渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 6月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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6月10日(金)20:00~22:00 立川吉笑、玉川太福、神田松之丞、橘家圓太郎

「渋谷らくご」三人の若き変革者と、貫禄の真打

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プレビュー

いまの日常生活で銭湯にいくことはなかなか無くなってきましたが、銭湯にいくと気持ちが休まるもの。その一方で、湯舟の中で赤い顔をして、また、洗い場を怖い顔をして眺めている男がどこの銭湯にもいるものです。「おい、ちゃんとかけ湯しろ!」とか「おい、まだ泡がついているぞ!」みたいに言ってくる、熱血おやじ。そんなタイプがこの渋谷らくごのトリ、圓太郎師匠です。偏屈そうで、優しそうでもあり、愛嬌があり、怖くもあるという。そのどの表情も本当に持っていると思わせてくれるのが圓太郎師匠です。芸として確立している「小言マシーン」っぷり。渋谷らくごでの「THE熱血おやじ」として、大爆笑しない回をみたことがない。そして圓太郎師匠は、そんな熱血おやじが時折みせるものすごい温かな愛情が感じられてしまうのです。だから感動的な話ならば、ぐっときてしまう。
 この圓太郎師匠が入っている湯舟に、足を入れるのは、3人の若手。そして3人は古典芸能のジャンルが違います。まず落語からは吉笑さんが参戦。とにかく観察眼と再現性の高さをぜひ見てもらいたい。入門5年目にして、落語のスタイルを考察した『現在落語論』を出版したり。浪曲からは太福さんが参戦。太福さんの注目は、浪曲がはじめての方にまで、「浪曲って楽しい!」と思わせてくださる発想がすごい。先月の渋谷らくごの劇場中継でも、パソコンの前の視聴者の方までも全員巻き込んだ浪曲で、浪曲初心者をなくしています。
 そして講談からは松之丞さんが参戦。いまとにかく、「松之丞があつい」と演芸界を騒がせている男です。落語とか講談ってなんだろうと思っている人こそ、なにも調べず「神田松之丞」を味わってほしい!

▽立川吉笑 たてかわ きっしょう
26歳で入門、現在入門5年目、2012年4月二つ目昇進。2015年『現在落語論』を出版。毎週独演会を開く。
▽玉川太福 たまがわ だいふく
27歳で入門、芸歴10年目、2012年日本浪曲協会理事に就任。前職は放送作家。大学までラグビーを続けていた。ラグビーの日本代表戦をtwitterで熱くつぶやいていた。
▽神田松之丞 かんだ まつのじょう
24歳で入門、芸歴9年目、2012年5月二つ目昇進。現在の姿から、昔美人だったにちがいない人を探しその変化を慈しむ「過去美人評論家」を自称。
▽橘家圓太郎 たちばなや えんたろう
19歳で入門、芸歴35年目、1997年3月真打昇進。高校までラグビーをやっていた熱血男。いまはトライアスロンに熱心。

レビュー

文:えり Twitter:@eritasu 29歳 女性 事務職 趣味:フラメンコを踊ること

6月10日(金)20時~22時「渋谷らくご」
立川 吉笑 (たてかわ きっしょう)    「舌打たず」
玉川 太福 (たまがわ だいふく)    「清水次郎長伝 次郎長と法印大五郎」
  曲師 玉川 みね子 
神田 松之丞 (かんだ まつのじょう)  「天保水滸伝 平手造酒」
橘家 圓太郎 (たちばなや えんたろう) 「三年目」

真似したくってたまらない!

【どーゆう気持ちでしょうかクイズ】

  • 立川吉笑さん

    立川吉笑さん

冒頭、大家さんとの「まあまあお上がり」という古典落語によく出てくる会話。
あれ??今日は新作じゃないのかな?と思わせておいて、やっぱり「擬古典」の「舌打たず」!
喋りながら舌打ちを複数回挟む場面、聴いていて舌を噛みそうな感じでドキドキしますが、聴くたびに舌打ちのクオリティが上がっていて凄いです。
なんとなく「チッ」って言うよりは「チュッ」って聴こえるので音の不快感みたいなものも一切なし。
吉笑さんてきっと早口言葉得意ですよね。
吉笑さんの新作落語は同じ噺を何度聴いても楽しい。というのも、特徴的なので聴くたびに少しずつ覚えてしまい、ついつい真似したくなるのです。
今回の「舌打たず」では「あっしは今、どーゆう気持ちでしょーおーかっ」っていう遊び、すごくすごくやりたい。
言い方も速くてリズムがよくて、ポケモンの名前151匹覚えてヨッシャーと思っていた小学生の頃の感覚を思い出します。後半はパターンが複雑になっているのでメモをとりたい。
自分の中の小学生的な部分がキャッキャッと喜んでいるのがわかります。

