渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 6月9日(金)~13日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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6月11日(日)17:00~19:00 柳亭市童 台所おさん 入船亭扇辰 古今亭志ん八

「渋谷らくご」二つ目 古今亭志ん八がトリをとる会

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今月の見どころを表示

プレビュー

 今月は10公演のうち5公演で二つ目と呼ばれる身分の落語家さんがトリをとります。「真打」という、会社でいえば課長さんのような存在がいるとして、その昇進前の人たちです。
 ですが、最近ではこの二つ目さんたちの活躍が目覚ましく、落語家のなかでももっとも忙しい時期とも言われています。
 志ん八さんはこの秋に真打に昇進が決まっている存在。渋谷らくごでは、志ん八さんが訥々と語る温かい落語に人気があります。疲れている人、毎日つまんないと思っている人、前向きになりたい人、みんなで志ん八さんを聴こう!


▽柳亭市童 りゅうてい いちどう
18歳で入門、芸歴7年目、2015年5月二つ目昇進
最近ラップをはじめたのことで、上達がすごいとのこと。最近ダーツをはじめたとのことで、プロ並みの才能があるとのこと。サインの文字がとても綺麗。

▽台所おさん だいどころおさん
31歳で入門、芸歴15年目、2016年3月真打ち昇進。最近まで、お財布とスイカをもっていなかったとのこと。主な移動手段はひたすら歩く。とにかくドトールで時間をつぶす。パチンコで帰りの電車賃つかってまでもパチンコに没頭し、そして負けて一文無しになる芸人的一面をもつ。映画が好き、アキ・カウリスマキ、成瀬巳喜男、黒澤明が好きな映画監督。

▽入船亭扇辰 いりふねてい せんたつ
25歳で入船亭扇橋師匠に入門、現在入門28年目、2002年3月真打昇進。
最近、iPadを駆使している。読書量がすごい。ご自宅の本棚には、たくさんの本と落語の資料がいっぱい。お酒が大好きだとのことで、とにかく召し上がられる。二日酔いはポカリスエットで治す。持っている小物が可愛く、懐中時計がお洒落。

▽古今亭志ん八 ここんてい しんぱち
28歳で入門、芸歴14年目、2006年11月二つ目昇進。渋谷らくごの公式読み物どがちゃがでは、志ん八さんの4コマ漫画が掲載中。今秋真打ち昇進決定!魚好きで、釣りも好き。仕事を断らないという強靭な精神を持ち、先日は跳び箱の上で落語をした。両手をピースして顔を右に少し傾けるのが決めポーズ。言い淀みのない語り口と、しっかりとした間で笑わせる名手。

レビュー

文:井手雄一 男 34歳 会社員 趣味:水墨画、海外旅行


6月11日(日)17時~19時「渋谷らくご」

柳亭市童(りゅうてい いちどう)「棒鱈」
台所おさん(だいどころ おさん)「粗忽の使者」
入船亭扇辰(いりふねてい せんたつ)「千早ふる」
古今亭志ん八(ここんてい しんぱち)「転宅」


名画座のような落語会



柳亭市童さん

  • 柳亭市童さん

    柳亭市童さん

 映画「パルプフィクション」のような、会話劇がメインのコメディー作品でした。
 出てくる場所はほとんどが居酒屋のみの作品で、そこに二人連れの男が立ち寄ることで、お話が展開していくのですが、その様子がまるでサミュエル・L・ジャクソンとジョン・トラボルタがダイナーでだらだらとしゃべりながら、食事をしているシーンそっくりでした。
 この男たちが地元のレストランで食事をしていると、最近街に出てきたらしい田舎者の金持ちが、奥のテーブルで女をはべらせて、はしゃいでいるのに気が付きます。だんだんとイライラしてくるジョン・トラボルタ。最初はサミュエル・L・ジャクソンに叱られて、愚痴るだけだったこの男でしたが、田舎者が訳の分からないカントリーを朗々と歌い始めたのを聞いて、我慢の限界に達し、いつしか怒りでベロンベロンに酔っぱらってしまいます。そしてトイレに立った帰りに、ついにこの田舎者に絡み始めるのですが、食べ物を粗末にされ、侮辱されたこの男は銃を抜いて、一瞬即発の事態にまで発展してしまいます。この辺り、タランティーノお決まりの展開といった感じでした。
 他にもタランティーノ映画なら「イングロリアス・バスターズ」、他の映画なら「マリー・アントワネット」が好きな方にオススメです。

