渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 2月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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2月12日(日)14:00~16:00 柳亭小痴楽 春風亭柳朝 古今亭志ん八 古今亭菊之丞

「渋谷らくご」季刊 菊之丞:じっくり古典を聴く会

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プレビュー

最高の落語体験を、あなたに。今月も素晴らしい面々がこの時間に揃いました。
3ヶ月に一度「渋谷らくご」に登場してくださる古今亭菊之丞師匠、押しも押されもせぬ大人気真打です。落語に興味をもったタイミングでこの師匠の落語をぜひ聴いていただきたいです。「季刊 古今亭菊之丞」をぜひお楽しみに。
古典落語をライブ感でぐいぐい聴かせてくれる小痴楽さん。唯一無二のリズム感で心地よく異世界へトリップさせてくれる柳朝師匠。志ん八さんはポッドキャストでも大人気の、じっくり聴かせてくれる実力派です。

▽柳亭小痴楽 りゅうてい こちらく
16歳で入門、芸歴12年目、2009年11月二つ目昇進。落語芸術協会の二つ目からなる人気ユニット「成金」メンバー。
先月の渋谷らくごでは堂々のトリで登場。そのときに小便を漏らしたとツイートされていたおっちょこちょいな方。ただいまWOWOW動画では、小痴楽さんのシブラクインタビュー公開中。

▽春風亭柳朝 しゅんぷうてい りゅうちょう
23歳で入門、芸歴23年目、2007年真打ち昇進。毎朝、豆から挽いてホットコーヒーを入れている。銭湯巡りが趣味。朝起きるのが早い。2006年から毎日欠かさずブログを更新している。定期的に菊之丞師匠との仲の良さそうなお写真が掲載される

▽古今亭志ん八 ここんてい しんぱち
28歳で入門、芸歴14年目、2006年11月二つ目昇進。iPhoneケースはファミコンのコントローラー。渋谷らくごのどがちゃがで、志ん八さんの4コマ掲載中。魚が大好き。今年の秋真打ち昇進決定!渋谷らくごのポッドキャストでは、先月の志ん八さんの「子別れ」が配信中。感動したとのツイートが続々と寄せられています。

▽古今亭菊之丞 ここんてい きくのじょう
18歳で入門、芸歴26年目、2003年9月真打ち昇進。この夏公開の映画、ディズニー・ピクサーの「ファインディング・ドリー」の吹き替えで、声優デビュー。去年の落語協会のイベントでは、約3000個のたこ焼きを焼ききる。今年も菊之丞師匠はたこ焼きを焼くとの噂。

レビュー

文:井手雄一 男 34歳 会社員 趣味:水墨画、海外旅行

2月12日(日)14時~16時「渋谷らくご」

柳亭小痴楽(りゅうてい こちらく)「一目上がり」
春風亭柳朝(しゅんぷうてい りゅうちょう)「蜘蛛駕籠」
古今亭志ん八(ここんてい しんぱち)「締め込み」
古今亭菊之丞(ここんてい きくのじょう)「愛宕山」

RELAXIN’



柳亭小痴楽さん


  • 柳亭小痴楽さん

    柳亭小痴楽さん

 あまり賢いとは言えない男が挑戦する、テレビ「アタック25」の世界でした。
 不動産会社に勤める主人公は、旅行会社などに勤務する他の出場者たちと、「九州一周の旅」を賭けて、クイズ番組に挑戦します。しかし、これが「坂本龍馬の出身地は、何県?」という問題に対して、「土佐県!」と答えてしまうほどの、かなりのおっちょこちょいで、司会者から「馬鹿は黙って立っていてください」と言われてしまい、なかなか正解することができません。そうこうしているうちに、他の出場者たちにどんどん先を越されて、回答パネルが次々と埋まっていきます。
 しかし、四択問題が始まると、「これは一体、誰の詩でしょうか?」という問題に対して、勘で「3番!」と答えてなんとか正解すると、続く六問目も、「七福神!」と、これまた連続して正解することができました。しかも、ここで丁度、「アタックチャンス」。問題は、有名な「古池や 蛙飛び込む 水の音」という俳句の作者は誰?というものでした。早押しだけは得意なこの男。すかさず、「松尾芭蕉の句です!」と、答えて見事に正解するやいなや、自信満々にパネルの「8番」を選択します。しかし、これはもともと意味不明な、全然関係のないパネルでしたので、せっかくの「七枚連続獲得のチャンス」を自らふいにしてしまいます。その後は、最後まで、回答することもできずに、惨敗してしまいました。そうです、この男はクイズうんぬん以前に、そもそもオセロのルールすら、ろくに知らなかったのです。それでも、意図しないところで、次々と数字が繋がっていく、パズル的な快感を演出してくれた、この日一番の番組の立役者となったのでした。
 日本の古典文学や漢詩が好きな方、ゲームなら「数独」などのパズル、または「この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO」など、フラグ回収型PCゲームが好きな方にオススメです。

