渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 5月13日(金)~17日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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5月14日(土)14:00~16:00 瀧川鯉八、橘家圓太郎、玉川奈々福、古今亭菊之丞

「渋谷らくご」フルスイングの演者たち

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プレビュー

この回の渋谷らくごは、渋谷らくごの中でも強打者を揃えました。躊躇なくフルスイングをしてくださり、そして必ずホームランを打つ。終演後は、「いままで知らなかったけれども、面白い!」と衝撃にやられていること間違いなしの4人です。

 鯉八さんは、落語の表現領域を拡張し続ける若手。いままで落語が持っていなかった表現を次々と発明しています。鯉八さんを見終わった後、鯉八さんの凄さとともに落語ってすごいと感じられるはずです。
一転、圓太郎師匠は、THE熱血落語家+チャーミングなキャラクター。顔を真っ赤にして発せられる熱量MAXな言葉にぶっ飛びながらも、照れがあってチャーミングだからそこが可愛いとも思えてしまいます。身辺雑記での毒づくさまも、少し前までどの町内にもいた、口うるさいおじさんを彷彿とさせます。ああ、叱ってくれて、ありがたかったな、ああいうことを伝えたかったんだな、と師匠の落語を聴くとジンワリ思い出すのです。
奈々福さんは、「シブラクの唸るおねえさん」を自称してくださる浪曲の方。浪曲という芸能を知らなくても問題ありません。奈々福さんの気風の良さと、粋なおねえさんが語る素敵な浪曲の世界は、「浪曲にハマってしまった」という方を増やし続けています。
最後に登場する菊之丞師匠。日常生活から落語に登場するような口調で生活している師匠は、身に纏っている空気が楽屋から違います。師匠が登場すれば、会場の空気は一変します。上品で優雅な空気が会場を包み込むのです。そして師匠の語り口によって、気付かないうちに落語の世界にログインしてしまう。極上の体験です。
何日も、何か月も、何年も、余韻に浸れる落語は、こういう会から生まれるものです。

レビュー

文:瀧美保 (Twitter:@Takky_step  事務職 趣味:演劇・美術鑑賞、秩父に行くこと  )

5月14日14時~16時「渋谷らくご」
瀧川鯉八(たきがわ こいはち)「ぷかぷか」
橘家圓太郎(たちばなや えんたろう)「かんしゃく」
玉川奈々福/沢村豊子(たまがわ ななふく/さわむら とよこ)「梅ヶ谷江戸日記」
古今亭菊之丞(ここんてい きくのじょう)「火焔太鼓」

瀧川鯉八-ぷかぷか

  • 瀧川鯉八さん

    瀧川鯉八さん

独特のメロディーで何度も繰り返される、「なんかいいことないかな」というフレーズ。
鯉八さんの少し鼻にかかった声とねばるようなしゃべり方、そして不思議な軽妙さが作り出す鯉八ワールド。
よくわからないままにその世界に足を踏み入れて、気づいたら現実に戻ってきていたような、
不思議の国のアリスの物語を聞かせてもらったような、奇妙な余韻(笑)。

私が初めて鯉八さんをお見かけしたのは「俺ほめ」だったと思います。
その時も、こんな落語があるんだと、なんて独特な落語をする人なんだと驚きました。
正直ちょっと苦手かも……とその時は思ったにもかかわらず、なぜか気になる記憶に残る鯉八落語。
そしてしばらくすると、怖いもの見たさなのか、また見たくなる(笑)。
独特の感性を持つ人にこそ見てほしい、その人がどんな感想を持つのかぜひ聞いてみたい落語家さんです。
きっと何かが生まれる……化学反応が起きるんじゃないかしら、と思ってしまうのです。

くせのあるしゃべりのリズム、1人の男の盛衰の極端さへの驚き、けれども意外に淡々と物語が進む為か、
その世界に入り込むというより、その独自の世界を覗かせてもらったような感覚が残りました。
「まんたろう!まんたろう!まんたろう!」
のコールとゆるい仕草が楽しい。
村人の、「ホッチキスたろうの歌が聴こえない……声なき声で聴けー!」、あそこ好きです(笑)。

落語の楽しさを分かち合いたいというより、自分以外の人の感想が聞きたいと思ってしまうのは、
鯉八さんの作戦にまんまとかかってしまったということなんでしょうか。


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橘家圓太郎-かんしゃく

  • 橘家圓太郎師匠

    橘家圓太郎師匠

出てきてそうそう、あんな落語に拍手しちゃだめでしょ、と鯉八さんをいじる圓太郎師匠。
なんだあれは……と思いながらも気になってずっと聞いてしまったとのこと。
いろんな落語があると認めながらも、どう扱っていいのかまだ決めかねている様子が面白い。