【一緒に大声で唸りたい!】

  • 玉川太福さん・玉川みね子師匠

    玉川太福さん・玉川みね子師匠

太福さんの大きな体からまっすぐにド――ンとぶつかってくる咆哮。
みね子師匠との掛け合いの空気感。そして太福さんの豊かな表情。
この迫力を味わえるのは、会場にいる人の特権でしょう。
思わず掛け声かけたくなりますし、唸りたくなります。今日も「たっぷり!」
今回のネット配信はなんと1万8千人近くの閲覧数だったようです。
その中にはきっと、居間でごろごろしながらスマホで配信を見ている孫がいて、その横でおじいちゃんが
「こ、この節は!清水次郎長伝じゃないか!おじいちゃんにも見せてくれ!昔、広沢虎造という凄い人がいてな…」
なんて展開になったりしてと妄想。
侠客ものは「男の世界」という精神の美しさ、熱さにうっとりします。しびれます。
一人の賭博荒らしが次郎長親分と出会うところから物語は進んでいき、いよいよ!!というところで急に終わってしまったので気になって気になって仕方ありません。 来月のシブラクまで待てないーそうだ、木馬亭と火曜亭に行こう。


【たまらんっ平手造酒】

  • 神田松之丞さん

    神田松之丞さん

拍手がフェードアウトする瞬間。
まくらなしでスッと読み始め、目の前が一瞬にして「その世界」に切り替わります。
シリアスな噺かなと息をのんで聴いてみると、お馴染み「鹿島の棒祭り」
太福さんのときに登場した次郎長親分も天保水滸伝の登場人物の一人で、同じ時代の噺がリンクして会場の雰囲気もさらに暖まります。(冷房は強まります)
「白いムクイヌが大きな球体のよう!それを見て平手っ!!」これ、覚えてしまいます。自然と。
面白いポイントのところは強調されていてテンポもよく、ビシッと笑わせてくれます。つい、真似したくなります。
「チャンチャリンッ」「ツカツカツカッ」「ペロペロペロペロ」などオノマトペもたくさん入っていて、臨場感のある状況がさらに鮮やかに浮かび上がります。
たくさん笑っているうちに鹿島の棒祭りが終わってしまってあれ?早く終わってしまった―と思ったら改めて今度は平手造酒のラストシーンに向かって噺が進んでいきます。この構成、かなりググッときました。
なんて良いとこ取り!(講談初めてのお友だち誘ってきてよかったー!この回見れてよかったー!)と心の中で叫びつつ、気づくと二人でボロボロ泣いてました。笑って泣いて大忙し。半端ない充実感でした。

【真打の重み】

  • 橘家圓太郎師匠

    橘家圓太郎師匠

まくらで松之丞さんに毒づく圓太郎師匠。ちょっと冗談か本気かわからない雰囲気にドキッ。
以前、とある真打の落語家さんが「真打はお客さんの期待値が二つ目より高いので、前に出る二つ目のレベルが高いほどプレッシャーが大きい」と仰っていたのを思い出しました。
今回は単純に、しんみりしている会場を盛り上げて笑いの空間に変えるのが大変~ということもあるのでしょうけれど、出演順や、真打、二つ目に関係なく同じ30分の持ち時間で、特に二つ目の演者さんの全力が見られるというのは個人的にはとても嬉しいです。
そしてその勢いをがっつり受け止め支える感じがシブラクの魅力の一つだなぁと感じます。
「三年目」はどの登場人物に感情移入して聴くべきか迷いました。
誰も悪くないような、やっぱり悪いような、仕方がないような、でもかわいそうなような…私が真面目に考えすぎなのか少しモヤッとするストーリー。
しかし圓太郎師匠はさすがベテランの貫禄でサラッと噺の中に引き込んでくれます。
啖呵を切りまくる熱い侠客もの二つ続いた後でも、疲れることなくしっかり集中して聴けました。
急に愛犬のケチャップくんの話が出てきたり、ちょっとお茶目な一面も見えて少しホッとしました。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」6/10 公演 感想まとめ

写真:山下ヒデヨ Twitter:@komikifoto