渋谷らくごプレビュー&レビュー
2017年 6月9日(金)~13日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
◎ニコニコ公式生放送「WOWOWぷらすと」中継あり(http://www.wowow.co.jp/plast/)
二つ目の柳家わさびさんがトリをとります。
ベテラン、遊雀師匠が客席を沸かせたあとに、わさびさんがなにを演じるのか。
落語家にとってトリでのネタ選びは、爆笑させてお客さんを帰すか、しっとり聴かせて帰すか、大変判断の難しいところです。
簡単に笑わせられる演目でも、トリで聴くと物足りなかったりすることもあります。やはりトリはその日の公演の出来を左右します。
古典、創作両方を操るわさびさんが、どんな手でお客さんを満足させようと試みるのか。若い落語家の奮闘をお楽しみに!
▽桂三木男 かつら みきお
19歳で入門、芸歴14年目、2006年11月二つ目昇進。この秋に真打ち昇進、祖父、そして叔父の名前である「桂三木助」を襲名する。よく深夜に料理をされるとのことで、得意料理はひたすら蜂蜜にこだわったアップルパイ。アップルパイは朝ご飯に食べている。
▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2011年二つ目昇進。
BSフジで毎週日曜放送「ポンキッキーズ」の新MCに大抜擢され、毎回お茶の間の子供達に響く小咄を作り続けている。小咄や謎掛けが一瞬にしてできてしまう。先日、大学の同期の結婚式に出席した際も、挨拶として謎掛けを披露されたとのこと。
▽三遊亭遊雀 さんゆうてい ゆうじゃく
23歳で入門、芸歴30年目、2001年9月真打ち昇進
とてつもない乗り物マニア。飛行機に関しては、「オールフライトニッポン」という本を出版している。バスに関しては、携帯灰皿に「バスで帰ろう」というスローガンを貼付けていた。私服がおしゃれで、メガネも鞄もビタミンカラーがアクセント。酒豪。
▽柳家わさび やなぎや わさび
23歳で入門、芸歴14年目、2008年二つ目昇進。映画『落語物語』では主演をつとめる。NHKBSの「our SPORTS!」に出演中。笑点の若手大喜利のメンバーに選ばれ、先日優勝した。ニコニコ超会議2017にも出演した。雨の日は、必ず長靴をはく。細い。よく見ると加瀬亮に似ている。
レビュー
6月9日(金)20時〜22時「渋谷らくご」
桂三木男(かつら みきお)-お化け長屋
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)-壺算
三遊亭遊雀(さんゆうてい ゆうじゃく)-風呂敷
柳家わさび(やなぎや わさび)-エアコン
「らくご交響曲」
交響曲という言葉は、森鴎外が訳してできた言葉らしいです。クラシックは色々好きだけど、ベートーベンの交響曲は格別です。「楽聖」と呼ばれるベートーベンですが、調べれば調べるほど突っ込みどころ満載の可愛い変人で、ぜひ暇なときに人となりをググってみるのをオススメします。落語もきちんとした伝統芸能って印象があったって方は多いかと思います。芸の素晴らしさは筆舌尽くしがたいのですが、噺家さんの印象は落語を聴きに行けば「きちんとした伝統芸能の担い手」からもっと親しみやすい印象へと変わります。
交響曲第7番。「のだめカンタービレ」等、映画やCMなどでよく耳にする機会があり、クラシックファン以外にも馴染みのある曲かと思います。各章独立しても成り立つくらいの素晴らしさですが、一貫しているのが刻んでいるリズムです。リズムの交響曲とも呼ばれるこの曲のように、この回のリズムはずっと頭に残るものでした。
第一楽章 桂三木男さん「お化け長屋」
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桂三木男さん
落語を聴く前の三木男さんの第一印象はずばり、チャラい。根暗な私とは対極にいる人種だと思っていました。が、丁寧な挨拶の序奏からスタッカート気味に音階を駆け上がるような早口のマクラで、どうやらただチャラいんではないっぽいぞ…と。マクラに聴き入ってみると、本編へのヒントになりそうなキーワード。何の噺をするのか想像させてくれるのです。そこから始まるのは「お化け長屋」。ベートーベンのイントロドンはそこそこ自信あるんですが、マクラでの本編イントロドン当てれるのは憧れです。
