渋谷らくごプレビュー&レビュー
2017年 4月14日(金)~18日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
◎ニコニコ公式生放送「WOWOWぷらすと」中継あり(http://www.wowow.co.jp/plast/)
落語界では若手二つ目が人気があるように言われていますが、落語家の見時は真打になった後の、40代~50代という考え方があります。
これほど多くの落語家が存在する今、真打になるまでが勝負、みたいな風潮に待った!と言いたい。
コツコツ、コツコツ…。真打になってからも成長する若手真打がちゃんといます。
「地味だけど力のある真打」、通称「じみシン」。今年からは「若手真打の時代だ!」ということで、確実に楽しんでいただける「渋谷らくご」ならではのメンバーをそろえてみました。
▽立川志ら乃 たてかわ しらの
24歳で入門、芸歴19年目、2012年12月真打昇進。スーパーマーケットが好きすぎるため、朝日新聞で取り上げられたりしている。ツイッターでは、スーパーの各店舗の考察をおこなっている。いい事があったらハーゲンダッツを食べる。ポムポムプリン好き。ただいま渋谷らくごのポッドキャストで志ら乃師匠の落語配信中。そこでは、立川流の二つ目昇進試験の裏話が聴けます。
▽玉川奈々福 たまがわ ななふく
1995年曲師(三味線)として入門、芸歴22年目。浪曲師としては2001年より活動。2012年日本浪曲協会理事に就任。
「シブラクの唸るおねえさん」。日本全国に熱烈なファンも多く、浪曲の裾野拡大に大いなる野心を注ぐ。港で浪曲協会のTシャツを着て決めている写真がかっこ良すぎるとtwitterで話題にもなった。渋谷らくごのポッドキャストで奈々福さんの浪曲配信中、アクセス殺到しています。
▽柳家ろべえ 改め 柳家小八 やなぎや ろべえ
25歳で入門、芸歴14年目、2017年3月真打ち昇進。
東京農工大学工学部卒業。物理学を学ぶ。私服がおしゃれ。おかみさんの尻に敷かれている。ついに今年の3月に真打ちとなり、真打ち披露興行真っただ中。連日超満員。今後の披露興行は浅草演芸ホールで4月16日に、池袋演芸場で4月22日・28日に、国立演芸場で5月12日・16日に開催されます。
▽入船亭扇里 いりふねてい せんり
19歳で入門、芸歴21年目、2010年真打ち昇進。
趣味は競馬と野球観戦。絵本作家。熱狂的な横浜DeNAベイスターズファン。最近は麻雀熱が高まっている。毎日腕立て伏せをと腹筋をしているらしく、徐々に上半身はムキムキになっているとのこと。下半身のトレーニングは、散歩とのこと。渋谷らくごのポッドキャストから「扇里ファン」が急増中。渋谷らくごでは扇里師匠のあるプロジェクトが進行中です。
レビュー
「渋谷らくご」
立川志ら乃-ネタもまくらも 出来心
玉川奈々福/沢村美舟-浪曲シンデレラ
柳家小八-寝床
入船亭扇里-お血脈
立川志ら乃-ネタもまくらも出来心
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立川志ら乃師匠
志ら乃師匠のマクラはいつもその視点が面白くて好きです。しかし今回はしょっぱなからなにやら違います。毎回マクラが長すぎて落語を話す時間がないからと、なんと先に落語をやって、後からマクラをしゃべるという。そうして時間になったら途中でも帰る……これは志ら乃師匠いわく公務員オチという手法とか……?マクラが後なんて聞いたことなーい!こういう試みって面白いし、しっかりやっちゃうとこが凄い。
