渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 6月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

イラスト

6月11日(土)14:00~16:00 桂三木男、雷門音助、立川左談次、雷門小助六

「渋谷らくご」「じんわり良い」会

ツイート

今月の見どころを表示

プレビュー

 トリをお願いした雷門小助六師匠。一言でいえば「じんわりと良い」。濃い味、濃い味付けはもちろん美味しいし、舌にのってすぐ「良い!」と思う。しかし、小助六師匠は、いつまでも聴いていられる「じんわりと良い」なのです。小助六師匠は、1999年、17歳で落語家に入門。この若さで弟子入りを決められるって、ほんとにすごいです! その時点で尊敬しちゃうんですけど、17歳で落語に一生を捧げると決めた男は、今年芸歴18年目、34歳なのにもかかわらず、この「じんわり良い」味付けをしってしまっているすごさ。出汁ききまくりなんですよね。落語を知っている方はもちろん、落語が初めての方にもみていただきたい! 
後味といえば、渋谷らくごのいぶし銀、後味の最高な左談次師匠が小助六師匠の前で華を添えてくださいます。
 前半は三木男さんと音助さん。品とテンポのよい落語の三木男さんと音助さん。このおふたりの落語を聴いていると、王道のなかに個性をしずかに味付けする地道な作業こそ、成功の近道なのかなと思います。
のんびりとした土曜日の昼下がり、1週間の疲れを癒しにきてください。「じんわり良い」は、温泉につかったあとのように、ながーく余韻を残します。

▽桂三木男 かつら みきお 19歳で入門、芸歴14年目、2006年11月二つ目昇進。落語協会の若手落語家「TEN」のメンバー。真打が近い!
▽雷門音助 かみなりもん おとすけ
23歳で入門、芸歴6年目、2016年2月二つ目昇進。好きな食べ物はそばとすあま。小助六師匠の弟弟子。二つ目になりたて。
▽立川左談次 たてかわ さだんじ
17 歳で入門、芸歴49年、1973年真打昇進。去年足を骨折しました。芸歴50周年が近い!
▽雷門小助六 かみなりもん こすけろく
17歳で入門、芸歴18年目、2013年5月真打昇進。趣味は演芸関係の資料収集。

レビュー

文:さかうえ かおり Twitter:@Caoleen1022 年齢:31 職業:会社員 趣味:ピアノ・お箏の演奏、スポーツ観戦

6月11日(土)14時~16時「渋谷らくご」
桂三木男(かつら みきお)      「天狗裁き」 雷門音助(かみなりもん おとすけ)  「春雨宿」 立川左談次(たてかわ さだんじ)   「町内の若い衆」 雷門小助六(かみなりもん こすけろく)「船徳」

憂鬱な季節の過ごし方

GWも終わり、夏休みもまだまだ先。祝日もない6月はちょっと憂鬱。そんな季節だからこそ、落語で妄想旅行しませんか。城歩きです。落語と城歩き、けっこう似てるんです。なぜなら、妄想力があればあるだけ深く面白い。お城が好きなら是非一度落語聴いてください。落語も城同様一つを知ると、十の知りたいことが増えるネバーエンディングストーリーな趣味だから。
お城の密集地帯は戦国時代の中心地、愛知〜静岡のイメージが強いですが、東京にもお城はうじゃうじゃあります。ここ渋谷にも渋谷城ってのがありましたが、江戸にあった城と言えば長屋の熊さん・八さん、勝五郎さん、若旦那に女中のお清が見てたであろう、泣く子も黙る江戸城。江戸城を見れば落語の世界を想像するし、落語を聴けば江戸城に想いを馳せる、まさに蕎麦と日本酒のような完璧なマリアージュ。

