渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 2月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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2月11日(土)14:00~16:00 柳家緑君 神田松之丞** 立川左談次 桂春蝶

「渋谷らくご」軽やかに、心地よく古典を聴く会

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プレビュー

 桂春蝶師匠の落語の魅力はたくさんありますが、私は重要な要素のひとつに「品」と「軽さ」があると思っています。
世の中の窮屈さを忘れて「笑っていいこと」だと思わせてくれる品、そしてどんなに重くて深いものでも、春蝶師匠が話すとあっさり受け入れられるという「軽さ」。
 古典落語といっても、構えずに、自然体で、なんの準備もせずに聴けます。気持ちよい落語を追求している左談次師匠、聴くこと自体が気持ちいい松之丞さん、二つ目の緑君の軽やかさもお楽しみに。初心者ウェルカムの古典を聴く会です。

▽柳家緑君 やなぎや ろっくん
16歳で入門、芸歴11年目、2010年9月二つ目昇進。落語界はじめての平成生まれの落語家。落語家を追いかけるドキュメンタリーに偶然出演してしまう強運の持ち主。鯉斗さんと鯉八さんを本人の目の前で間違えてしまうほどの、おっちょこちょいさん。

▽神田松之丞 かんだ まつのじょう
24歳で入門、芸歴10年目、2012年5月二つ目昇進。プロレス好き。iPadを使いこなす。冬はお洒落なグレーのニットの上着を羽織って楽屋入りする。北海道でショートケーキを食べる顔がツイッターにアップされ、可愛いと話題になっている。

▽立川左談次 たてかわ さんだじ
17 歳で入門、芸歴50年、1973年真打ち昇進。読書好き。
談志師匠とおなじ病気にかかり、療養中。去年の一時退院によって渋谷らくごにご出演していただいた時には、拍手が鳴り止まなかったほどたくさんの方が待っている。今年は芸歴五十周年!です。多くの落語家からリスペクトされている、かもしれない酒豪。

▽桂春蝶 かつら しゅんちょう
19歳で入門、芸歴23年目、2009年8月「春蝶」を襲名する。
関東と関西を行き来される生活をする。ツイッターのつぶやきが面白い。インスタグラムの写真がひとつひとつ美しい。深夜の公演でベンチに座りながら稽古をしている様子がアップされている。

レビュー

文:さかうえかおり Twitter:@Caoleen1022 趣味:ピアノとお箏 特技:時刻表速引き


「粋と人情のがっぷり四ツ相撲」



久々の日本人横綱誕生に日本中が沸き立っている今日この頃。四横綱時代が始まります。これは若貴人気の頃以来。当時赤子の私でも熱狂したウルフフィーバーの頃も四横綱。リアルタイムを知らずともその名は知ってる北の湖、輪島に大鵬柏戸のレジェンド横綱が活躍した時代も四横綱。大相撲の黄金期には四横綱なんです。来るべき時が来たって感じでワクワクします。
落語もいまやブーム真っ只中。相撲と同じく長年娯楽の代表格かと思いますが、同じ時期に大人気なんてなんか嬉しい。相撲は伸び盛りの若手力士が多くいます。注目していた幕下力士もだいぶ幕内に定着して、より一層面白くなりました。今回はそんな勢いのある若手から横綱級までたっぷり堪能できる回でした。


宇良ファンに観てほしい柳家緑君さん



  • 柳家緑君さん

    柳家緑君さん


「大工調べ」
アマチュア時代の居反りで一躍有名になり、序の口から既に人気者だった宇良。それだけ人気者だったら威張り散らして傲慢になっても仕方ないのですが、宇良はもうちょっと威張っていいんだよ…と言いたくなるくらい素朴で自然体。土俵上で思いがけず相手力士を遠くまで吹っ飛ばした時の慌てようや、お客さんがプログラムを花道に落としたのを拾ってあげたり、自然体すぎるのです。
落語はキャラを演じ分ける演技派と、噺家さんそのままの話し方で特に演じ分けない自然体派とがいます。緑君さんは自然体の話し方で演じてる感が全くありませんでした。その辺の長屋にいそうなお兄ちゃん。…って、自然に脳内が江戸時代にタイムスリップしてしまうくらいナチュラルに江戸を走り回ってそうなお兄ちゃんにしか見えなくなってました。
宇良の相撲の魅力は観る者を釘付けにする動きのある展開です。「大工調べ」は最後の啖呵がとにかくすごい。録画ができるなら、宇良の取組のように何回も何回もリプレイするのに。宇良の取組は凄技すぎて爆笑してしまうのですが、この啖呵もそんな笑いが止まりませんでした。

