渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 6月9日(金)~13日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

イラスト

6月10日(土)14:00~16:00 林家たこ平 玉川太福* 立川左談次 柳亭小痴楽

「渋谷らくご」二つ目 柳亭小痴楽がトリをとる会

ツイート

今月の見どころを表示

プレビュー

 二つ目 柳亭小痴楽さん。現在の二つ目さんのなかでもとりわけ注目されている存在です。
渋谷らくごでもトリが板についてきた頃かもしれませんが、この日は大ベテラン、芸歴50年を迎えようとしている左談次師匠が直前に出ます。客席の空気がどう変わっていくのか。この回は最初から読めないスリリングさがあります。お楽しみに!


▽林家たこ平 はやしや たこへい
1979年7月4日、大阪府出身、2003年11月入門、2007年二つ目昇進。ツイッターのアカウントは存在しているのだが、6ツイートしかつぶやかれておらず、そしてツイート内容も不穏な空気を出している。朝の連続テレビ小説「梅ちゃん先生」では、テレビを運ぶ電器屋さんとしてご出演。

▽玉川太福 たまがわ だいふく
1979年8月2日、新潟県新潟市出身、2007年3月入門、2012年日本浪曲協会理事に就任。
「わかりやすい浪曲」を目指して日々奮闘中。大学までラグビーを続けていた熱血漢。2015年「渋谷らくご創作らくご大賞」を受賞。最近では尾崎世界観とも仕事をした。先日初めて生で大相撲を見たらしい。

▽立川左談次 たてかわ さんだじ
17 歳で入門、芸歴50年、1973年真打ち昇進。読書好き。
談志師匠とおなじ病気にかかり、病院に出たり入ったり。その様子がツイッターにアップされており、痛々しいというよりは、ほほえましい。最近作った駄洒落は「三社様患者様」ということがツイッターを読むとわかる。談志の弟子として、「立川」という亭号ではじめて真打になった人物。多くの落語家からリスペクトされている、かもしれない酒豪。多くの昭和の名人に触れ、若き日の談志師匠の空気感を知る数少ない人物でもある。ここでは書けない楽屋でのオフレコトークに歴史を感じる。

▽柳亭小痴楽 りゅうてい こちらく
16歳で入門、芸歴12年目、2009年11月二つ目昇進。落語芸術協会の二つ目からなる人気ユニット「成金」メンバー。最近お引っ越しされたとのことで、ご自宅にはセキセイインコを飼っている。名前は「福助」さん。先日携帯の誤操作で、桂歌丸師匠にワン切りをしてしまうくらい、機械に弱い昭和感を持つ28歳。

レビュー

文:瀧美保 Twitter:@Takky_step 事務職 趣味:演劇・美術鑑賞、秩父に行くこと
「渋谷らくご」
林家たこ平(はやしや たこへい) 「ちりとてちん」
玉川太福(たまがわ だいふく)/玉川みね子(たまがわ みねこ) 「流山の決闘」
立川左談次(たてかわ さだんじ) 「子ほめ」
柳亭小痴楽(りゅうてい さだんじ) 「花色木綿」

林家たこ平-ちりとてちん

  • 林家たこ平さん

    林家たこ平さん

たこ平さんの落語は初めてです。前情報はなしの状態。もしかしたらたこ平さんはシブラクに初登場なのかしら?渋谷に来たのは久しぶりで、あのスクランブル交差点を渡ったのも久しぶりとおっしゃって、なんとはなしに109に入ってみたりすぐ出たり、交差点もうまく渡れないなんて話に、同じ想いをした日を思い出します。

噺は「ちりとてちん」。夏の到来を感じるお話です。物が痛みやすくなる季節の到来ですよ(笑)。たこ平さんの六さんはとても腰の低い人。様々な言い回しでお酒や刺身をほめる。これがうまい。ちょっと大げさなようだけど、わざとらしさはあまり感じないし、言葉の使い方・重ならない表現の選び方がいいのです。これぞほめ上手だと思う。酒を飲む前に「うまい!」とほめちゃうのさえも愛嬌と感じさせるテンポの良さ。そうして一口酒を口に含み、目を閉じて天井を仰ぐようにしてゆっくりたっぷり味わう。うなぎの蒲焼は「もうなくなりました、もうなくなりました」と驚きでその柔らかさを伝えてくれる。この人は何でもほめるとわかってるのに、ほめ方が嫌みじゃない。観ているこっちにも美味しい刺身とうなぎ、お酒が欲しい(笑)。