桂三木男「天狗裁き」

  • 桂三木男さん

    桂三木男さん

八王子駅からバスで10分程度のところにある滝山城。北条氏のお城ですが、なんとたった2千人で武田の2万の軍勢から守りきった凄いお城。一歩足を踏み入れただけで、土塁の上から弓を引いている北条軍の足軽が見えるよう。2万の兵がいたって勝ち目なんかない、攻めの名城です。
いかにも現代っ子な風貌の三木男さん。落語を聴くのは初めてですが、チラシなどで見ていた印象はズバリ、ツーブロック。こんなに平成の風貌をしているのに三木男さん、江戸の風ビュービュー吹かせます。「天狗裁き」は八五郎さんがあまりに面白そうな夢を見ていて、それを女将さんが聞き出そうとするが、八さんは夢は見ていないと言って喧嘩になり、その喧嘩を長屋の隣人が止めるが、この隣人も夢の話を聞きたがり喧嘩に。さらにそれを止めに入った大家が…、さらにそれを奉行が…、さらにそれを天狗が…と、どんどんエスカレートしていく破茶滅茶な噺。夫婦喧嘩や長屋連中の喧嘩で漂ってくる江戸の風が大好きなんですが、三木男さんが心地よく吹かせてくれました。長屋の隣人の「俺に任せとけ」のアテにならなさ感は江戸の長屋の醍醐味。この軽い口調からの喧嘩の威勢の良さがたまりません。こういう喧嘩のテンポと威勢の良さは、強気な滝山城そのものです。
滝山城も武田の大軍に攻められた後、もっと強固な守りのために廃城となり関東屈指の名城・八王子城が築城されます。お奉行様の重厚感がもっとあればとは思いましたが、滝山城が八王子城へとパワーアップしたように、今後三木男さんをずっと見続ける楽しみになりそうです。
中世のお城は、合戦時の民衆の避難場所があるそうです。滝山城はこの避難場所である山の神曲輪が分かりやすく見学できるんですが、初めて見たとき感動したんです。中世城郭なんて優しいんだ、と。三木男さん、終演後丁寧にお見送りしてくれてたんですよ。嬉しいじゃないですか。威勢の良さと優しさを兼ね備えた三木男さん、中世城郭だったら名城です。

雷門音助「春雨宿」

  • 雷門音助さん

    雷門音助さん

謎の城・安土城。時代の先端を走っていた信長が築城したこのお城、天主はどんな姿だったのか度々テレビでも特集されます。最初の近代城郭とも言われているので、城の全貌は気になるところです。
歴史は過去を想像するのが楽しく、文献や資料が発見されるたびに少しずつ答え合わせができます。時系列からすると真逆ですが、若手の落語を聴くのはそれと似た楽しみがあります。大ベテランと言われる頃にはどんなネタを得意としているのか想像するとワクワクが止まりません。そんな先でなくても、2〜3年でガラっと変わったりします。前にベテラン師匠の会で観ていた前座さんをシブラクや別の会で再び観るようになったりするのですが、印象の違いに一瞬分からなかったりけっこう驚きます。想像をこまめに答え合わせできるので、こういう良い意味の裏切りが気持ち良い。
音助さんは今年2月に二つ目に昇進したばかりで、シブラクも先月が初登場だったかと思います。そんな音助さんのネタは「春雨宿」。江戸っ子二人が旅の途中、目的地までまだまだ遠いからと泊まったボロ宿で、宿屋のケメ子(キミ子が訛ってる)さんに翻弄される噺。実はこのボロ宿は目的の温泉の支店で、風呂も娯楽も遠く離れた本店にあると言われたり、この二人が何度もケメ子さんにヌカ喜びさせられるんです。落語に出てくる江戸っ子って、いかんせん素直すぎる人が多いんですよ。この旅人二人、翻弄されっぱなしだし、悪い待遇に文句を言いつつ甘んじて受け入れる様子が可笑しくてたまらない噺です。
噺のテンポも良いし、本当に数ヶ月前に二つ目に上がったばかりなのか疑いたくなりました。安土城の天主がどうだったかより、音助さんがどんなベテラン噺家になるのか想像するほうがきっと楽しい。

