渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 6月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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6月12日(日)14:00~16:00 柳家緑太、入船亭扇里、柳亭小痴楽、桂春蝶

「渋谷らくご」 シュッとした人たち、シュッとした落語

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プレビュー

 いつまでも、その落語の世界に浸っていたい。落語を聴いてきたことがない方がはじめて落語を聴いた時、そのようなことを思って頂ければ、とても嬉しいですし、そう思っていただける4人をこの回に揃えています。見た目のとっつきやすさと、芸のバリエーションの豊富さで、初心者にも落語の幅を感じていただける会です。
 柳家緑太さんは芸歴7年目の二つ目。カッコイイ佇まい、そして奇をてらわない王道を歩む古典落語。これから一緒に落語の経験値を高め合っていくのにぴったりな方です。
 2番手は扇里師匠、淡々と語る落語から、情報を削り落とした先にみえる無限の風景。そんな体験を一瞬でも感じていただければ幸いです。
 小痴楽さんは、16歳で入門、現在芸歴11年目のヤンチャ小僧。落語がテンポよく進み、崩壊する寸前までアクセルをおしつづけるスタイル。いまテレビのドキュメンタリーでおいかけられたりと注目されています。にぎやかで明るい!気持ちいい!
 最後に登場するのは、春蝶師匠。品の良さに注目です。魅力的な声で繰り出される軽妙なドラマ。一生懸命生きている人間を軽—く描いてくださる春蝶師匠の世界は、聴けば聴くたび奥深さも感じられます。

▽柳家緑太 やなぎや ろくた
25歳で入門、芸歴7年目、2014年11月二つ目昇進。趣味は、ボードゲーム、カードゲーム、ランニング、靴磨き。
▽入船亭扇里 いりふねてい せんり
19歳で入門、芸歴21年目、2010年真打ち昇進。絵本作家。趣味は競馬と野球観戦。横浜DeNAベイスターズの熱狂的なファン。
▽柳亭小痴楽 りゅうてい こちらく
16歳で入門、芸歴11年目、2009年11月二つ目昇進。落語芸術協会の二つ目からなる人気ユニット「成金」メンバー。
▽桂春蝶 かつら しゅんちょう
19歳で入門、芸歴23年目、2009年8月「春蝶」襲名。お父様は2代目の桂春蝶。現在、関西と関東の両拠点で活動をしている。

レビュー

文:井手雄一 男 33歳 会社員 趣味:水墨画、海外旅行

6月12日(日)14時~16時「渋谷らくご」

柳家緑太(やなぎや ろくた)   「死神」
入船亭扇里(いりふねてい せんり)「かぼちゃや」
柳亭小痴楽(りゅうてい こちらく)「のめる」
桂春蝶(かつら しゅんちょう)  「七段目」

FINAL FANTASY

柳家緑太さん

  • 柳家緑太さん

    柳家緑太さん

 「荒木飛呂彦」の短編漫画のような、スタイリッシュなホラー作品でした。
 「布団をひっくり返す。すると枕元にいたはずの『死神』は今、足元にいる!」という、すべての台詞に傍点が振ってあるような感じで、とある「能力」を手に入れた男が、博打で大金をゲットする話が語られます。しかしそれは『ルール』を無視した反則技でした。
 暗闇から音もなく現れた『死神』に、「人間は幸せの絶頂のときに、不幸のどん底に落とされることが、もっとも怖ろしいのである」という「己の美学」を、延々と聞かされながら、男は地下室へと連れて行かれ、「消えかかった蝋燭の火を、制限時間内に移し替えなければ死ぬ!」という、待ったなしのサスペンス展開が続きます。
 なんとか「枯れ木」に火を移し替えることに成功した男でしたが、死神がそれを問答無用で吹き消すという絶対絶命のピンチで、「続きはまた来週!」になりましたが、私が考えるに、この主人公は、そうした作業と平行して、自分の蝋燭の一部をこっそり『妻』のバチバチと燃える蝋燭に「接ぎ木」して、これを乗り切るのだと思います。そしてこいつの『弱点』は、この命が燃える『炎』でまず間違いありません。
 読み切りの『懺悔室』、もしくはジョジョの「第五部」で、ライターを再点火したジョルノが戦った『ポルポ』のエピソードなどを、彷彿とさせる奇妙な落語でした。

入船亭扇里さん

  • 入船亭扇里師匠

    入船亭扇里師匠

 映画「どですかでん」みたいな、「底なしに貧乏だけど、底抜けに明るい人たち」を描いた「人間ドラマ」でした。  かなり間の抜けた主人公が、肩に担いだ「かぼちゃ」を、町で売って歩くというだけの大変シンプルなストーリーでしたが、この男が例え馬鹿にされても、笑われても常にどこ吹く風といった憎めない人柄の持ち主で、その様子が私に「どですかでん」の「六ちゃん」が、空想の電車で夜になってもずっと一人で遊んでいる姿を思い出させて、胸が震えました。
 また町の人たちも、生活が厳しく、辛い現実は変わらないけれども、それでも笑って生きているというような「健気さ」があり、実の息子でもないこの男に商売を教えてあげるおじさんの存在や、喧嘩になりそうだったけど、最後は「かぼちゃ」を買ってやるお兄さんとの「些細な心のやり取り」から、私はこの落語に、現実はしっかりと見据えているけれども、どこか冷酷になり切れない「慈悲の心」のようなものを感じて、大変感動いたしました。
 この作品の白眉はやはり、彼が「ただ、空を見上げているシーン」でしょうか。
 「黒澤明」の他にも、「杜子春」のような「芥川龍之介」の小説が好きな方にオススメです。

