渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 6月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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6月10日(金)18:00~19:00 入船亭小辰、入船亭扇辰

「ふたりらくご」凛とした師弟

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プレビュー

 師弟の落語を聴く一時間。
この師弟は、なんといっても一本すーっと「筋」が通っている清々しい気持ちよさがある師弟。落語家になるためには、必ず誰かに弟子入りをしなくてはいけません。その時に、誰を師匠に選ぶのか。そしてその師匠と一生をともにする覚悟を持つ。そして師匠の方は、弟子に自分の落語や生き方を授けるわけです。自分が師匠にそうしてもらったように。
 小辰さんが、24歳の時、一生の師匠として選んだ男が扇辰師匠。上質で、上品。その芸を一心に継承しようと格闘しているのが小辰さん。師匠と同じようにすっとして、澄んだ落語。
 師弟を聴く楽しみは、血のつながりがないまったくの別人なのに、弟子がどこか師匠に似ているというポイントを感じるところ。
エッジききまくりの「入船亭スピリット」を堪能してくださいませ。扇辰師匠のリクエストで、小辰さんが後ろにあがります。

▽入船亭扇辰 いりふねてい せんたつ
25歳で入船亭扇橋に入門。28年目。2002年3月真打昇進。橘家文左衛門師匠と、柳家小せん師匠と3人で「3K辰文舎」(さんけいしんぶんしゃ)というバンド活動をしている。このバンドがまためちゃくちゃかっこいいです!
▽入船亭小辰 いりふねてい こたつ
24歳で入門、現在入門9年目、2012年11月二つ目昇進。趣味、歩く事。

レビュー

文:しのぶ Twitter @sakusaku_shio
20代 最近落語とキンプリが生きがい

6月10日月曜日18:00~「ふたりらくご」
入船亭扇辰(いりふねてい せんたつ)「野ざらし」
入船亭小辰(いりふねてい こたつ)「紺屋高尾」

ハート撃ち抜かれました

6月渋谷らくごの最初は入船亭扇辰師匠とその弟子の小辰さん。
シブラクでのおやこ会は初めてなのでどんな雰囲気なのかな~と始まる前からわくわくした会でした!

入船亭扇辰師匠

  • 入船亭扇辰師匠

    入船亭扇辰師匠

扇辰師匠の出囃子は「から傘」。何ともお祭りみたいで楽しげなメロディ。
扇辰師匠の落語、初めて聴きますが見た目からの第一印象は
「(お茶たててくれそう…)」
歴史上の人物で例えるなら千利休みたいな、ほんわかとした空気を纏っていらっしゃる。千利休に会ったことありませんが(笑)
しかし客席をぐるっと見渡す眼はめちゃめちゃ鋭い!鷹のようだ!さぁて何をかけようか…と企んでいるようである。
三味線のまくらからガラッと本編へ。
真打の師匠方を聴く度に思いますが、どうしてこう、人が、空気がこんなにも変わるのか不思議。

この「野ざらし」、まず登場人物がものすごくカワイイ。調子のいい八っつぁんは実は幽霊が苦手なところがあったり、先生は先生できっと偉いお人だろうにちょくちょくお茶目なところがあったり。
2人ともそれぞれに可愛いですが、のみで壁に穴開けられてもそのことについては何もツッコまないあたりから先生と八っつぁんの信頼関係(?)が窺えます。二人合わせても可愛い。
噺はすすんで八っつぁんが色っぽい女幽霊目当てに釣りへいく場面。想像力溢れすぎる八っつぁんの独り言…ここらへんから思いました。
「(何人いるんだこの人)」
落語ですからもちろん1人なんですけど、八っつぁんによる一人芝居とか、隣に居合わせた近藤さんたちとの群像劇が目に浮かぶ様で。1人なのに群像劇。

「野ざらし」はアニメ「昭和元禄落語心中」で放映され、生で観たいな~と思っていました。山寺宏一さんが演じる助六が楽しげに歌ってるシーンがとても良かったので、子どもの小夏も好きになるはずだよなぁと。
妄想が膨らんで思わず歌い出してしまうところが、某世界一有名なネズミがいるアニメ会社が作ったアラビアンなアニメの全身青色魔神が歌う「フレンドラ〇クミー」を思い出しました。
例の全身青色魔神も助六の声優山寺宏一さんがやっておりますが「フレンド〇イクミー」は一発録りだそうです。すごい…
扇辰師匠の表情筋がめちゃめちゃ柔らかいし中に誰かいるんですか?と問いただしたくなるような演技力。
扇辰師匠、調べたら52歳だそうです。こう、52歳のナイスミドルが着物きて舞台上でわーきゃーやってるんですよ…最高じゃないですか???
初めてながら扇辰師匠の魅力を語るとすると、緩急にあると思いました。
にぎやかな時はそれはもう愉快に、引き込む時は時が止まったように。集中の度合いをちょ~どいい具合にコントロールされているようでリラックスしながら楽しむことが出来ました。

入船亭小辰さん

  • 入船亭小辰さん

    入船亭小辰さん

高座に座って、最初の一言が「弟子です」
「(せやな!?)」思わず心中でツッコンでしまいました。
小辰さんが演る女性が大好きなので、まくらが吉原の話題だったので初っ端ガッツポーズ。
演目は「紺屋高尾」。大好きな噺です。
小辰さんの久蔵はカタブツ感が凄い。真面目で素直でちょっと抜けてるところもある。見守りたくなる久蔵でした。
紺屋高尾は善人しか出てこない噺だなあと思います。吉原に行く久蔵を見送る親方も、実は一番頼りになる女将さんも、高尾太夫に会えるように助けてくれる籔井先生もみんな良い人です。
しかし小辰さんの紺屋高尾で一番衝撃的だったのは高尾太夫でした。
この噺をする時、あまり高尾太夫に焦点は当てられませんが、久蔵が高尾太夫に一目惚れした理由が「目がきれいな人だったから」というものでした。焦点が当てられるまではいかないものの高尾太夫のことを知りたくなる好奇心を刺激するには充分な言葉でした。
歴史にはあまり詳しくないのですが、吉原のイメージはあまりよくありません。遊女たちの待遇の悪さ、つきまとう病気。高尾は売れっ子の遊女とはいえ不遇な目にあっただろうし嫌な場面にもたくさん遭遇したはず。それでも実直に働いてる久蔵に「目がきれい」と言わせる高尾太夫…よほど精神が強い人だったのかな。じゃないと太夫クラスになれないのかな。

晴れて高尾太夫と夫婦の契りを交わした翌日、久蔵は天にも昇る気持ちで親方のところへ帰ってきます。
「たっだいまー☆」
ああ…もう、めっっっちゃ可愛い!!!!久蔵の気持ちも分かるけど超浮ついてるし小辰さんの笑顔最高か!?
トドメは約束通り久蔵のところにきた高尾太夫の一言!
「幸せにしてね」
「(するよぉー!!するするー!!!!(泣))」
某応援上映バリに叫びました。心の中で(笑)
こんないい女私が養いたい!!でも久さんがいるし!幸せになれちくしょー!!


「野ざらし」と「紺屋高尾」のコンボで大変心掻き乱されました。ありがとうございました。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」6/10 公演 感想まとめ

写真:山下ヒデヨ Twitter:@komikifoto