渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 6月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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6月14日(火)20:00~22:00 古今亭駒次、玉川太福、春風亭吉好、立川こしら、林家彦いち

林家彦いちプレゼンツ 創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」

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プレビュー

 2ヶ月に一度のお楽しみ、今月もやってきました創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」! 2016年第3弾。
落語には、時代を経る事によって継承され続けた古典落語と、演者さんが今現在つくりあげる創作落語に分類されることができます。「しゃべっちゃいなよ」は、まだ一度も演者さんが公演したことがない創作を、一番最初に披露していただくという企画です。演者はお客さんの反応を知らないから、計算通りにコトが運ぶとは限らない。お客さんは、ネタを知らないから想像できるかわからない。ある種の緊張感と高揚感が場を支配する、特殊な会として徐々に知られるようになってきている「しゃべっちゃいなよ」です。
出演者は、創作落語の鬼軍曹・彦いち師匠が選んだ方々。
今回は3人の若手と、2人の真打が挑みます。
駒次さんは、鉄道オタク、ヤクルトファン。吉好さんは、アニメや漫画、ゲームなどのオタク。圧倒的な知識量をフルに活用した創作らくごが飛び出すのか!? 
そして、今回は、昨年度創作大賞に輝いた浪曲・玉川太福さんが登場!日常の一コマを切り取り、わかりやすくて楽しい創作浪曲を得意としていますが、今回はどんなものが出来上がっているのか!? 
また、今回はなんといって立川こしら師匠が登場。普段は古典落語の使い手ですが、裏技として創作という技能ももった方です。先月は千秋楽のトリをつとめ、今回は創作ネタおろし。タフだよこしら師匠!
最後は今回も彦いち師匠です! 「しゃべっちゃいなよ」が始まって2年目、毎回ネタおろしをしてくださいますが、驚異のハズレなし。笑点に出てない「林家」も、すごいんだぞ! 熱狂と喧噪に支配された会場にぜひご来場ください。

▽古今亭駒次 ここんてい こまじ
1978年12月23日、東京都渋谷区出身、2003年入門、2007年2月二つ目昇進。趣味は鉄道に乗ること。「TEN」メンバー ▽玉川太福 たまがわ だいふく
1979年8月2日、新潟県新潟市出身、2007年3月入門、2012年日本浪曲協会理事に就任。声をかけると浪曲協会Tシャツを売ってくれる。
▽春風亭吉好 しゅんぷうてい よしこう
1980年12月12日、千葉県流山市出身、2009年6月入門、2013年8月二つ目昇進。趣味は、アニメ鑑賞。いま『おそ松さん』が登場する、落語松で全国的なブームをおこしている。
▽立川こしら たてかわ こしら
1975年11月14日、千葉県東金市出身、1997年5月入門、2012年12月真打昇進。自称イケメン落語家。HPで写真素材をダウンロードできる。
▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。
創作らくごの鬼。キャンプや登山を趣味とするアウトドア派な一面を持つ。集中する朝は、土鍋でご飯を炊く。

レビュー

文:木下真之/ライター  Twitter:@ksitam

▼6月14日 20:00~22:00
林家彦いちプレゼンツ 創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」

古今亭駒次(ここんてい こまじ)-カツノキセキ
玉川太福(たまがわ だいふく)/玉川みね子(たまがわ みねこ)-地べたの二人~湯船の二人~
春風亭吉好(しゅんぷうてい よしこう)-過程の二乗
立川こしら(たてかわ こしら)-大江戸ヒーローズ
林家彦いち(はやしや ひこいち)-忘却の音

90年代から創作落語を聞いていますが、文化、音楽、ファッションが90年代、00年代、10年代と進化してきたように、創作落語も確実に進化していますね。特に「しゃべっちゃいなよ」はその最たるものかもしれません。今回の落語4席は、情報量が膨大で、高座の上では競馬、アニメ、劇画、古典落語の固有名詞が当たり前のように連発されています。聞く側もこれだけの大量の情報を頭の中で処理しなければならないのですが、ほぼ満席のお客さんは普通に理解して笑っている。やるほうもやるほうだけど、聞くほうもどうかしています。一般度が低い落語が受けてしまうことに危惧する面はあるものの、これもシブラクの魅力であるなら、それはそれでありかなと思いました。

古今亭駒次-カツノキセキ

  • 古今亭駒次さん

    古今亭駒次さん

「鉄オタ」としても知られる駒次さん。初登場の今回は何と「馬」できました。しかも、100戦100敗の捨て競走馬が「カツノキセキ」が主人公。競走馬の創作落語はあることはありますが、本数は圧倒的に少ないんですよ。それは、落語の形ではやりづらいし成立しづらいから。
それでも百戦錬磨の駒次さんは、馬を擬人化して、独り言のようにしゃべりながら心情を説明します。人との会話はせずに、馬同士だけがしゃべるという独自の設定で。その間に「吉原」といった古典落語の要素も取り込んで、見事に落語にしていました。最後は「瞼の母」的な展開になっていくハートウォーミングなストーリー。駒次さんの経験と才能、優しさがあふれる話でした。
見どころは最終レースの実況シーン。10頭前後が出走したレースなのですが、「ヨバンファーストキヨハラ」「タシロマサシ」など馬1頭1頭に名前が付いていて、レース展開中には、馬の名前にまつわるギャグをぶっ込んでいく。こんな難しい芸当ができる落語家さんはそういませんよ。

