渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 2月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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2月13日(月)20:00~22:00 春風亭昇羊 古今亭駒次 立川志ら乃 笑福亭羽光 林家彦いち

林家彦いちプレゼンツ 創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」 

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プレビュー

渋谷らくごで偶数月に開催されている、彦いち師匠プレゼンツ 創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」。
今年も2月、4月、6月、8月、10月と開催し、12月に大賞を決める会を行う予定です。
今年初のネタおろし会に挑むのは、二つ目に昇進したばかりの昇羊さん、もうすぐ真打の駒次さん、一昨年の創作大賞 志ら乃師匠、そして昨年のファイナリストの羽光さんです。
トリは毎度おなじみ、創作らくごの鬼軍曹 林家彦いち師匠!
宇宙初公開の落語が誕生する瞬間、それはみなさんが演者さんと一緒に「落語」を生み出す瞬間でもあります。
歴史的な瞬間に立ち会う興奮を、ぜひ体験してみてくださいね。

▽春風亭昇羊 しゅんぷうてい しょうよう
1991年1月17日、神奈川県横浜市出身、2012年入門、2016年二つ目昇進。ツイッターをお母様にフォローされているとのこと。『湯を沸かすほどの熱い愛』で大変感動されたとのこと。羽光さんから学校寄席での立ち振る舞い方を学んでいらっしゃるとのこと。

▽古今亭駒次 ここんてい こまじ
24歳で入門。芸歴15年目、東京都渋谷区出身。鉄道をこよなく愛する落語家で、「駅すばあと」とコラボして落語会を開催される。駅弁を持参された方は入場料割引という画期的な企画もおこなう。

▽立川志ら乃 たてかわ しらの
24歳で入門、芸歴19年目、2012年12月真打昇進。スーパーマーケットが好きすぎるため、朝日新聞で取り上げられたりしている。ツイッターでは、スーパーの各店舗の考察をおこなっている。この時期はハンバーガーのセーターを着こなす。節操がない。米粒写経が司会をつとめる、ひかりTV「落談」の落語パートを担当。

▽笑福亭羽光 しょうふくてい うこう
34歳で入門、芸歴10年目、2011年5月二つ目昇進。落語芸術協会の二つ目からなる人気ユニット「成金」メンバー。侠気がある。
2016「創作らくごしゃべっちゃいなよ」ファイナリスト。しっとりとした上方古典落語も披露する。オリジナル根付が可愛い。昇羊さんと学校寄席に行った帰り、三島で昇羊さんを置き去りにしたとのこと。

▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。
創作らくごの鬼。キャンプや登山を趣味とするアウトドア派な一面を持つ。10月は台風が来ている中でキャンプを決行するという武闘派。集中する朝は、土鍋でご飯を炊く。創作から生まれた絵本「ながしまのまんげつ」(絵 加藤休ミ 小学館)が発売中!最近お弟子さんを取られた。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

「渋谷らくご」2017年2月公演
▼2月13日 20:00~22:00
林家彦いちプレゼンツ 創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」

春風亭昇羊(しゅんぷうてい しょうよう)-抜歯屋
古今亭駒次(ここんてい こまじ)-10時打ち
立川志ら乃(たてかわ しらの)-ほぼ・ほぼほぼ
笑福亭羽光(しょうふくてい うこう)-私小説落語 知ったかぶり編
林家彦いち(はやしや ひこいち)-私と僕


シブラクでは公演の最後に「タイトル」がスクリーンに映されます。「しゃべっちゃいなよ」の場合、さっきまで聞いていた落語が実は「こんなタイトルなんだ」という驚きがあるのが他の公演と違うところ。演者の作品に込めた意外な思いがわかります。ただし、最終演者の彦いち師匠のところだけは空白で、エンディングトークで本人が「○○」にします、と言って完結です。この最後に更新されるところが、生っぽくて好きだったりします。

  • オープニングトーク 林家彦いち師匠

    オープニングトーク 林家彦いち師匠


  • オープニングトーク 立川志ら乃師匠

    オープニングトーク 立川志ら乃師匠


春風亭昇羊-抜歯屋


  • 春風亭昇羊さん

    春風亭昇羊さん

タイトル通り、江戸時代に歯を抜くことを生業とする「抜歯屋」さんがいたら、という設定の落語です。博打で大金を儲けてウハウハの八五郎。それを「ターミネーターのように追いかけてくる女。実はこの「ターミネーコ」は数年前に居酒屋で同席したという抜糸屋の女だった。口説きにかかる八五郎と、抜歯屋の女とのやり取りが笑いを誘います。
昇羊さんの創作落語は何本か聞いていますが、どれも起承転結がしっかりしていて、わかりやすい。二ツ目1年弱のキャリアでここまで完成度の高い物語が作れるなんて驚きです。古典落語風の物語の中にも、現代的なギャグが入いっていて、自分らしさを残すのも忘れない。八五郎が女を誘う文句「家に長火鉢の、“長くない”のがある」「木彫りの狸が大小合わせて7体ある」と、インテリアをエサに女を家に誘いこもうとする八五郎のいけすかなさがいい感じでした。

