渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 2月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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2月12日(日)17:00~19:00 瀧川鯉斗 橘家圓太郎 柳家わさび 入船亭扇辰

「渋谷らくご」ベテランと若手:じっくり古典を聴く会

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今月の見どころを表示

プレビュー

今月の日曜日の公演は昼夜で「じっくり古典を聴く会」です。なかでもこの日の夜は、圓太郎師匠、扇辰師匠と強烈なベテランが揃います。
その間に登場する二つ目の柳家わさびさん。また、最初に登場する二つ目の瀧川鯉斗さん。この二人こそが、見どころです。安定感のあるベテランの前で、二つ目がどんな戦略で印象を残してくれるのか!?
どう転がっても最後は扇辰師匠が最高の空間にしてくれるので、安心してご来場ください。

▽瀧川鯉斗 たきがわ こいと
21歳で入門、芸歴12年目、2009年4月二つ目昇進。
元・名古屋の暴走族総長。バイト先の居酒屋で鯉昇師匠に衝撃を受けて、入門。インスタグラムをやっている。女性誌「JJ」の企画で末広亭を案内した。甥っ子の想太郎さん(2歳)から「なおくん」と呼ばれている。

▽橘家圓太郎 たちばなや えんたろう
19歳で入門、芸歴35年目、1997年3月真打ち昇進。高校までラグビーをやり、現在もトライアスロンをやる熱血男。オヤジの小言マシーンぶりはは渋谷らくごでも爆笑を生み、ファンも多い。シブラクの楽屋で突如として後輩の落語家さんの40cmくらい目の前で本意気で落語を始める様子が度々目撃されている。独演会「圓太郎ばなし」「圓太郎商店」シリーズがライフワーク。

▽柳家わさび やなぎや わさび
23歳で入門、芸歴14年目、2008年二つ目昇進。古典落語だけでなく、創作落語という隠し刀をもつ実力派。イラストが可愛い。楽屋でスマホを探し続けていた昇々さんのことを、高座でイジリ倒したわさびさん。終演後、わさびさんは自分のスマホを楽屋に置き忘れて帰られました。

▽入船亭扇辰 いりふねてい せんたつ
25歳で入船亭扇橋師匠に入門、現在入門28年目、2002年3月真打昇進。
最近、iPadを駆使している。帰りの新幹線では、ハイボールとチーザを嗜まれるとのこと。今年の初夢は、国家に雇われた殺し屋集団に銃撃される夢。渋谷らくごの品質はこの師匠によって保たれている。

レビュー

文:えり Twitter:@eritasu29歳 女性 事務職 趣味:フラメンコを踊ること
2月12日(日)17時~19時「渋谷らくご」
瀧川鯉斗(たきがわ こいと)     「片棒」
橘家圓太郎(たちばなや えんたろう) 「つる」
柳家わさび(やなぎや わさび)    「西洋の丁稚/日本の小僧」
入船亭扇辰(いりふねてい せんたつ) 「心眼」

「余白の価値」



【明朗快活】



  • 瀧川鯉斗さん

    瀧川鯉斗さん


「東京ドームで三代目を見ましてね」と仰っていて、落語ファンとしては当然名跡の師匠かなと思うところですが、J Soul Brothersの方でした。まさかの逆パターン。「自己紹介します」と暴走族総長時代のお母さんのエピソードを話し、唐突に「えーそんなわけで鯉昇に入門しまして~」と気になるところは割愛。いつか入門のきっかけとか、そのときのエピソードも聴けたら嬉しいなぁと思います。まくらでは、お客さんの顔を見ながら一人一人に向けて話してくれる感じがとても丁寧な印象。前の方に座るとよく目が合うという錯覚を起こさせてくれます。
小噺のサゲで噛んだり、とっちらかってる感じもおもしろい。片棒のピーヒャラテレツクツケテンテン♪のお囃子の部分もノリノリ。にこにこと楽しそうに喋る鯉斗さんを見てるだけで仕事のストレスを忘れます。ヒーリング効果高いです。

【百戦錬磨】



  • 橘家圓太郎師匠

    橘家圓太郎師匠


正直に申しますと、圓太郎師匠は、私の好きな噺家さんたちの悪口を高座でそれとなく仰るので、そのたびにむかー!とします。でもやっぱり落語はおもしろくて笑ってしまいます。それと、悪口言われた方を応援したくなりますね。もっと私が応援しなくちゃという気持ちになります。そう考えるとヒール(悪役)も必要なのかもしれません。
それにしても「つる」をおやりになるとは思いませんでした。短くて軽い噺というイメージだったので。それを余裕しゃくしゃくでたっぷりと。仕草や、声の強弱や抑揚、細かい笑いどころがたくさん散りばめられていて、ベテラン真打の凄さを見せつけられた感じがしました。今まで聴いた「つる」の中で一番笑いました。あーくやしい。くやしいけどおもしろい。

【温故知新】



  • 柳家わさびさん

    柳家わさびさん


圓朝に挑むという企画のため、圓朝の速記本から掘り起こした短いネタを30分サイズに捏ねて伸ばしておいしく焼き上げたピザのような「西洋の丁稚/日本の小僧」
前編はイタリアのお使いの少年と作家の早口な会話のやり取り。イタリア人っぽく喋りますと前置きがあり、カタコトかと思いましたが想像以上にイタリア語っぽくて大笑い。「オマエはブザフォ~だな!」と聴こえてなんだろうと思っていたんですが、よく考えたら「無作法」ですね。わざとラ行のセリフ多くしてるのかしら?と思うほどRの巻き舌の発音が特徴的。後編は日本の小僧さんが、もらったぼた餅を隠すという噺。わさびさんの手にかかるとかわいくてかわいくて、いたずらしたくなる旦那の気持ちもよーくわかります。圓朝の速記本が元とはいえ、これは完全にわさびさんの噺として完成されています。なんだかあっという間だったので、もう一回見たい!癖になります。

【無我夢中】



  • 入船亭扇辰師匠

    入船亭扇辰師匠


扇辰師匠の「心眼」は聴き終わった後、誰かをぎゅっとしたくなるような気持ちになりました。
梅喜の妻のおたけさんがあまりにも暖かく美しく観音様のようで、個人的には物語の怖さよりもおたけさんの印象が強く残りました。特に最後のセリフ。「そう……いいよ」と笑顔のおたけさん。そのたった一言ですべてが救われたような気がして嬉しくて涙が出そうになりました。
おたけさんは本当に器量がまずいのか?と、帰りの電車の中で真剣に考えましたが、どうしてもまずいとは思えないのです。丁寧な性格でいつも梅喜を思慮深く献身的に支えている。それなら、いつもにこやかで暮らしも身なりも丁寧に気を使っていて、どうしたって美しく素敵な女性です。完璧すぎて存在自体が夢のようです。
どっぷりと浸って頭の中に世界を描き、終わった後も残った余白で楽しむことができます。
この時間が私はたまらなく好きです。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」2/12 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