噺の主人公はちょっと頭の弱い、けれどもとっても素直な駆け出しの泥棒。泥棒稼業にもかかわらず、これまで空き巣を知らず、教えてもらって初めて空き巣に入ることになるというのんきさ(笑)。盗んでもいない家財を好き勝手に盗まれたと言い出す住人の男に、思わず隠れていた床下から出てきて身の潔白を示そうとするところも微笑ましい。また住人の男の方も「泥棒が入ったよー」と嬉しそうに大家を呼ぶ姿や、おじやは冷めてきた時に味がしみて美味しくなるという泥棒と共通するこだわり、次々に嘘を連ね大家との噛み合ってない会話や、花色木綿がもうよくわからないものになってる所も、志ら乃師匠の描く男の軽さとノリが楽しい。シーンが一つ一つ丁寧に描かれていてわかりやすく、かつ軽快な語り口に心地よく聴いている内に、落語「出来心」が終了。
終わって、頭を下げて……そこからほんとにマクラが開始(笑)。観ているこちらも不思議な気分です。始まったのは前座時代のアパート暮らしでのお話。部屋に入ろうとしたら、いつも鍵をかけていないドアに鍵がかかっている。中にいたのはなんと……泥棒!志ら乃師匠のジャンパーを着た泥棒の語ったセリフと「出来心」との関係に更なる驚きが……!どんだけ計算され尽くされた30分なのか。いやー、志ら乃師匠、凄いですっ。
玉川奈々福/沢村美舟-浪曲シンデレラ
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玉川奈々福さん・沢村美舟さん
初めてのお客様が多い雰囲気だったのでしょうか。浪曲はとっつきにくいものではないのよーと始まったのは「浪曲シンデレラ」。以前テレビでこのお話を拝見したことがあったけれど、生では初めての私。あれから浪曲に触れた回数が少し増えたせいか、それともやはり生だからなのか、印象が全然違うのはなぜかしら。
私の中での一番のヒットは、カタカナで聴こえてくる英語。「エブリバデー」とか「オーイェー」とか、浪曲の中で使われるだけでもう面白い。浪曲には和の印象が強い私にとって、この違和感がいい感じに飛び出して伝わってきます。浪曲のパワフルさと洋の濃さが出会う楽しさ。凄い顔で「オーマイガー!」とか言っちゃうヒドイ継母としょうもない義姉たちが、なんだか可愛く見えてくるから不思議。必死に幸せをつかもうと頑張っているから仕方ないかな、と思わせられてしまう姿。特に継母(笑)。おバカな娘たちの為に必死も必死。誰より一生懸命な姿が滑稽で楽しい。奈々福さんの表情と仕草がもうね、いいんですよ。
シンデレラのドレスや舞踏会での王子様の様子も、この浪曲での表現が面白い。節(ふし)と啖呵(たんか)で聴くと、「真珠色のドレスに、青く透きとおったガラスの靴」という、どこもおかしくない普通の表現に違和感を感じる(笑)。素敵なドレスを着て踊る人々、舞踏会の華やかな盛り上がっている空気を感じるのに、そこになにやら和のメロディーが流れているっていう不思議。ストーリーの先が見える安心感と、記憶に刷り込まれた表現を覆される新しさとが楽しい気持ちにさせてくれる。
王子様との幸せなダンスから12時の鐘が鳴り、駆け出すシンデレラ。三味線と節の作り出す大きなうねりと勢い。「見つけたー」という奈々福さんと美舟さんの三味線のピッタリ重なるタイミング。絶妙の掛け合いが心地よい。
浪曲の魅力はまだまだ奥が深いなぁ。でもその一端を知ることが出来てまた楽しくなりました。そうそう、個人的な感想ですけど……奈々福さんは派手じゃないけど華がある!