玉川太福/玉川みね子-地べたの二人~湯船の二人~

  • 玉川太福さん・玉川みね子師匠

    玉川太福さん・玉川みね子師匠

「おかず交換」で2015年のシブラク創作大賞を受賞した太福さんの待望の新作でした。登場人物は、工場街にある「日の出電気」で工員として働くおなじみの先輩・後輩の齋藤さんと金井くん。齋藤の齋は難しいほうの齋です。今回は、この2人がただ「銭湯に入るだけ」の物語。齋藤さんのうざったさがいつもの3倍増しです。
節(うなり)のポイントは3回押し。「(服を)脱ぐときは下からじゃなくて上から脱ぐ」のフレーズも1回目で「おやっ」となって、2回目で「あーそうか」となり、3回目で「面白いなー」となります。瞬発力でなく、持久力でじわじわ持っていく浪曲ならではのスローペースがたまりません。「ボクサーブリーフを履いてみたい」の齋藤さんの気持ちまで3回押しです。「おかず交換」以来、金井君への関心が高まり、積極的になっていく齋藤さん。裸と裸の付き合いに男色の匂いまで感じてしまいました。さらに続編が期待される地べたの二人。最後に彦いち師匠から出された「あの設定」はいつか実現するのでしょうか。

春風亭吉好-過程の二乗

  • 春風亭吉好さん

    春風亭吉好さん

アニメは門外漢なのですが、アニオタの世界を突き進む吉好さんのひたむきさには感じるものがありますね。圧倒的でコアなファンがいて、その後ろ盾があることで自信を持って創作し、好きなことを気持ち良さそうにしゃべっている印象を受けます。創作の苦労は並々ならぬものがあると思いますが、それを待ち望むファンの力は大きいなあと最近の吉好さんを見ていて感じます。
今作のモチーフは「おそ松さん」。おそ松さんの6つ子のキャラを、笑点メンバーに当てはめて紹介するマクラで理解が進みました。本編は、おそ松さんのキャラや声優を巡るカップルの痴話げんかを、アパートの大家さんが仲裁するストーリー。アニメや声優を知らなくてもなんとなくそこで展開されている事態は理解できるので、マクラ入れて32分の大作に耐え切ることができました。

立川こしら-大江戸ヒーローズ

  • 立川こしら師匠

    立川こしら師匠

古典落語を独自の解釈でアレンジし、時にはまったく違う物語を作ってしまうこしら師匠。初の「しゃべっちゃいなよ」は、その才気、才能をいつも以上に感じる高座でした。今回のベースとなるのはおとぎ話のほうの「桃太郎」。でも主人公は鬼との世紀末戦争で敗れた太郎の弟の次郎。この次郎が、仲買の弥一、魚屋の熊、飯炊きの権助、魚屋の熊五郎、藪井竹庵の娘という、古典落語のスターたちを連れて鬼退治の旅に出ます。
劇画調で世紀末もの調。山田風太郎であり夢枕獏であり、白土三平であり武論尊であり、何でもあり。「初心者は置いていく」と冒頭にこしら師匠が宣言したとおり、落語知らない人はまったくついていけないけど、世界観が理解できる人ならかなり楽しめたのでは。普段の古典落語以上に古典の匂いが漂ってきたのは意外でした。立川談志師匠に落語のフレーズをつなげる「落語チャンチャカチャン」という作品がありますが、こしら師匠のはさながら「落語キャラ・チャンチャカチャン」。落語ヒーローズ大集合は、ライダー大集合にも負けない熱さです。
思わぬ黒幕が現れたところで突然終わってしまった戦いの続きをもっと聞きたいと思ったのは自分だけではないでしょう。かなり高速なCPUを脳に積んでいないと置いてけぼりにされかねないのですが、そこに必死にしがみついていくところが観客としては爽快でした。

林家彦いち-忘却の音

  • 林家彦いち師匠

    林家彦いち師匠

90年代、00年代、10年代の創作落語の要素を取り込みながらハイブリッドで進化している彦いち師匠。ギャグでさんざん笑わせておいて、最後はホラーテイストでひんやりさせる。いつもどこかに世間や現代への批判精神が隠れていて、大人の落語って感じがします。
今回の「忘却の音」も彦いち師匠しかできない唯一無二の作品です。テーマは忘却。嫌な記憶が忘れられるという「忘却の音」を聞いたことによって恐ろしい事態が起こります。ヤンキー時代のやんちゃの記憶を有権者の記憶から消して、選挙に当選したいという42歳の男性。長いハンドルのオートバイを運転してトンネルにぶつかる過去がバカすぎです。何でも忘れてしまうと、古典落語の厩火事も喧嘩になりません。芝浜の魚屋も酒を飲まず、粗忽長屋は冷静長屋とタイトルが変わってしまいます。
カオスだった前の4人の雰囲気を全部受け止めながら、最後は自分の世界に引き込んで、疲れさせない形で終わらせる。最後が彦いち師匠で良かったと、いつも以上に思った今回の「しゃべっちゃいなよ」でした。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」6/14 公演 感想まとめ

写真:山下ヒデヨ Twitter:@komikifoto