柳亭小痴楽さん

  • 柳亭小痴楽さん

    柳亭小痴楽さん

 映画「ラスベガスをやっつけろ」みたいな、ラリった男が偏執狂的に「言った言わない」を延々と繰り返す「ドラッグ・ムービー」でした。
 開始早々から「アッパー」な調子で登場し、本筋である「レースの取材」などそっちのけで、延々と「ヤク」をやり続け、「ヤクザとゴルフに行った話」や、「親父にどつきまわされた話」などを、アクセルべた踏みでしゃべりまくり、「血だらけになりました」「血だらけになりました」と何度も言うころには、ホテルはもう滅茶苦茶に破壊されています。
 そしてなぜか「金魚鉢」に入っている「糠みそ」を頭からかぶると、「大根が百本送られてきた」と、わけのわからぬことを言いながら、友人の家へ突入するのですが、そいつもやはり大概で、「詰将棋」のことになると、我を忘れてのめり込み、スグにブチ切れるというとんでもない野郎です。
 しかし終盤に入ると、急に「バッドトリップ」したのか、ご隠居が大変冷静に助言をはじめる様子が、「ジョニー・デップ」が急にタイプライターで、とても冷めた文章を綴っているようで、大変怖ろしかったです。
 最後はまたぶり返して、「酒が飲みたい!」と主人公が叫ぶと、「エルヴィス・プレスリー」の「ビバ・ラスベガス」が流れだし、車は「明後日」の方向にむけて走り去って行きました。
 「テリー・ギリアム」ファンには、ぜひ見ていただきたい一品です。

桂春蝶さん

  • 桂春蝶師匠

    桂春蝶師匠

 「吉本新喜劇」を全部一人で演じているような、驚異の「舞台劇」でした。
 とある旅館にやってくる連中が、「バカップル」と「ヤクザ」と「警官」、そして唯一まともな「ご主人」がツッコミという、あの抜群の「連携プレー」を感じました。
 ですが私は当初、そのあまりの完成度の高さに、これが「まくら」なのか「本編」なのかすらよくわからず、「これは劇だよ」と説明してくださって、ようやく腑に落ちる始末でした。
 今回のお話は「歌舞伎オタク」の少年が、あまりに歌舞伎が好きすぎるせいで、日常の動作が全部芝居がかっており、それをお店の人が何とかやめさせようと奮闘するというものなのですが、止める方も芝居が好きなもんだから、ついつい乗っかってやってしまい、辻本が「おまえもやるんかい!」とツッコミを入れる度に笑いました。
 しかし、その辻本すら途中で、息子の演技のあまりの凄さに両手をあげて、「アホや・・・」と、ちょっとため息まじりに言う場面が最高でした。
 また二階で、「よし、じゃあ忠臣蔵やろうぜ」といって、延々と長丁場をはじめるところも爆笑で、止める人間がいないために、二人とも段々と「ゾーン」に入っていき、まるで映画の「バードマン」みたいに、本物の「刀」で相手を切り付ける「演技力」たるやアカデミー賞もので、もうこの息子は将来役者を目指すべきだと思います。
 他にも「蒲田行進曲」が好きな方にオススメです。


 以上、最初は「海底洞窟」の中で、ランタンをぶら下げた「死神」に出会い、調子に乗って攻撃していると、近づいてきて「包丁」でいきなり殺されるという、「呪文とモンスター」が出てくるお話。
 二番手は、里に下りてきた「ヴァンパイア」が、夏ばてした村人に『とうなす』というアイテムを99個使って、暗黒面を克服し、「パラディン」になったという民間伝承。
 三番手は「トランス状態」のヒロインが宙を飛び、「ピエロ男」が世界を崩壊させて、新世界の神になるという現代の暗黒神話。
 ラストは、ゲーム内ゲームで、「オペラ」を最後まで演じさせるため、制限時間ギリギリまで「舞台裏」で敵と戦うメタフィクションという、二時間フルタイムで「ファンタジーの世界」に浸らせてくれた、「一大ロールプレイング絵巻」でした。
 「一番有名な『三代目』は、誰だと思います?」というお話がありましたが、これからもこの「幻想」が十代目、二十代目といつまでも続いていくよう願っております。「金王朝」の話じゃないですよ?
 どうもありがとうございました。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」6/12 公演 感想まとめ

写真:山下ヒデヨ Twitter:@komikifoto