立川左談次「町内の若い衆」

  • 立川左談次師匠

    立川左談次師匠

今や天守閣が江戸の時代から現存しているのは12城のみ。そのうちの一つ、国宝・松本城。威風堂々とした佇まいは、見事としか言えないお城です。このお城、見る角度によって表情がコロコロ変わるんです。駅からテクテク長い道のりを歩いて最初に見える姿にはトキメキをおぼえ、目の前に迫ると今にも弓や鉄砲玉が飛んできそうな攻撃的な姿に戦慄が走り、城の周りを歩けば鮮やかな朱色の埋の橋が架かって優雅な姿も見せてくれる。
左談次師匠の表情も松本城のようにコロコロ変わります。高座に上がる姿は小粋をそのまま形にしたような色っぽさ。しかめっ面はどこぞの職人かと思うような気むづかしい恐ろしさ。かと思えばイタズラ小僧のような母性をくすぐる無邪気な笑顔を見せてもくる。結果一言で魅力を語れとなると「とにかくかっこいい」としか言えなくなる。
旅人が出てくるとの事で、音助さんと”ネタがつく(設定が似てる)”ので準備していた噺ができなくなったそうで、マクラの最中に何やるか決めると言って始まりました。…私の倍以上も生きている素晴らしい師匠に向かっては大変失礼ですが、こういう事言う時の、ちょっとイタズラな笑顔が物凄く可愛いんですよ。「女子の心をメロメロにするイケメン落語家」はまさに左談次師匠のためにある言葉です。
マクラを聞きながら何が始まるのかな〜と色々想像していると、かなり下衆いサゲで大好きな「町内の若い衆」でした。サゲまで言わないと面白さが伝わらないのであらすじは割愛しますが、江戸の町民のバカっぽさがたまらない噺です。親分の女将さんの控え目な色っぽさ、主人公の女将さんの粗野さ…落語の本編でもコロコロ移り変わる左談次師匠の表情は、ずっと見ていたい。軽妙な語り口も、2時間でも3時間でも聴き続けたいほど心地が良いんです。松本城も、ずっと見てて飽きないんです。ベンチに座って小一時間ボーっと眺めていたことがあります。余韻まで楽しい国宝級の左談次師匠です。

雷門小助六「船徳」

  • 雷門小助六師匠

    雷門小助六師匠

加賀百万石の金沢城。威圧感とは違うのに、攻めてもきっと陥ちなそうな凜とした佇まい。そんな威風堂々さもあり、本丸跡は森と化している諸行無常さもあり、利家の時代に作られた石垣あり、明治以降の陸軍使用時代の名残あり…と見所盛りだくさん。でも、変な疲れを感じさせない不思議なお城です。金沢は素敵な観光地がたくさんありましたが、もう一度金沢に行きたいと思わせてくる場所は兼六園でも21世紀美術館でもなく、金沢城なんです。城より美術や古い建築のほうが実は好きだったりするのですが、金沢城が日々打ってくるボディブローが効くんです。
マクラでもネタにしていた「ジンワリいい」小助六師匠。金沢城の魅力と小助六師匠の魅力は同じです。「船徳」は、勘当された道楽者の若旦那・徳兵衛が船宿に居候をし、船頭になる噺。落語に出てくる若旦那はだいたいダメ人間なので、案の定この徳兵衛さんの船に乗ってしまった客は災難に遭うわけです。小助六師匠のジンワリ良い理由を探しながら観てました。そう明らさまにキャラの演じ分けをしているようには思えないんですが、キャラがはっきりと目に浮かぶんですよね。櫓から櫂に持ち替える時に大きく扇子を舞台下手(しもて)に飛ばしてしまったのですが、なんと扇子を2本持っており、落ち着いてる上にハプニングでしっかり笑いも取る。この日は梅雨に入ったと言うのにカンカン照りの夏日。情景がはっきり浮かんでくる船徳観た後は、終演後クソ暑い外に放られても爽やかなんです。この天候にピッタリなネタを選んでくるところ。魅力が盛りだくさんな師匠なんですが、全ての魅力をサラッと見せてくるので、魅力を受け止めるこちらもサラッとしちゃうんですが、この魅力が打ってくるボディブローがエグい。金沢城と同じボディブロー。受けてみるとかなり気持ちが良いですよ。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」6/11 公演 感想まとめ

写真:山下ヒデヨ Twitter:@komikifoto