この後の遊雀師匠が仰ってたのですが、三木男さんは緩急の落語だと。三木男さんのべらんめえな口調がとってもかっこいいのですが、貫禄のある話し方のキャラや怪談部分のジットリした口調があるから、セッカチな江戸っ子の高速捲し立てが格好良く活きるのかと衝撃でした。第一楽章の緩急とまさにぴったりなのです。
第一楽章の終わりの音が半端でビシっと終わった感が無いので二楽章以降をワクワクさせますが、この噺もまだまだ続きがありそう…と思ったら、完全版もあるんですね。ぜひ三木男さんの完全版聴いてみたいです。
第ニ楽章 春風亭昇々さん「壺算」
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春風亭昇々さん
ベートーベンは音楽のあり方を根本から変え、芸術へと昇華させたスゴい人なんですが、座布団でふざけるのを観てくれとは、昇々さんのベートーベン度はすこぶる高い。リアルタイムでベートーベンを観ていた人の衝撃と似たようなものを感じられている気がしてならないのです。そんなベートーベンな昇々さん、登場人物が全員やばめです。ベートーベンの同じ音のパターンだけの10分超の曲が飽きるどころか中毒性があって急に鼻歌が出てしまいますが、一貫してやばめのキャクターたちが旋律を絡める様子はどことなく依存性があるようで、若干動きが感染します。兄貴の奴に騙されて計算が合わないと騒ぎ立てる店のご主人ですよ。その場で呑気に面白いなぁと観てたのに、後日仕事でデータが合わないピンチな時ですよ。自分の動きがご主人のようになっていたんです。数字を入れたくないから、ご主人が震える手を固定して算盤を動かして数字を入れたように、同じことを電卓でやってしまいました。つい昨日の実話です。気がつくと依存性にやられる恐ろしさのある落語です。
第三楽章 三遊亭遊雀師匠「風呂敷」
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三遊亭遊雀師匠
遊雀師匠、色気と渋さの混ざった素敵な見た目だし、マクラでこの日の出演者イジリをしてるのも、ちょっといい加減で毒舌なのに愛情溢れてるのが見えちゃってるところなんて理想の上司すぎるんです。それだけで充分すぎるのに、それだけにしてくれたらトキメキだけを持って帰れるのに、そんな印象で終わらせてくれないんです。かっこいい兄貴分と色っぽいおかみさんの会話で、素敵な「風呂敷」が聴けるのかとワクワク。が、泥酔している荒くれ者の亭主が出てくるはずなんですが、この亭主がなんか妙に気弱。つい勢いでガッと声を荒げる度に、それ以上の力で制裁を食らっていたんだろうなぁ…と簡単に想像できるくらい、おかみさんと亭主の力関係が見て取れます。気弱な亭主が可愛いくて、なんかなぐさめたくなってしまうんです。思ってたのとなんか違う。でも、想像してた展開から肩すかしを食らうのはとてつもなく気持ち良いのです。
第四楽章 柳家わさびさん「エアコン」
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柳家わさびさん
マクラは過酷な前座時代の話題だったのですが、ふつうに聞けば相当な苦労話です。かわいそうだなーとか、下手したら感動秘話にだってなり得る。そんな涙をさそう話は求めませんよ、普通はね。が、さすがわさびさんです。振り切れた人の振り切れた話は、普段の感性をかなぐり捨てれる絶好の機会です。自分なら神経参っちゃうなぁそんな修行をやりきったわさびさんすごいなぁ…って瞬時に思いやりの気持ちが出るのが人ってもの。今冷静に考えたらきちんとそんな感情があります。ところが、この時ばっかりは私の人としての感性は麻痺してしまい、苦労に対する感想は「やべぇ‼︎くっそ面白いww」でした。ささやかながら、振り切れることができました。
わさびさんの新作落語は初体験だったんですが、これまた登場人物一人一人のキャラが濃すぎ。全く頭を休ませてくれません。もはや脇役不在。誰をフューチャーしても一席できるのではないか…。しかも役はわさびさんとかけ離れたイメージのキャクターなのに妙なしっくり具合。女子高生のキャクターが可愛いんだか可愛いくないんだか、スレスレなところが妙にいい。聴く方もテンションが上がりっきりで、トランス状態で聴く落語が妙に心地よいのです。 しかめっ面のイメージのベートーベンですが、感情が爆発している曲が多く、この第四楽章のように陽気な曲はとことん陽気なのです。そんな陽気なベートーベンがよく合う落語でした。
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