そしてその流れから決めたのかどうか、演目は「かんしゃく」。
仕事から帰ってきた主人に出迎えがないこと、外にほうきが立てかけてあること、すぐにお茶が出てこないこと等々、
くだらないことにかんしゃくを起こし、家の者に怒鳴り散らす。

色んな怒り方があるだろうけれど、圓太郎師匠はたまりかねて、といった様子で徐々に怒りがエスカレートしていく。
それも全部本気で、力いっぱい、体全体で怒っている。
体中から湯気が出るんじゃないかと思う位、激しく指をさし全身で怒っているように見えて、そうして怒れば怒るほど、
怒っている内容のくだらなさとのギャップがとてもおかしい。
あの迫力で怒っているからこそ出てくる笑い。
これぞ落語だぞ、というエネルギーを感じたのは、私の勝手な解釈かもしれないけれど、
そんな鯉八さんからの流れが楽しかったです。

後半のなめるように点検するところと好きなアイスクリームを食べる姿の可愛らしさ、ここのギャップも楽しくて、
かんしゃくという噺の面白さをたくさん堪能させて頂きました。
やる方は大変でしょうけれど、圓太郎師匠で怒っている噺をもっともっと見てみたいです(笑)。


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玉川奈々福・沢村豊子-梅ヶ谷江戸日記

  • 玉川奈々福さん・沢村豊子師匠

    玉川奈々福さん・沢村豊子師匠

私の好きな落語の稲川によく似てるなぁと思いながら聴かせて頂きました。
浪曲はまだまだわからないことばかりで、稲川との関係性は知らないのですが、その違いの発見が楽しい。
上方から江戸に出てきた相撲取り・梅ヶ谷が橋で絡まれ、巻き込まれて怪我をしたおこもさん(乞食)に
親切にしたところ、そのおこもさんの頭がお礼にやってきて、結果、頭が梅ヶ谷に説教するところ、
そして梅ヶ谷とその弟子たちのやりとり等々、私の知っている稲川にはなかった場面がたくさんあって、
それによって話に奥行きが出ていたように思いました。
またそういった違いの中で、梅ヶ谷やその弟子たちの人柄が丁寧に描かれていて、会話のやりとりがとても面白い。
奈々福さんのキャラクターの描き方でしょうか、それぞれ一人一人がくっきりと違っていてとてもわかり易く、
中でも兄弟弟子のやりとりが好きです。
幼さゆえか、弟弟子ののんびりとした雰囲気と愛らしさ、兄弟子のしっかりしようとしながらも、
大事な所をキメられないおかしさ。
二人がいるからこそ、おこもさんの頭とのやりとりの楽しさや、梅ヶ谷の人間的な大きさがしっかりと伝わり、
とても魅力的ですっかり惹き込まれて込まれていました。
「おこもさんでもお大名でも梅ヶ谷のご贔屓に変わりはございません」とは、なんともかっこいい。

3年は江戸で踏ん張るべきだと説教するおこもさんの姿、また大勢のおこもさんが梅ヶ谷を迎えにくる姿、
その場景のおかしさ、そして汚れた格好を取り去るところまで、奈々福さんのうなりがもう本当に格好いい。

浪曲の魅力を再確認です。
最後に豊子師匠を気遣いながら高座から降りる姿も素敵でした。


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古今亭菊之丞-火焔太鼓

  • 古今亭菊之丞師匠

    古今亭菊之丞師匠

様々な売り声を気持ちの良い声で聴かせてくれる菊之丞師匠。
一気に相撲の世界から庶民の暮らしへ案内されて、なんの話かなと期待を膨らませていると、
始まったのが火焔太鼓。
最初から最後までテンポのいい夫婦のやりとり、楽しそうに太鼓をたたく小僧さん。
リズミカルで聴いているこちらも楽しくなってきます。
奥さんにはやられっぱなしだけれど、意外に飄々としている古道具屋のご主人もいい。
太鼓を売ることになり、手いっぱいに申せと言われて本当に手いっぱい広げる仕草が好きです。
ぱっと大きく広げる手、そして10万両……めいいっぱい頑張っているその感じがなんとも言えません(笑)。

太鼓が300両で売れて主人は驚いているけれど、さらりと聴かせるのは菊之丞師匠の持ち味でしょうか。
勢いは衰えずヒートアップしていくよう。
そして300両を抱えて帰ってきた主人と奥さんのやりとりがまた楽しい。
「入るなって言われると思ってるんだろう……入っていい!」という、そのおかみさんの「入っていい」の
言い方がなんとも可笑しい。
まるで愛犬に許可を出すような……と言ってしまうと言い過ぎでしょうか(笑)。
その言い慣れた感じが、この夫婦はいつもこういうやりとりをしているんだろうなぁーと感じさせます。

駆け抜けるようにサゲまで気持ちよく、素敵な時間をありがとうございました。
今度は逆にゆったりのんびりを味わえる噺も聴いてみたいですね。


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【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」5/14 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