の常套手段だった。やっぱり今回も、本当に病弱になってしまったのかもしれないけど、やっぱり噺は力強いのだった。長屋の人々はみんな、楽しそうに騒いでいる。ふざけたり、拗ねたり、どなったり、かっこつけで、粋で、まぬけな落語の人たちだ。
私は一瞬「喜多八師匠、見納めになったらどうしよう」と神妙に思ったのがバカバカしくなった。
これを読んでいる皆さんも、見納めだと思って足を運んで、そして心配して、力強い噺に「なんだよ元気じゃん」と思って笑いにいこう。
春風亭一之輔「普段の袴」
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春風亭一之輔師匠
「なんだよ、全然声でるじゃん」というようなことを一之輔師匠は言った。喜多八師匠に対して、会場みんながそう思っていたことを言ってくれた。「足だけが悪いんだったら、キャタピラつければいいのにね」会場は大きな笑いに包まれた。
一之輔師匠が落語界のエースであることは、みんな知っているし異論はないだろう。二ツ目の時から数々の賞を総なめにし、21人抜きの抜擢真打に。真打になってからもその勢いは止まらず、数々の賞を総なめにし、ユニクロのCMに。
だけど、「なんでエースなのか」「なにがおもしろいのか」と言われると「だっておもしろいんだもん」としか言えない。その謎を解き明かそうと、今回は注意してみることにした。
上野にある鈴本演芸場の向かいにはABABという女性向けファッションビルがある。上野の109だと思ってもらって構わない。ABABは洋服がとても安いし、下にシュークリーム屋さんもある。田舎から出てきて109が怖い人は、ABABに行くのがいいと思う。ABABには田舎者をそっと包み込んでくれるような安心感がある。
マクラはこのABABについて。ABABは「アブアブ」と読む。○I○Iは「オイオイ」と読まず、「マルイ」と読む。と、田舎者に役に立つ情報を教えてくれる一之輔師匠。そして、まさにABABがある上野広小路の御成街道に面した骨董屋が舞台の「普段の袴」に風景を重ねながら移行していく。気を抜いて笑っていたら、いつの間にか江戸時代に来ていて驚いた。
「普段の袴」は、骨董屋に侍が尋ねるところからはじまる。侍はいい袴を着ていて、いい煙管をもっている。「あの掛け軸の鶴は立派だな」と店主と喋りながら店で一服すると、火種が袴に燃え移ってしまう。慌てる店主に「いや、案じるな。これはいささか普段の袴だ」と、かっこよく侍は応じる。それを脇で見ていた男が、「かっこいいな、俺もやってみよう」と思い立ち、大家に袴をかり、骨董屋で実践するという噺。
夢中になってみていたので、メモの手は止まった。
一之輔師匠の落語には不自然なところが一つもない。大家の袴をかりようと思い立った男が放った一言
「よーし、大家の袴、燃やそ」
にしても、江戸時代の世界を邪魔する言葉は一切つかっていないのに、仲の良い友人の破天荒を笑ってしまうような親近感もある。
ABABと骨董屋を重ねるように、現代と落語を、自然に重ねることができるから一之輔師匠はエースなのかもしれない。
神田松之丞「正宗の婿選び~日本名刀伝~」
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神田松之丞さん
今度は、講談界のエース・神田松之丞さんが登場した。
ほのぼのとした落語界に突如としてあらわれた講談界からの刺客、とキャッチコピーをつけたい鋭さがある。上目づかいで語る姿も刺客のようだ。
松之丞さんが語ったのは、「正宗の婿選び」。「妖刀村正」で有名な刀工・村正と、その師匠である正宗の物語だ。
正宗は、たくさんの弟子の中から一番の刀工を選び、娘と結婚させることにした。そこで、村正はじめ3人の弟子が選ばれ、刀をつくり腕を競い合うことに。3人の中で一番実力があると言われていたのが村正。村正も自分が跡継ぎになれると確信していた。しかし、師匠・正宗が選んだのは、自分より格下だと思っていた貞宗だった。
納得がいかない村正は、正宗につめより、再試験を願いでる。それは、川下に刀を立て、藁を数本流すというもの。まずは、貞宗の番。川の水に運ばれた藁は、貞宗の刀にまとわりつく。「えい」と貞宗が気合を入れると藁は切れさらさらと流れていく。次に、村正。流れる藁は刀にするすると吸い寄せられていき、触れるか触れないかのうちに切れていく。
圧倒的な切れ味に弟子たちの嘆息が上がり、村正が得意顔をする中、やはり正宗は貞宗を後継者に選ぶ。なぜか、と問う村正に「お前の刀は切れすぎる。いたずらに殺気を帯びているのは、名刀ではなく妖刀だ」と言い放つ。そして、激怒した村正は正宗のもとを去ってしまう……。
この会で、師弟関係をテーマにした話を熱く語る松之丞さん。びっくりするようなド直球。鬼気迫るものを感じて痺れた。村正の驕り、怒り、師匠の矜持をくどいくらいに語る、最高のエンターテイメントだった。
これからも切れ味の鋭い刀で、講談界の刺客として、快刀乱麻するところを見ていきたいと思った。
柳家ろべえ「ダイジェスト文七元結」からの「二番煎じ」
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柳家ろべえさん
満を持して今回の主役が登場した。師匠・喜多八が開口一番をつとめ、落語・講談の両エースが脇を固めたこの会。それもこれも、ろべえさんをがっちりサポートする企画意図を感じる。いったい何をするのか。期待感が会場を包んだ。
大きな拍手の中、高座にあがる。背が高い。左の頬に背を添えた。まぁね、と一呼吸おき会場を見渡すろべえさん。客席はみんな、ろべえさんの味方だ。
師匠・喜多八とその師匠である小三治の話をマクラにふる。ふわふわとした語り口で、文七元結のダイジェスト版のようなものをやった。かなり長い噺を編集し、5分ほどにまとめあげていく。会場はおおいに沸いた。でも、「初心者でも楽しめる」渋谷らくごで、パロディをしてなくても、客席はちゃんと、ろべえさんの味方だ、信じてほしい、という思いがぬぐいきれなかった。
「大丈夫です。ちゃんと噺もします」と言い、はじめたのが「二番煎じ」。ある寒い冬の夜、防火のために夜回りをする町内の人たち。「火の用心」の言い方でふざけたり、休憩所でこっそりお酒を飲んだり、しし鍋を食べたりする噺だ。
冬の夜の袖も出したくない寒さ。部屋の中に入ったときの、ほっとする暖かさ。冷えた胃にしみこんでいく日本酒。口の中を火傷してしまうくらい熱いねぎ。ストーリーはないけれど、五感を刺激していく。
冬の夜にぴったりの噺だった。客席の多くは日本酒を飲みたくなったに違いない。ろべえさんのやわらかい語り口とマッチしていた。気負わないでやったのかもしれない。
ろべえさんは「ぴったり」の噺をしたと思う。でも、落語そのものとは関係のない次元で、やっぱりホームラン、もしくは空振り三振をしてほしかった。すごく勝手だけれども、師匠が開口一番をつとめたこの会で、フルスイングするろべえさんを、私はみたかったのかもしれない。
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お年玉口上の様子
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「渋谷らくご」1/12 公演 感想まとめ