台所おさんさん

  • 台所おさん師匠

    台所おさん師匠

 映画「椿三十郎」のような、昔の日本映画みたいなエンタメ作品でした。
 特に会話の間の取り方やスピード感が、主演の三船敏郎みたいに、真面目さと茶目っ気が同居していて、大変印象的でした。  内容は、椿三十郎と違って完全なコメディー作品でしたが、田中邦衛らとのギャグシーンを彷彿とさせられるやりとりが多く登場し、「信じられないほど、もの忘れの酷い男の尻を、釘抜きでつねる」というもの凄く馬鹿馬鹿しいお話が、シックな笑いに変換されていたので、なぜか上品な読後感がありました。
 また、この作品は「朝に粗忽者が屋敷へ出かける場面」、「大工が仲間と話をしている場面」、「尻を実際にひねる場面」と明確にカットが割ってあり、落語によくあるプロットの、「与太郎が出てきて、ご隠居の真似をしようとして失敗する」ものや、「ひとつの場面でお話が展開する舞台物」みたいな作品と違って、起承転結が綺麗に付いていたので、現代的な語り口として、とても聞きやすかったです。ですので、落語初心者の方にオススメの作品だと思います。
 他にも映画なら「マスク」、「ジャッカス・ザ・ムービー」が好きな方に、オススメです。


入船亭扇辰さん

  • 入船亭扇辰師匠

    入船亭扇辰師匠

 映画「シザー・ハンズ」のような、少し前のティム・バートン感がある端正な落語でした。
 箱庭のような閉じた世界観で、登場人物二人の様子をただひたすら観察するという作品で、画面構成も大変落ち着いていました。そこをほとんど固定したカメラで、会話している場面だけを切り取って語るという作品でしたが、台詞のみで構成されている作品のせいか、不思議と「語っている」という感じがほとんどしませんでした。おそらくは、このようなストーリーの無い作品にも関わらず、グイグイと引き込んでいく手腕がものすごいせいだと思います。
 また、内容も「ちはやふる」という百人一首の歌詞を解釈するというメタ構造のある作品でしたが、結局本当の歌詞の意味は最後まで分からず仕舞いでした。昔は観客がすでに元ネタを知っていた、というのもあるのかもしれませんが、この作品の意味するところは、歌詞の本当の意味なんてのはどうでもいい、元ネタを使っていかに楽しく遊ぶかが重要だ、というhip-hop精神溢れるものであると感じました。
 在原業平の和歌ともども、一種の「曲」のような落語でした。
 他にも映画なら「オー!ブラザー」、「コーヒー&シガレッツ」が好きな方にオススメです。


古今亭志ん八さん

  • 古今亭志ん八さん

    古今亭志ん八さん

 映画「めまい」のような、傑作スリラー作品でした。 
 内容は「ミイラとりがミイラになる話」と言えばわかりやすいでしょうか。一体何が嘘で、何が本当なのかわからなくなる展開に、目がぐるぐると回る思いでした。
 この方の落語は大変に「静か」で、かといって別に声が小さいわけではなく、台詞だけ後でアフレコしたような、言葉に異様にビビッドな印象を受けます。それこそ昔の白黒映画、ヒッチコック作品のような感じで、内容にも演出にも、ものすごく安定感がある上、台詞がキマっているという感じでした。
 しかし、その作品のあまりの隙間のある静けさのために、こっちがあれこれと行間を想像してしまって、これは一体どういうことなんだろうと、頭が勝手に不穏な空気を想像し始めました。特に今回は、泥棒がお妾さんに騙されていく様子があまりにリアルで、ぞっとした気分になりました。
 見る人が自分の気持ちを好きなように注げる、大変おもしろい作品だと思います。
 他にもヒッチコックなら「サイコ」、他の映画なら「ゴーンガール」が好きな方にオススメです。


 以上、一番手は「最近暑くなってきたので、ついうっかりビールを飲んでしまいますよね」というマクラから始まった、とある飲み屋で巻き起こったドタバタを描いた作品。
 二番手は、自分でバリカンを使って頭を刈っているという方で、粗忽者というヤツはうっかり者とか通り越して、結構怖いほど頭がおかしいよね、ということがよくわかる電波な作品。
 三番手は、ものすごくきちんとした感じの、しっかりしてそうな方が出てきて、「今日落語が初めての方はどれだけいるのですか?」と聞いているので、何か優しい話をされるのかなと思っていると、全力投球でハードコアな落語をカマして来て、びっくりした作品。
 そしてラストは、九月に真打ちに昇進されるという作者が、普段はやらないという小咄を二三やったあと、泥棒を手玉にとったあげく、逮捕されに来たところをみんなで笑おうという性悪女を描いた、ドッキリ大作戦でした。
 シブラクはこれまで、何かに似ていると常々思っていましたが、今日の番組を見て、これは名画座の特集上映であるという結論が出ました。まだ見始めて日も浅いですが、生涯ベスト3に入るプログラムでした。
 どうもありがとうございました。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」6/11 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