柳家小八-寝床
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柳家小八師匠
新真打の新しいご挨拶から始まりです。
とうとう、二つ目から真打に昇進された小八師匠。これまで二つ目さんとして応援させて頂いていたので、これからどう変わっていくのかますます楽しみです。でもボソボソと喋るマクラを見て、変わらない部分もあり安心しました(笑)。私も”小八師匠”という呼び方に早く慣れないといけないですね。
真打披露興行真っ只中の小八師匠、マクラでは鈴本演芸場でのトリ初日のお話が。小三治師匠のマネージャーさんの気遣いや、演芸場に向かう時のお気持ちなどのお話にニヤリとしました。落語家人生、一度きりの真打昇進披露ですもの。やっぱりいろいろあると思います。お祝いの空気と共に、そういう裏舞台の一端をお伺いできるのは素直に嬉しいです。
噺は「寝床」。長屋を回って旦那の義太夫の会が開かれること伝えてきた重蔵、この重蔵のキャラクターが好きです。とぼけたところが、小八師匠の雰囲気によく合って、サラリと笑わせてくれる。旦那に長屋の誰が来るのか尋ねられて、テンポよく、なおかつうまいこと来られない理由を答えていく。その上手い断りは長屋に住む本人がそう言ったのか重蔵が考えたのか、その辺の微妙なニュアンスは演者のさじ加減でどちらにもなる気がします。小八師匠の話ぶりは、重蔵が長屋の人々に理由を提案していそうで面白いです。頭良さそう。中でも断りで一番私が好きなのは「若旦那ははっきり嫌だとおっしゃいました」というところ。若旦那がどれだけきっぱり言ったのがとってもよくわかりました(笑)。
また、旦那のスネたところから、番頭の腕で機嫌を直してしまうくだりがいいですね。旦那の表情の変化やその緩急も楽しいし、周囲で見守りながらちゃっかり意見を言っちゃう店の衆も好き。旦那には困ったもんだと思いながらも大きく見守る温かい眼差しを感じます。落語のこういうぬくもりが好き。いいなぁ。
ここ何ヶ月か観させて頂いた中で、今回は1番心の芯とでも言うような、奥にあるドーンとしたものを感じました。喜多八師匠から受け継いだものも、ご本人の魅力も、今こそ現れてきている気がします。……って、偉そうなこと言ってすみません。でもそう感じる落ち着きを小八師匠に感じました。これが真打ってことなのかも、と私なりに思った次第です。
小八師匠、真打昇進、本当におめでとうございます!
入船亭扇里-お血脈
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入船亭扇里師匠
話さない方がいいと教わったのは「プロ野球・政治・宗教」の事とか。そう言いながら、大好きなプロ野球について話し出す扇里師匠です。それから宗教に行ったり世界史に行ったり、なんだか話題が行ったり来たり。話し方はいつもの落ち着いた扇里師匠だけれど、今回のマクラはどこかふわふわした感じ。世界史は縦割りじゃなくて横に見たら面白いとおっしゃって、同時代に生きた世界各地の偉人のお話など、次々に出てくる名前に、あの人とあの人が一緒の時代だったんだーと素直に感心しました。捉え方一つで世界史が楽しくなりそう。ぜひ学生の頃にこの話を聞きたかったなぁ。
そうして落語の本編ですが……扇里師匠の高座でこんなに下ネタとダジャレが多く入っていたのは、私が観た中では今回が一番でしょう!なんて言ったらいいのか、扇里師匠が会場の反応を探っているような感じが楽しい(笑)。あのマクラのふわふわはこの流れに繋がっていたのでしょうか。下ネタの反応が悪かったときは、素直に謝ってしまうのがいいのね、と学びました(笑)。いや、あんまり言う機会はないと思うんですけどもね。たぶん。
下ネタもダジャレもサラリと、でもしっかり言ってる感じが私にとって、新しすぎる扇里師匠です。話の全体に散りばめられたネタたち。どこまでが扇里師匠オリジナルなのかしら?地獄の世界と亡者たち、想像の世界だからこその自由さを楽しむ扇里師匠。私が知らなかった、遊んで冒険してる扇里師匠です。うわぁーって言いたい。いや、心の中ではあの時間何度も言ってましたけれど(笑)。
地獄の不景気を救うため、信州へ新幹線で移動しちゃう亡者・石川五右衛門。もうなんでもありながら、いつの間にか話が進んでいるのにも驚きますね。流石のストーリーテラー扇里師匠。面白さと驚きと、なんとも不思議で楽しい時間でした。歌う攻めの扇里師匠、まだまだ何か隠し持ってるものが色々ありそうです……(笑)。
【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」4/14 公演 感想まとめ
写真:渋谷らくごスタッフ