渋谷らくごプレビュー&レビュー
2016年 2月12日(金)~16日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」が今年もスタートします。この回は、自分でつくった創作らくごをネタおろししてもらう企画、つまり世界初公開の落語を披露するという回です。だから落語家さんにも客席にも、緊張感が漂っています。そこで初公開される創作らくご、落語家と観客の共犯関係ともいうような新しい熱が生まれます。そしてその熱が爆笑に変わる瞬間、ぜひ一度味わってもらいたい。そして落語家さんが一席終わった時に噛み締めている達成感と、惜しみない拍手。この企画の醍醐味です。
この企画を取り仕切るのが「創作らくごの鬼」とも言える林家彦いち師匠。1週間で3つも創作らくごをつくったりするような異次元の創作らくご能力を持った師匠です。創作怪獣です。今回彦いち師匠に呼ばれた4人の若手。笑二さんは、シブラク初出場。初出場で、なおかつトップバッター。羽光さんは、昨年の「しゃべっちゃいなよ」でも異色の創作らくごを放ち続けた男。R-1グランプリも大健闘! 志ん八さんは、今年公開された松山ケンイチさんが主演をつとめる映画「の・ようなもの の ようなもの」の劇中で使われた創作らくごをつくり出した持ち主。彩大師匠も、渋谷らくご初登場。どのような世界を描くのか楽しみです。
ぜひこの出演者の方々はツイッターなどで発信している方々です。ネタおろし直前になって悩んだり、苦しんだりしている様子を垣間見る事ができます。ぜひドキュメンタリー的な楽しみ方でも、「しゃべっちゃいなよ」を思う存分お楽しみください。
レビュー
文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam
「渋谷らくご」2016年2月公演
▼5日目 2月16日 20:00~22:00
創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」
立川笑二(たてかわ しょうじ)-耳たぶいらない
笑福亭羽光(しょうふくてい うこう)-妄想番頭
古今亭志ん八(ここんてい しんぱち)-とびおり
三遊亭彩大(さんゆうてい さいだい)-艦内の若い衆
林家彦いち(はやしや ひこいち)-謝罪指南所
「しゃべっちゃいなよ」シーズン2の幕開け
「しゃべっちゃいなよ」シーズン2の幕開けです。初登場の彩大師匠と笑二さんを含む5人の出演者。タツオ氏曰く「丸顔ぽっちゃり」大会となりました。そして、トップバッターの笑二さんから始まる5人全員が、その場にいない立川吉笑さんをいじる展開となり、最後にゲスの極み吉笑が完成しました。このレビューは核心部分のネタバレは避けますが、読み物として成立するように中身には触れています。
立川笑二-耳たぶいらない
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立川笑二さん
入門5年目、25歳。普段は古典中心の笑二さん。ネタおろし新作は「ほぼ初」(本人談)とのことでしたが、さすが談笑師匠のお弟子さんで、吉笑さんの弟弟子。見事な新作落語を聞かせてくれました。
前日に28軒(!)もはしご酒をして、重要なプレゼン資料が入ったノートPCをなくしてしまった佐藤くん。部長や後輩社員から厳しい言葉を投げかけられるが覚えがない。そこ全軒をしらふで付き合った後輩の山田くんに、前日の自分の行動を確かめるという話です。
実はこれ、ミステリー落語なんですね。前半に、部長や後輩たちが佐藤くんに言った嫌みと苦情の意味が、後半では後輩の山田くんの証言で次々と解き明かされていくので、笑いながらもカタルシスが得られます。そして最後に山田君の不気味な本性が明かされる。そこで一気にホラーに転換して、背筋が寒くなりました。初めてのチャレンジでここまで骨格のしっかりした落語が作れるなんて、潜在能力半端ないですね。古典落語が体に入っているので、会話も自然で聞き心地がよかったです。そしてマクラで振った吉笑さんのエピソードは面白過ぎです。
笑福亭羽光-妄想番頭
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笑福亭羽光さん
吉笑さんの著書「現在落語論」で「自分の創作を全否定された」と憤慨しながら、吉笑流創作論(コントNG、伏線必須、着物設定必須、下ネタNG)に則って作りました、をフリに、大阪・船場の問屋を舞台にしたお店もので挑んだ羽光さん。「番頭はんと丁稚どん」の世界ですね。
吉笑流と見せかけておいて、実は全部が羽光流。「自分が好きな落語はこういうのなんだよね」という小バカにした感が好きです。