春風亭柳朝さん


  • 春風亭柳朝師匠

    春風亭柳朝師匠

 ゲーム「ドラゴンクエストⅢ」のような、色々な職業が出てくるロールプレイングゲームでした。
 このゲームは、まず「ルイーザの酒場」で、一緒に冒険をする仲間を集めるところからスタートするのですが、主人公たちのパーティー「駕篭屋(かごや)」のところには、なかなかいい人材が集まりません。いろいろと酒場の回りで話しかけてみても、それがすぐ近くの「宿屋の主人」だったり、判で押したようにプログラムされた台詞を繰り返す「酔っ払い」であったりと、ロクな相手が見つかりません。仕方がないので、中で酒を飲んでいると、上級職である「お侍」が、こちらへと話しかけてくるではありませんか。これはまたとない大チャンス。話していると、お侍だけでなく「お姫様」まで、パーティーに加わってくれそうなので、俄然やる気が出てくる二人でしたが、「・・・そういった連中を見かけなかったか?」という、ただの世間話だったようで、二人ともがっかりしてしまい、一升瓶を二人で二本半開けて、酔い潰れてしまいます。
 翌朝、もう二人で旅に出ようかと、自分たちの駕篭を担いでみると、中に誰かが乗っていました。そして、「一緒に品川まで、冒険に行こう」と言われ、二人は喜んでその男とパーティーを組みました。
 そして町を出発したのですが、何やら持っている駕篭が重すぎて、なかなか前に進みません。それにモンスターが出てきても、新しい仲間は、中から出てきて戦おうともしません。仕方なくいつものように天秤棒で叩いて敵をやっつけていると、その拍子に駕篭が破れて、中から「二人」も人間が出てきました。「あんた一人じゃなかったのか!?」と、文句を言う主人公たちでしたが、「仕事は二人分ちゃんとするよ!」と言われます。そして、「じゃあいったい、何の職業なんだい?」と聞いてみると、二人とも「自分たちと同じ駕篭屋」であることが判明します。つまり、彼らも同じ理由で仲間が見つからなかったということです。
 かくして、メンバー全員が職業「駕篭屋」という、奇妙なパーティーが結成され、仲良く四人並んで、冒険の旅を続けることになりました。  アニメなら「この素晴らしい世界に祝福を!2」、漫画なら「珍遊記」、映画なら「ワールズ・エンド」が好きな方にオススメです。

古今亭志ん八さん


  • 古今亭志ん八さん

    古今亭志ん八さん

 「アキ・カウリスマキ」の映画みたいな、この世界の片隅に生きている人々を、丁寧に映し出す人間ドラマでした。
 フィンランドの小さな田舎町に暮らしている、夫婦の家に入った空き巣が、最終的にこの夫婦の喧嘩を仲裁するという物語なのですが、この監督特有の、「あまりカメラを動かさず、静かにじっくりと人物を見せる演出」が、この作品でも光っていました。
 例えば、奥さんが銭湯の帰りに、「また手ぶらで遊びに行っちゃあ、悪いわよ。・・・でも、そんなに言うなら、お邪魔しちゃおうかしら?」と言う、なんてことない日常会話のシーンがあるのですが、これを大変チャーミングに、またしっかりと描いています。そんな感じで、終始淡々と演出しているので、「入ってきた泥棒が、外へ出られなくなったので、家の床下に隠れる」という、ちょっと不思議なシチュエーションも、違和感なくすんなりと受け入れることができました。また、泥棒の仕事のあとを見て、自分の奥さんが浮気していると勘違いした旦那さんが、「もう離縁してやる!」と怒り出すシーンも、どこかしらユーモラスで、それを聞いた奥さんが泣きながら、「自分たちの馴れ初め」を話し始めるあたりも、シリアスな場面のはずなのに、私はこの二人に、かなり萌えてしまいました。
 そして、夫婦喧嘩が次第にヒートアップして、旦那さんが壁に投げつけた、やかんの湯をかぶった泥棒が、床下から這い出してきて、自分のせいでこうなったんだと、罪を暴露して夫婦喧嘩を止めに入る場面になるのですが、ここで二人がこの泥棒に対して、怒るよりも先に、ただただ「あんたが出てきたお陰で、離婚なんてことにならなくて、本当によかった」と感謝の台詞を言う姿が、実に感動的でした。ぼくとつとしながらも、確かに生きている人間の、心の揺れ動きをしっかりグリップしている感覚は、この作者ならではだと思います。
 他にも映画なら「ホーホケキョ となりの山田くん」、漫画なら「Sunny」が好きな方にオススメです。