またそれに対してもてなす主人の方はというと、相手によって対応を変えるちょっと偉そうな人。いわゆる中間管理職っぽい感じ。女中のおきよには小言も強めの言い方をするけれど、面倒な性格の金さんには下手に出たりとか。世間を渡って行くには誰もが多かれ少なかれそういう部分はあると思うけれど、腐った豆腐に唐辛子をかけるところの顔がすんごく悪くて好き(笑)。この主人は結構いい性格してるのかもーとか、ストレス溜まってるのかなーとか邪推したくなる顔。相手に対する反応が今時の人っぽい気がして、身近に感じますね。

もう一人、こちらは何を出されてもほめない金さんは、低めの声でつっけんどん、かつ端的に嫌みを言う。すぐに関わりたくないタイプと思わせる居住まい。主人特製のちりとてちんを飲み込んで、全身をうねらせ、震え、ひゃーと思って見ていたら、なんと後ろに倒れこんたのには驚いた。酒でうがいしちゃうのも楽しい。

たこ平さんの登場人物たちはそれぞれの個性がしっかりしていて、一言一言がこの人はこう言うんだ、というのがよくわかる。人によっては癖があるキャラクターに慣れるのにちょっとかかるかもしれないけれど、人物像がくっきりしているから、場面がとても理解しやすい。そしてそれぞれのキャラクターの性格付けが何しろ面白い。皮肉をすこーし入れて、現代風に仕上げた印象の「ちりとてちん」。たこ平さんの描く人物たちは、私がまだ知らない落語の世界を創っているいる気がするなぁ。今回ちょっとだけ、そのたこ平さんの世界を覗かせてもらったのかも。新しい出会いはいつもドキドキしますね。


玉川太福/玉川みね子-流山の決闘

  • 玉川太福さん・玉川みね子師匠

    玉川太福さん・玉川みね子師匠

たこ平さんとはお住まいに共通点のある太福さん。住んでいるところが近いってそれだけで親近感わいて嬉しくなりますよね。今月の「どがちゃが」を見たら、たこ平さんと太福さんは同い年なんですね。楽屋でどんなお話されたのでしょうか。この日の東京は32度、そんな暑い日には熱い話を……熱い話といえばやはり任侠(にんきょう)……ということで、清水次郎長伝をベースに三遊亭白鳥師匠が作った「流れの豚次伝(ぶたじでん)」より第三話「流山(ながれやま)の決闘」の始まり始まり~。ちょうど豚っぽい色の着物を着てるし、とおちゃめな太福さん。尻尾を引きちぎるような凶状持ち(きょうじょうもち)の豚次のお話です。

上野動物園から流れてきた豚次が現在お世話になっているところ、それは千葉の流山動物園。この動物園にはライオンやキリンはおらず、象が一匹。しかもその象も病気にかかっている。元気なのは牛に豚にチャボという、いわゆる家畜たち。動物園の来園者は日にたったの二人。豚次はお世話になった象・政五郎じいさんの治療について園長に掛け合うが……。

と、もう設定を聞いただけでも楽しくなってくるけれど、その豚次が熱く熱く任侠を語るのがいい。太福さんの太い声で、力強く語られるその想い。義理と人情。「恩義を忘れる者は犬猫にも劣る」と言う豚次に、園長からのいい感じのツッコミ。貧乏過ぎる動物園の為「4日も何も食べてない」という悲しい言葉はそのままに、ただし節で3回繰り返し言われると、悲哀が笑いになってしまう浪曲の不思議な楽しさもいい。また豚次が恩義の為に体を張り、バッと着物をたくし上げ尻を出す仕草をするけれど、男気のあふれるカッコイイシーンなのに、冷静に見れば実はそれが裸の豚で、当然着物なんか着ていないという場景の面白さ。真剣な想いはとても強く伝わりながら、傍から見たら笑えてしまうその光景の数々。何をしても何を言っても結局それは豚である、という滑稽さ。わかりやすく伝えてくれる情景といい感じのツッコミが気持ちよく笑わせてくれる。チャボ&アシカ、などなどさりげなくネタを入れながら、イキイキと描かれる動物たちも魅力的。三味線の音と共にブヒブヒブヒブヒ言って走っているだけ、けれどその姿を想像することがもう楽しい。ズルいぜ、豚次伝。それから上野動物園のパンダ親分もいい味出してて好き。竹筒で飲むドンペリって。ワルイわぁ(笑)。ギュウタロウにチャボコ、トラオにゴリ長親分。名前を言われるだけでも楽しくなってしまうのは私だけ?

