渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 2月12日(金)~16日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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2月15日(月)20:00~22:00 立川吉笑、雷門小助六、春風亭一之輔、玉川太福

「渋谷らくご」創作大賞、玉川太福がトリをとる会

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プレビュー

 この回、一番最後に出てくるのは玉川太福さん。2015年渋谷らくご「創作大賞」を受賞された、浪曲の方です。浪曲とはなんなのかざっと簡単に説明してみます。「節」(ふし)という特徴的なメロディにのせてストーリーを伝える部分と、「啖呵」(たんか)というセリフなどを語る部分。この「節」と「啖呵」を繰り返すことで物語を進めていく芸能が浪曲。そして日本古来から受け継がれて平家物語とか都々逸とかで使われている手法「七五調」を駆使して構成されています。7文字の言葉を5文字の言葉を組み合わせて浪曲の言葉は構成されている。だから心に残るんです。もちろんだからといって難しいわけではなく、知識がなくても大丈夫。そのまま体感してみてください。浪曲師ひとりひとりに自分の節回しがあります。とくにわかりやすく、ときに世界観を説明する、優しい世界を描き出す骨太の太福さんの浪曲に心を動かされる事間違いなしです。

 そして太福さんを支えるのが、超重量打線とも言える個性的な3人の落語家さんです。トップバッターの吉笑さんは、入門6年の若手でありながら、『現在落語論』という落語の手法論を書いた本を出版したりと、新しい落語界のルールをつくり続けている男。小助六師匠は技巧派で、そして「じんわり」と小助六師匠の空気に会場が包み込まれていくのが心地よい。それでもって小助六師匠、どこか影が見えるので、なんだか守って上げたくなるような気持ちにさせてしまうという技も持っています。そしてこの後ろにあがる一之輔師匠とのコントラストも楽しんでいただきたいです。

 一之輔師匠は、いま落語界一の売れっ子といっても過言ではありません。太福さんの新たな船出を祝して出演してくださいます。落語に興味をもった人に、なにをすすめたらいいのか。最短の答えは「一之輔を追え」です。寄席、独演会、渋谷らくごなど、さまざまな落語会に出演なさっています。そのなかで、自分の好みの落語家さんを見つけるもよし、一之輔師匠に戻るもよし。一之輔師匠は、そういった意味で要の存在、そしてずっと面白いです。この人を追いかけていれば、間違いないのです。

 さあそのあとに。玉川太福さんがなにをやってくださるのか。「わかりやすくて楽しい浪曲」、それがこの方のモットーです。

レビュー

文:井手雄一 男 30代 独身 会社員 趣味で水墨画を描いています

2月15日(月)20時~22時「渋谷らくご」
立川吉笑(たてかわ きっしょう)「桜の男の子〜立川春吾・作〜」
雷門小助六(かみなりもん こすけろく)「禁酒番屋」
春風亭一之輔(しゅんぷうてい いちのすけ)「鈴ヶ森」
玉川太福(たまがわ だいふく)、玉川みね子(たまがわ みねこ)「流山の決闘 任侠流山動物園」

FROM DUSK TILL DAWN

立川吉笑さん

  • 立川吉笑さん

    立川吉笑さん

「デヴィッドリンチ」の映画みたいな悪夢の世界でした。
最初に出てこられたときは、「今日はテレビが来てるよ~」とか、「本が出たから買ってね~」などと、なごやかにおっしゃっているなと思ったら、気が付いたらそのまま「無間地獄」の中に引きずり込まれました。
映画「ブルー・ベルベット」で明るい50年代の陽射しを映していたら、そのまま芝生の中にカメラが入り込み、地虫のひしめき合う「この世の裏」をシームレスに見せられるのとまるで同じ感覚です。今朝、出勤したらいつものバス停に何かが落ちている。「人間の手」だった・・・みたいな。もういつもの日常に引き返せない!
段々と劇場の雰囲気も、紫がかったような怪しい感じに思えてきて、「死んでいたんですよ」というところで、ほかの観客と一緒に爆笑してしまうものの、よくリンチ映画の中に登場する「この世ともあの世ともつかぬ場所」で行われる耽美なコンサート、さながら「サバト」かなにかの儀式に参加しているような気分になり、自分の笑い声を薄気味悪く感じるという、生まれて初めての経験をしました。
いろいろと悩みましたが、「消えた死体」、「桜の話をする子供」、「解けても残る謎」などの要素を総合的に勘案した結果、この感覚はリンチ作品の中でも、「マルホランド・ドライブ」という映画を見た印象に一番近いという結論に達しました。

雷門小助六さん

  • 雷門小助六師匠

    雷門小助六師匠

暖かい春の夜の風が香るような、大変気持ちいい気分になりました。
最初こそ、吉笑さんの後遺症で、なで肩でひょろりとしておられ、にこりとした優しい笑顔もまるでメフィスト・フェレス。悪魔のそれにしか見えず、まくらで「子供が持ってきたのが、一升瓶でした」というお話すら、何やらとんでもなく怖ろしいものに聞こえてガタガタ震えていましたが、次第に心に血が通っていき、人間の世界に戻ってきたんだなと安堵しました。
それどころか、よくよく聞いていると登場するキャラがみんな可愛く、とりわけ門番をしているお侍さんが、登場するたびに、かなり段階的に酔っ払っていく様子に心がときめきました。たぶんこの酒屋だけではなく、ほかの酒屋からの刺客も、あの手この手でやり返し、そのたびに飲んでいたのでしょう。おそらく相当なやり手だと思います。しかし、お酒に関しては物凄くだらしない感じがたまらなく出ており、私はこのギャップにこの門番さんに萌えまくりました!そりゃそうですよね~飲みたいですよね~。しかしお殿様も早く禁酒令を解除しないと、最後のしょんべん小僧が早晩「アル・カポネ」になってしまうことは目に見えています。なんと平和な世界なんだろう。最初に二人死んでいますが、最後は「ま、あるよね~」という大らかな気持ちになっていました。
そして気が付くと、空には雲一つない夜空。頬撫でる暖かな春の気配・・・まあ月見酒だから本当は秋なんでしょうけど、そこにまるいお月さまがぽっかりと浮かんでおり、水墨画で書くなら一番墨を薄くして描くような、一枚の明るい夜の宴の絵が、心に出来上がりました。
最後に「小雷」という印を押したら完成です。美しい。