古今亭菊之丞さん


  • 古今亭菊之丞師匠

    古今亭菊之丞師匠

 登場人物がみんな「おじさん」の、アニメ「ヤマノススメ」でした。
 「ヒナタ」というお金持ちのおじさんが、「愛宕山(あたごやま)」に登るというので、いっつもべったりしている「アオイ」という男が、一緒に京都までくっ付いて行きます。そして登山前日に、二人は先斗町で芸者さんを呼んで、明け方までどんちゃん騒ぎをやらかした後、翌日には金閣寺や清水寺に行って、さんざん遊びほうけたあと、急に思い出したかのように、登山を開始します。
 ヒナタから、「登山初心者のお前は、どうせすぐにへばるんじゃないか?」と言われたアオイは、「楽勝ですよこんなもん。歌いながら登れますぜ!」と、登山のペース配分というものをまるで守らず、序盤から全力でダッシュして、案の定すぐに疲れて、ぶっ倒れてしまいます。それから一人、ひーひー言いながら、遅れてやってくると、先に行ったヒナタたちが、「フリスビー」を投げて遊んでいました。「お前もフリスビーやる?」と聞かれたアオイは、だんだん元の調子に戻ってきて、谷にぶら下げてある的めがけて、勢いよくフリスビーを投げますが、ヒナタと違って全然的に当たりません。「激ムズ。さすが、旦那さんは天才だよ!」といつものように、ヨイショが始まると、調子に乗ったヒナタは、自分の懐から、あろうことか「金貨」を取り出します。そして、「俺は天下の遊び人だから、この金貨をあの的に当ててみせる」と、まるで札束を燃やして靴を探す成金みたいなアホなことを言ってのけたかと思うと、谷底へ向けて金貨を全部投げ捨ててしまいます。それを驚きながら見ていたアオイが、「旦那、あの落ちた金貨、どうするんですか?」と聞いてみると、「拾ったやつにやる」というので、狂喜乱舞。欲に目がくらんで錯乱状態に陥ったアオイは、そこら辺に置いてある傘を広げると、谷底へとメリーポピンズみたいに、えいやっと飛び降りてしまいました。
 生きていれば、この後はおそらく、救助ヘリなどの出動があったかと思いますが、お話としては「上手く着地して、金貨拾って、竹を使ってマリオみたいに、びよよ~んと飛んで戻れた」という、ありもしない妄想が語られて終わりになりました。
 つまり、この作品は「登山をする上で、絶対にやってはならないこと」を集めた、反面教師となっているのです。運転免許の更新の際に見る、交通ルールのビデオのようなもですね。
 映画なら「13日の金曜日」、漫画なら「花の慶次」が好きな方にオススメです。


 以上、一番手は、最近一人暮らしをはじめたという作者が出会った、愛すべき馬鹿たちが登場する面白話・・・の割には、構成が大変に凝った小品。二番手は、大酒飲みの主人公たちの、実にボンクラな日々を描いた物語でしたが、これまたとてもリズミカルで、ダンサブルな華のあるミュージカル。続く、三番手は、一転してしっかりと抑制されたテンポで、人間関係の綾をゆっくりと確実に、でもできるだけさらりと描いた、大変風通しのいい人情話。そしてオオラスは、街にやってきた移動式遊園地で行われる、小規模ですが、それ故にとてもポップで賑やかなディズニー作品でした。
 これらに共通しているテーマは、「品のいい旅路」といったものでしょうか。
 格安航空会社の飛行機に乗ると、コーヒーのカップを置くスペースすらないという話がありましたが、私が椅子に腰かけて、ゆっくりとみなさんのお話を聞いている分には、まるで飛行機のビジネスクラスに乗っているような、大変にリラックスできる快適なフライトでした。  どうもありがとうございました。



【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」2/12 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