太福さんのパワーと緩急、遊び心に楽しませてもらいました。悪い奴らも迫力を感じさせながらどこか滑稽なのは、太福さんの人柄でしょうか。同じ流れの部分の次郎長伝を聴いてから、またこの話を聴いてみたいな。きっと別物だけど、同じでもある。そんな聴き方も楽しめそうです。


立川左談次-子ほめ

  • 立川左談次師匠

    立川左談次師匠

体調は松竹梅で言ったら竹の上、と今日もにこやかに報告する姿が素敵な左談次師匠。シブラクをベースに入院日程を調整しているなんてお話もあり、退院して娑婆(しゃば)に出てくると言うのも楽しい。7月のシブラクにも登場予定だそうですよ。

病院での出来事のマクラも、そりゃ大変!と思う内容も面白く聴かせる技と軽やかさ。先日入院した時には、退院したその足で国立演芸場のトリの高座に上がるという荒業をやってのけたそうで。流石に高座中に魂が抜け出たという……のは嘘ですが、左談次師匠が言うと妙な説得力があります。素直に聴いて「もしかしたらあるかもしれないなぁ」と信じそうになってましたよ、私。落語家さんはこうでなくちゃね(笑)。

この日の噺は、19才で学び、何十年かぶりにやるという「子ほめ」。その為かどうか、魂の話をしたせいか、この日は始終ふわふわした印象の左談次師匠。お祭りのハレのような、浮かれていらっしゃる感じかな。シブラクで何度か高座を観させて頂いた中で、これまでで一番ふわふわ~。観ているこちらも楽しいけれど、本当にふわふわと地面から浮いちゃいそうです。ニコニコ、ニコニコ。「今後は時代的に皆がわからないことを積極的に採用してこうと思って」という師匠のいたずらっこっぽい表情も楽しげで。お客様を翻弄する言葉もひどく嬉しそう。誰よりも高座を楽しんでいらっしゃる姿が本当に素敵です。

あ、それから、今回のクリティカルヒットは「ウェウェウェ」です!いや、なんか違う音だったかも?表現出来ないあの音声(笑)。聴いた時の「なんだそれ!?」という驚きと可笑しさ。もう、自由ですよ。あー、ぜひ聴いて欲しい(笑)。時事ネタもさらりと織り込みながら軽やかでバカバカしいく、ただただ楽しい時間を満喫です。

そうそう、「おはちにお目にかかります」を聞いて、笑いながら某新真打を思い出したのは内緒ですよ。


柳亭小痴楽-花色木綿

  • 柳亭小痴楽さん

    柳亭小痴楽さん

軽やかなイメージの小痴楽さん。ここまででお客様はお腹いっぱいだろうからデザートの高座を、とトリという重責を感じさせず。むしろいつもにもまして楽し気な様子。左談次師匠の話を面白く聴いていたそうで、早速「ウェウェ」を組み込みながらの落語。うーん、こういう前を受けての反応の良さは、素直に落語家さんの凄さを感じます。

家に泥棒が入ったことを伝えようと大家を呼ぶところで、「大家、泥棒!」と何度も何度も呼んでいる内に、大声で大家を泥棒呼ばわりしている、少しイッちゃってる感じが好き。小痴楽さんのこの辺りのさじ加減の、少し超えちゃうところがいい。絶妙にちょっと、超えてくる。本人のセンスなのか、世の中生き抜く中で身につけたバランス感覚なのか。ほんの少しの狂気が見えるような見えないような。後半は軽快かつ威勢よく「裏は花色木綿!」と次々に繰り出され、どんどん楽しく笑わせてくれる。そうそう、羊羹は厚みと歯ごたえがありそうで、美味しそうだったなぁ。

久しぶりに観た小痴楽さんは、狂気をひそかに持ちながらも、全体通して軽やかでとても心地よく。前の出演者の方々からの流れに乗って、そしてきっと小痴楽さんの成長や楽しんでいる気持ちも相まって、以前よりもより真っすぐに伝わってくる気がしました。それは会場全体が暖かい空気に包まれているような、素敵な楽しい時間。二つ目の小痴楽さん、これから益々楽しみです。


【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」6/10 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