春風亭一之輔さん

  • 春風亭一之輔師匠

    春風亭一之輔師匠

気が付くと、最初は紫がかっていた高座も、今ではすっかり暗がりに映える鮮やかな赤に見え、さて次はどんな方が出てくるのかとワクワクしていると、今度はおやくざさんが(すみません)出てきたのかと思って、別の意味ですくみあがりました。
こんな怖そうな方が一体ぜんたいどんな話をするのだろうと思っていたら、まくらでは角のたった時事ネタ。そして本編ではハイスピードのやり取りだけで、笑いを自由自在に取りまくるという、そのあまりの感性の「若さ」、そして展開の「速さ」、芸の「細かさ」に度肝を抜かれました。私含めて、お客さんがみんな馬鹿みたいに笑っていました。
何か人と一生懸命話をしていたり、それこそ今みたいに感想をあれこれ書いたりしていると、得体のしれないもやもやの中にふっと「あ、ここか」と、「それ」をやるために一番肝心なものが、掴めたりすることがあります。そんな例えるなら「透明なうなぎ」みたいなやつを、一之輔さんが「品川」へやってきたあたりで、完璧に捕まえているのがはっきり見えました。
もちろんその「うなぎ」は私の心ともつながっていますので、「暗くて怖いから、手をつないでよ~。提灯がないよ~」と駄々をこねる、iphone6を持っていそうな最近の若い泥棒が、何度も何度も兄貴に頼むと、とうとう根負けした兄貴が「ちっわかったよ!仕方ねえな」と手をつないでやった瞬間に、「やった!このやくざみたいな人に手をつないでもらった!」と、その優しさがキャラを通して私の胸になだれ込み、嬉しさがさく裂しました。
この人の温かみを感じる漆黒の闇。手で触れるけど見えないなにか。
そしてそれがため、よけいな余韻を残さずに去っていくという。

玉川太福さんと玉川みね子さん

  • 玉川太福さん・玉川みね子師匠

    玉川太福さん・玉川みね子師匠

週刊誌の王道の少年漫画みたいな「浪曲」でした。
「浪曲師」というと、私は小学校のころにやっていたファミコン「くにおくんの時代劇だよ全員集合!」に出てくるストーリーテラーの「てくのす亭」というキャラ以来の再会になるのですが、三味線を弾くみね子さんと太福さんの、セッションでもなく、またバトルでもない「息の読みあい」と「リズムのつかみ合い」は、相当にスリリングで、考えに考えた末、私のなかで「浪曲」とは、長年のスラム生活をコンビでのし上がってきた、ヒューマン・ビートボックスとレゲエ・シンガーであるという結論に達しました。
歌う内容もリアルなストリートの現状というよりは、「これが俺たちのDNAに刻まれた歴史だろ。you know?」といった感じなので、ここは「ラップ」というよりあえてレゲエです。またDJというにはあまりに三味線がスイングしていたので、これは「ボサノバ」か迷いましたが、もっとフィジカルな気がするため、「ボイパ」と考えました。
「どがちゃが」というフライヤーを読むと、「啖呵」というフック、「節」というフローという部分があるようで、今回一番カッコよく感じた「啖呵」は、「おれは四日、何も食ってないぜ!」というもので、このパンチラインは強烈に心に食い込みました。
また「節」つまりフローの部分では、それこそアニメで「止め絵」を次々に映して、例えばでかい岩に追っかけられたり、穴に落ちそうになったり、森に迷ったりとなんのかんのあったけど、最終的にボスキャラの城につきました!みたいな、まったりとしたバイブスがびろんびろんに出ており、「このままずーっとやってくんないかな」などとひたすら気持ちよくなりました。これがレゲエでなくてなんだというのでしょう!?
またみね子さんとの、「おっと、この曲は弾けないよね!無茶ぶりごめんよ」的ないちゃいちゃ感もたまらず、一発で二人のファンになりました。
あと、最後になぜ少年漫画的だったか書くのを忘れていたので、付け加えますと、「友情、努力、勝利」がテーマだったからです。あと裏テーマとして、上野のくだりで「人間」が動物のなかで一番怖いという「社会的メッセージ」も強く感じました。「本当に檻のなかなのは、いったいどっちだい?」ということだと思います。
最高にアがりました。「浪曲」超ヤッベー!

以上、最初は怪しい魔界の瘴気に満ちた悪夢のような夜に連れ込まれると、急に明るい花香る月夜へと手をひかれ、ひととき夢ごこち遊ばせてもらったあと、漆黒の闇を猛スピードで滑走するジェットコースターに乗ってすかっと最後のトンネルと抜けると、そこは千葉県で動物園に朝日が昇っているという、まさに「日没から夜明けまで」と題すべき素晴らしいライドを見せていただきました。
またぜひ、この布陣、この順番でのNEXTも見てみたいです。
どうもありがとうございました。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」2/15 公演 感想まとめ