番頭、権助、定吉の3人で行われる「男だけの朝礼」って、ゲスで甘美でいろんな香りが匂ってきそう。妄想交換は、羽光さんが得意とする大喜利的展開で大爆発。もろ下ネタでしたが、男子校の教室で繰り広げられる会話みたいで、いやらしさはみじんもありません。健全なエロ話です。「岩下志麻はOKだ」「さとみの鼻をンパンパしたい」など名言が飛び出す展開に興奮しまくり。私も含めて、多くの男性が「賛同!」と叫んでいたに違いありません。
古今亭志ん八-とびおり
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古今亭志ん八さん
志ん八さんが登場すると何か、安心するんです。風貌もそうですが、落語がコンパクトで、わかりやすくて、腹にもたれない。落語らしい落語なので、安心して身を委ねることができます。
今回もシチュエーションは1つで、落語本編は10分くらい。登場人物は、自殺の名所となっている吊り橋から飛び降りたい落語家と、それを説得して止めたい元刑事の2人。志ん八さんのナレーションで話が進んでいきます。自殺志願者と元刑事の会話が劇的かというと、そうでもないんです。落語家も元刑事も真剣にしゃべるけど、どこか考え方が変な人。ギャグを随所に挟みながら、会話がテンポよく進んでいって、切れ味がよいサゲが付く。元刑事が警察を辞めた理由がサゲへの伏線になっていて見事です。定番のお菓子を食べているような、志ん八さんの新作落語。その安定感ぶりは、たまりませんね。
三遊亭彩大-艦内の若い衆
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三遊亭彩大師匠
彩大師匠は昨年、昇進したばかりの真打です。二ツ目時代、新宿末広亭の深夜寄席では、自作の新作落語でブッチギリの笑いを取っていました。客層が似ているシブラクなら絶対にハマルだろうなーと思っていたら、その通りでした。
彩大師匠の特徴は、現代を切り取るセンスが優れていること。今の社会、文化、風俗を巧みに取り込みながら、ひねくれた形でアウトプットしてくれます。自分たちと同じ空気を吸っている人が落語をやっていると実感するので、共感度が半端ないのです。
今回のお話も、登場人物がまさに現代風の若者です。組織より個人を優先、薄っぺらいのに自信まんまん。そんな若者たちと、中間管理職のおじさんの価値観のギャップが彩大さん自身の「おじさん目線」で描かれます。
非凡さを感じるのが、その舞台が宇宙船だということ。テラゆとり世代の「艦内の若い衆」である川谷くん、木部さん、宮崎くんらが、「結婚するから地球に帰る」、「育児休暇を取りたい」と言って沖田艦長を困らせます。それに対する沖田艦長のつっこみが「テラハじゃねえぞ」「流れ星にするぞ」といちいち面白い。宇宙ならではの「下ネタおやじギャグ」も炸裂しました。
ワンテーマで走るのかなと思ったら、後半は沖田艦長の秘密が明かされ、おじさんの悲哀レベルを超えた、切ない運命が描かれました。最後でさらに意表を付き、時代を逆手に取ったサゲに。まさに序破急の展開でした。SFの設定を借りたばかばかしい話ですが、裏設定が凝っていたり、話が思いも寄らない展開に転んだりして最後まで飽きさせない、真打の格を見せてくれた彩大師匠。やっぱすごいです。数年ぶりのネタおろしと言っていましたが、これからもいろいろな新作落語が聞いてみたいですね。
林家彦いち-謝罪指南所
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林家彦いち師匠
フェイクドキュメンタリーのようなファーストシーンにやられました。正直言うと、「彦いち師匠だったらあり得るかも」と思ってしまいました。疑ってすみません。
物語は、謝罪指南所を開いた男のもとに、某師匠に謝りたいという彦いち師匠をはじめ、いろいろな人がやってきて大繁盛という話です。そこは彦いち師匠、「謝罪したい」と指南所に顔を出す人が普通ではありません。想像が自由に膨らむ落語であることを逆手にとって、あんな人や、あんな神や、あんな仏がやってきます。当然のように吉笑さんも。
ひと通り笑った後、謝罪指南所の師範の元に現れた「心の鬼」。その鬼が、謝罪に代わる言葉として提案したフレーズは心に染みました。謝罪流行りの昨今、師匠の提案に一票です。
今回の5人の噺の中では一番ごつごつした話なのですが、出番直前まで考えていて、思いついたことは出し惜しみすることなく放り込んでくるのが彦いち師匠。ネタおろしにかける熱さは飛び抜けていて、今回も心に響いてきました。
【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」2/16 公演 感想まとめ