北勝富士ファンに観てほしい神田松之丞さん



  • 神田松之丞さん

    神田松之丞さん


「天明白浪伝 金棒お鉄」
角界の注目若手力士、その筆頭に挙げたいのが北勝富士です。土俵入りでは入幕2場所目とは思えない貫禄。気持ち良いくらいに前に前に出る押し相撲は若さが溢れ出てるし、角界1の礼儀正しさと舞の海さんに絶賛される、どの角度から見ても最強の若手力士です。さらに普通は険しい顔をしている場所入りは付け人さんと談笑しながらニコやかに…という、萌えポイントもしっかり突いてきます。
そんな北勝富士ファンに観てほしい松之丞さん。高座に上がった瞬間に正面から電車道で突き押されます。迫力と貫禄が半端ないのです。そして、この日の噺は勧善懲悪をコミカルに描いた「天明白浪伝 金棒お鉄」。真面目にやってきた者がきちんと報われるんです。武双山や遠藤、逸ノ城のようなザンバラ髪で土俵を賑わす幕下格付出の資格を放棄してもきちんと教員免許を取得し大学を卒業、前相撲からコツコツ番付を上げてきた北勝富士が好きだったら、きっと好きになる噺です。
とはいえ、この噺は冒頭に松之丞さんが仰ってたように、落語のようなドタバタしたコミカルな噺。本物の江戸の侍か任侠かと思わせる迫真の語り口の松之丞さんですが、そのままの口調でコミカルな人を演じると、まぁ胡散臭いったらない。この妙なギャップがたまらんのです。強面の北勝富士の萌え笑顔にやられた方は、松之丞さんのコミカルを味わってみて下さい。

遠藤ファンに観てほしい立川左談次師匠



  • 立川左談次師匠

    立川左談次師匠


「宿屋の富くじ」
遠藤が膝を怪我したのは約3年前の春場所。翌場所も休場だろうと思ってましたが、なんと翌場所には復帰。しかもテーピングやサポーターも無いキレイな姿で出てきました。左談次師匠もご病気をされて以来入退院を繰り返されてますが、闘病生活のことも高座であっけらかんと明るく話すので、会場全体が明るい雰囲気。土俵に上がるときも高座に上がるときも、やはり心配はしてしまいますが、その華やかさで心配を吹っ飛ばして相撲なり落語なりに集中させてくれるなんて、改めてプロって凄いな…。
顔だけでなく、所作の美しさや四つ身の形の良さから案外おじさんからも人気という、完璧なイケメン遠藤。まさにそんな魅力なのが左談次師匠。高座に上がる姿は小粋な色気、マクラでおちゃらける姿は萌えでしかない、どこを取ってもかっこいい師匠の落語はときめき疲れます。取組を観るのに他の力士以上に疲れる遠藤戦のように、ときめきとはとにかく体力使うんです。観てる時の表情筋とか、普段使わないのを絶対使ってるのです。
落語は1人で何役もやる。つまり、左談次師匠のように色々な表情を見せ、仕草や粋な江戸弁など全てがかっこいいとなると、超脇役な台詞が一言くらいしかない役ですらいちいちかっこいいのです。「宿屋の富くじ」は主な登場人物は少ない噺ですが、富くじ(宝くじ)当選を虎視眈々と狙ってあーだこーだ言っているエキストラの方々が元々皆良いキャラ。それを左談次師匠が演じると、全員がそれぞれ独立した落語の中で主役を張ってほしいくらい、いちいちかっこいいのです。

白鵬ファンに観てほしい桂春蝶師匠



  • 桂春蝶師匠

    桂春蝶師匠


「芝浜」
何をどうしたって結局強い白鵬。強い力士は好きですが、強すぎるとだんだんアンチになります。ケッ、また優勝白鵬かよ、と。でも、アンチになりきれないのは、品の良い出で立ちと相撲が大好きなのが伝わるそのキャラクターのせい。なんだかんだ言いながら、結局どの優勝でも泣きながら表彰式観てる気がします。
この回の芝浜はちょっと普段の芝浜とは違う、なぜ勝五郎が酒に溺れたのか背景まで描いたものでした。「アル中のDV男が改心するはずない」と芝浜が納得できないとの意見を聞いた春蝶師匠の、説得力抜群の芝浜です。ただ、勝五郎さんが落ちぶれた背景を聞かずとも、上品さが溢れ出てる春蝶師匠の勝五郎さんは悪い人じゃない事は想像できます。絶対何か事情があったんだと。
私が今まで感じてた芝浜の違和感。浜で拾ったお金をネコババして勝五郎が犯罪者にならないよう嘘をついて隠していたのに、なぜ嫁さんが怒られなきゃいかんのか。勝五郎が本当に改心してるなら一瞬も怒らないはずじゃないのか。でも、そんなモヤモヤもきれいに解決。根が良い人がグレるには、それなりの理由があると再確認できました。
白鵬が一時期素行や言動が問題視されてたのは記憶に新しいかと思います。角界が大変だった時代を一人横綱として支えてきたことを考えると、ただ身勝手に振舞ってるとは思えない…と言うファンも多かったのですが、そんな白鵬が春蝶師匠演じる勝五郎さんに重なりました。だから何をしたって嫌いになれないんです。白鵬ファンは勝五郎の嫁さんの心境に共感できるのではないでしょうか。白鵬の人柄に惚れてる人、初場所の千秋楽稀勢の里戦での白鵬の攻めの姿勢に感極まった人には、是非観てほしい芝浜です。
【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」2/11 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