渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 10月13日(金)~17日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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10月14日(土)17:00~19:00 柳亭市童 立川吉笑 玉川奈々福* 橘家文蔵

「渋谷らくご」 安定感を味わう 三代目文蔵を聴こう

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プレビュー

 三代目橘家文蔵師匠。渋谷らくご3年の歴史のなかで、一席たりともお客さんを後悔させた高座はありません。
 安定感と一口に言っても、それは期待をされてもその期待を上回るという、強者のみに使われる重い言葉です。
 それでも高座で結果を出し続ける。高座で毎日、自己記録更新中の文蔵師匠の、ハートの掴み方に注目。

▽柳亭市童 りゅうてい いちどう
18歳で入門、芸歴7年目、2015年5月二つ目昇進最近悪い誘いをうけてダーツをはじめた、天才的な才能があるらしい。最近悪い誘いをうけてラップをはじめた、天才的な才能があるらしい。初めてお酒を飲んだ時全く酔っ払わなかった。お酒に強い。

▽立川吉笑 たてかわ きっしょう
26歳で入門、現在入門7年目、2012年4月二つ目昇進。2015年『現在落語論』を出版。先月オンラインサロン「立川吉笑GROUP」を立ち上げ、ウェブを活用した新しい落語家の動きを模索している。酒豪。

▽玉川奈々福 たまがわ ななふく
1995年曲師(三味線)として入門、芸歴22年目。浪曲師としては2001年より活動。2012年日本浪曲協会理事に就任。「シブラクの唸るおねえさん」。浪曲の裾野拡大に大いなる野心を注ぐ。疲れたときは、深夜にハニートーストやみつまめのような甘いものを食べる。

▽橘家文蔵 たちばなや ぶんぞう
24歳で入門、芸歴31年目、2001年真打昇進。ツイッターで、朝ご飯や酒の肴など、日々の料理をつぶやいている。最近つくった料理は「稲庭うどん&ヒガシマル出汁つゆ使ったカレー南蛮」。疲れがたまるとシャワーを浴びて青汁と梅酢ソーダを飲む。

レビュー

文:瀧美保 Twitter:@Takky_step 事務職 趣味:演劇・美術鑑賞、秩父に行くこと

柳亭市童(りゅうてい いちどう)-弥次郎
立川吉笑(たてかわ きっしょう)-歩馬灯
玉川奈々福(たまがわ ななふく)/沢村美舟(さわむら みふね)-赤穂義士伝 俵星玄蕃
橘家文蔵(たちばなや ぶんぞう)-寝床


柳亭市童-弥次郎

  • 柳亭市童さん

    柳亭市童さん

小学校のお仕事で、年齢を10歳以上も上に思われてショックを受けたという26歳の市堂さん。若いけれどその落ち着いた雰囲気のせいでしょうか。

「弥次郎」は初めて聴く噺です。訪ねて来た男に、「どんな嘘を言うんだ」といきなりご隠居が言うから何事?と思ったけれど、そこから始まる男の武者修行……という名の果てしない嘘の物語。北海道ではその寒さで「おはよう」という挨拶が凍るという。凍った「おはよう玉」を集めて目覚ましにする。火事が凍ったから牛の背に乗せて運ぼうとしたけれど、道中で溶けて牛が丸焼けになってしまう。嘘だとわかっていても、テンポよく聴きやすい語り口と、ただただくだらないからこそ素直に楽しい。嘘から嘘が飛び出して、色々つじつまが合わなくても嘘だとわかっているからしょうがない。気になるところはちゃんとご隠居が突っ込んでくれるのが素敵。どこまでも勝手に都合よく話す男と、ご隠居のツッコミのやり取りが楽しくて、なんだそりゃあと思っている内にどんどんどんどん話が進む。色々無茶苦茶だけど、それをさらりと聴かせてくれる市堂さん。奥州南部の恐山に行ったかと思えば、猪退治から庄屋の娘に惚れられて、あらあら大変。途端に紀州の日高川に一足飛び。一尺(約30cm)の蛇が男の隠れた水瓶に巻きつくところ、迫力があるんだかないんだか。後半は安珍・清姫伝説、あの道成寺のパロディになっているらしく、よく知らなくても楽しかったけれど、そちらの話を知っていると更に違いも楽しめそうです。

話の中では様々な出来事が起きて、凍ってしまう雨やあいさつなどの不思議から、戦いの迫力まで、それぞれのシーンを市堂さんは自然にきちんと聴かせてくれます。話の無茶も、男が当然のようにしゃべるから違和感なく伝わって単純に面白い。落語らしい落語というか、バカバカしくて素直に笑える落語。こういう噺を何気なく、さらりと聴かせてくれる力があるという事、そんな市堂さんが次にどんな噺をやるのか楽しみです。


立川吉笑-歩馬灯

  • 立川吉笑さん

    立川吉笑さん

前の市童さんを受けて、いきなり嘘をかます吉笑さん。さらっと言われると、信じそうになるからいけないわ。
マクラは二つ目専用の寄席、神田連雀亭(かんだれんじゃくてい)についてのお話から。連雀亭は40席弱で、演者の方々との距離も近く、木戸銭も500円~1000円程とお手軽に二つ目さんの落語や講談を観られる場所です。9月で連雀亭はひとまず終了し、12月から新たに始まるとの事。私はここで新しく出会った二つ目さんも多かったので、どんな風に変わるのか気になるところです。