古今亭駒次-10時打ち


  • 古今亭駒次師匠

    古今亭駒次さん

タイトルの“10時打ち”とは、人気列車の切符を取るためにJRのみどりの窓口に並び、発売開始の10時と共に切符を予約するというものだそうです。駅によって対応はまちまちで、鉄ファンはどの駅で並ぶかが重要なんだとか。
今回の駒次さんの作品は“10時打ち”に命を賭ける東京駅のベテラン駅員さんが主人公。そこにライバル心を燃やす上野駅の駅員が加わって大騒動。誘拐事件に爆破事件と、駅員のプライドをかけた壮絶な闘いが繰り広げられます。
マニアックに見えますが、チケット発売日にぴあに電話する、限定品目当てに店頭に並ぶといった経験は誰にでも共通経験はあるため、すんなり世界に入っていけます。その中に鉄ファンならではの小ネタが入り、駒次さんのペースに徐々に引き込まれていきました。
高速で活舌のよい駒次さん独特のテンポとリズムは、勢いのあるストーリーを軽快に運ぶ役割を果たしています。さらに、シーン(事件が起きている場面)を細かく切り、複数のシーンを切り替えながら見せる「24」のようなカット割りも独特のテンポを支えています。特にサゲ前の喧噪から静寂へのシーン切り替えは見事でした。クライマックスでは、「10時」を迎えた時に、観客にカウントダウンのかけ声を要求する駒次さん。全員が駒次さんのペースに乗せられ、踊らされました。

立川志ら乃-ほぼ・ほぼほぼ


  • 立川志ら乃師匠

    立川志ら乃師匠

「三省堂が選ぶ『今年の新語2016』の大賞にも選ばれた」(タツオ氏)という「ほぼほぼ」の使い方の面白さを落語化した作品です。昨年の「グロサリー部門」もそうでしたが、志ら乃師匠の創作落語は、現代の生活、風俗、時代にぴったり合わせてくるイメージがあります。恐らく観察眼が鋭くて、世間を斜めに見る感覚が優れているのでしょう。聞いていて身近に感じるというか、「そうだよね」という共感度が高くなり、最後は「志ら乃の言うとおり」になっていきます。落語を現代的価値観で語る立川流の本領発揮です。
ストーリーは、上司と部下の会話が中心で、若者が使う現代言葉に、上司が翻弄されるというもの。その中で交わされる「ほぼ」と「ほぼほぼ」の違いを巡るかみ合わない会話が抜群に面白い。そこから「もち」と「もちもち」、「もふ」と「もふもふ」「ギリセーフ」と「ギリギリセーフ」の違いへと発展していく。言葉遣いの難しさ、面白さ、人間の感覚の違いなど頭の中で笑える要素満載で、「またまた」志ら乃マジックにやられました。

笑福亭羽光-私小説落語 知ったかぶり編


  • 笑福亭羽光さん

    笑福亭羽光さん

昨年の決勝大会でも披露した私小説落語の続編。今回は1988年、中村君(羽光)が16歳の時の青春物語です。スクールカーストの最下層にいる高校1年時代の中村君。同グループの松田君と、中間グループの松尾君の3人でつるんでいます。興味があるのはあっちのこと。妄想膨らませ、悶々とする3人の中で、松田君があれを経験したという。その話を聞いた2人は早速真似をします。
客席の反応落差がありすぎ。超どん引きの下ネタです。「あり」か「なし」かで言ったら私は「なし」なのですが、当日のお客さんの「Togetterまとめ」を見ると、好意的な意見もあり、人それぞれの見方があるなあと思いました。みうらじゅんさんの漫画に出てくる主人公や、西村賢太さんの私小説に出てくる主人公など、どうしようもないキャラクターほど面白いものはないので、この落語も場所次第では反応が変わるような気がします。男だけ、女だけ、年配の男性だけなどと客層を限定するといいかもしれません。でも「地下に潜ってる」感はハンパないですよね。

林家彦いち-私と僕


  • 林家彦いち師匠

    林家彦いち師匠

羽光さんの私小説落語の後に、彦いち師匠の私小説風ファンタジー落語が続く奇跡が起きました。こちらの時代は20年前の1997年。現代の世界で彦いち師匠が喫茶店で打ち合わせをしていると、「時空を超える創作落語を作った」といって20年前の二ツ目時代にタイムスリップした物語を語り始めます。
97年当時の下北沢。パン屋の「アンゼリカ」、定食屋の「三福林」、「餃子の王将」、「ジャズ喫茶マサコ」と、南口の改札から代沢方面に抜けていく道沿いにあるお店が次々と登場します。印象的だったのは定食屋の「三福林」。名物の「明太子オムレツ定食」を食べている彦いち師匠と、「孤独のグルメ」の作画で知られる谷口ジローさん(実は神々の山嶺のコミック版も谷口さん)との邂逅シーン。その2日前に亡くなった谷口さんを食堂のテーブルに座らせて「売れますかね?」「売れますよ」という会話でさりげなく追悼する彦いち師匠はカッコイイです。 そして、時代を超えて自分自身と対面。若き日の彦いち師匠が、20年後の自分に未来を尋ねます。大人になると、若かった頃の自分に、声をかけたくなることが、誰にでもあるような気がします。私の周りにもそんなことを言う大人が増えてきました。その意味からすると大人のノスタルジーなのかもしれませんし、20、30代の若い人に向けたメッセージなのかもしれません。20年前に作った右手がエゴを持つ変な新作や、日本列島が動く理解不能な新作、ドキュメント落語で賞を取ったあの会場の空気感とかも懐かしかったです。


  • エンディングトーク

    エンディングトーク


【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」2/13 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