そんな連雀亭のある日の出来事。きゃたぴら寄席は昼間(13時半~15時)の時間、しかも平日ともなるとお客様はなかなか来ないもの。お客様を増やすためにとった、吉笑さんの姑息なネガティブキャンペーンが面白い。その日は常連三人のおじいちゃんだけかと思いきや、ふらりとみえたご家族らしき四人のお客様。どうやら落語初心者の様子。演者側の新たなお客様獲得を狙う心と、その演者の気持ちをよくわかっているプロの観客(笑)のおじいちゃんたちとの見事な連携プレイ。おじいちゃんたちが素敵すぎ!おじいちゃん三人の座る席で作られるフォーメーションといい、笑い方の変化といい、見事です。流石プロ!!「この三人はどうせ明日も来るから」って言っちゃうところも楽しい。おじいちゃんたちへの強い信頼あり。お客様も年季が入ってくるといろんな技が使えるようになるのね。現在、連雀亭は設備メンテナンスのお休み中で「立川流のめくりの字がちっちゃい疑惑」も確認できないのがなんとも残念。確かめに行く為にも、12月の再開以降も同じめくりが使われることを期待しています。

そして噺は吉笑さんの新作落語「歩馬灯」。死ぬ間際、人はそれまでの人生を走馬灯のように見るという。それが「走」じゃなくて「歩」だったら。子供の頃から死ぬまでの、その一日一日をゆっくり順番に見せられるとしたら……吉笑さんならではの面白い視点。退屈な日常、おんなじような毎日、それをずっと見続けなければならない苦痛。見てない時はその映像が止まるとか、早くなったりするとか、ブラックユーモア。でもその瞬間の必死な姿にはやっぱりただ笑ってしまう。人間が足掻く姿っていうのははたから見ると滑稽で、だから愛しいのかもしれないなぁ。吉笑さんの笑いやそのストーリーの発想はどこから来るのか。変化し続けている吉笑さんがどこに向かって行くのか、近づいたらバッサリやられそうだけど、それでも気になるお人です(笑)。


玉川奈々福/沢村美舟-赤穂義士伝 俵星玄蕃

  • 玉川奈々福さん・沢村美舟さん

    玉川奈々福さん・沢村美舟さん

先に出て座った曲師・美舟さんが二回程笑ったのが印象的。嬉しそうな笑顔。なんで笑ったんだろう?
マクラは先日行われた日本浪曲協会の豪華浪曲大会のお話から。シブラクなどで落語家の方々と同じようにマクラを話す奈々福さん。最近の出来事を話したり、本編の前の補足説明だったり、場の空気を作ったり、マクラにはいろんな役割があると思うけれど、実は浪曲にはマクラをやるという文化(?)はないそうでして。奈々福さんと太福さん以外の浪曲をほとんど聞いたことがなかったので、今更ながら知った事実に驚きです。私は今回初めて浪曲大会にお伺いして、奈々福さんのおっしゃる「ディープな昭和の感じ」(笑)を体験してきました。確かに浪曲師の方々のほとんどがすぐに本編に入る。名前を名乗り、短めの挨拶をし、もう本編が始まる。持ち時間の関係でそうなのかと思っていたけれど、あれが普通なのだとしたら、落語のマクラに慣れていると少しそっけない感じがする。その中で、太福さんや奈々福さんの時にマクラが少し長めにあって、なんだかほっとしました。私としてはほとんどが初めて観る浪曲師さんで、よくわからないまま始まるよりどんな人・どんなしゃべりや声なのか、マクラがあると親しみやすいかなと思いました。まあ、浪曲が大好きな方々が来る会ですから、私なぞは例外で、そんな説明なんていらないのかもしれないですけれども。

シブラクでマクラをやっている内に、「おしゃべりをする体質になっちゃった」という奈々福さん。初めて落語や浪曲に触れる人にはその世界に入りやすくなるのはもちろん、本編とは別に好きな演者の言葉を聞けるのは嬉しいもの。奈々福さんにはこれからもぜひたくさんおしゃべりして欲しいです。湯呑み台や松の盆栽を置く台の格調高さも素敵ですけれど(笑)、大衆芸能としての親しみやすさもやっぱり欲しいと思う。側にいて欲しい(笑)。お茶を飲む姿、三味線を待つ間の中空を見ている姿、そういう姿を楽しむことも浪曲の魅力なんだと改めて知ったのだって、奈々福さんのお話からですし、ね。そんな奈々福さんが「?!」って思っていた頃があったというのも、なんだか身近に感じられて嬉しいなぁ。珍芸性を見せないようになんておっしゃるけれど、落語との違い等々いろいろ不思議で気になるし、新しく知る嬉しさがある。なにより浪曲が面白くて楽しい。

本編の忠臣蔵は私の好物です。赤穂義士47人それぞれに、またその家族や関わった人々の間に様々な人間ドラマがある。この話も笑えるシーンは多くはないけれど、そば屋に身をやつしている杉野十平次をはじめ、理想の在り方を選び、そして忖度(そんたく)する玄蕃(笑)、出てこないのに存在感のある大石内蔵助(おおいしくらのすけ)と魅力的な人物がたくさん。想いは強くあるけれど表には出せない心が、奈々福さんの力強い節に乗ってずんと伝わってきます。「仙台の鬼夫婦」の時にも思ったけれど、奈々福さんの背筋のすっと伸びた姿勢は、槍を構える武士など戦う姿がよく似合う。その柔らかさと凛々しさをぜひ生でみて欲しいですね。


橘家文蔵-寝床

  • 橘家文蔵師匠

    橘家文蔵師匠

「待ってました!」の掛け声に、その言葉が演者側にどれだけ負担になるか、と笑いを誘う文蔵師匠。「掛け声はぜひかけるもの」という浪曲(と私は思ってますが、合ってるのかな?)とは好対照で面白い。

旦那の義太夫を聞きたくない長屋の人々の為、色々言い訳を考えるシゲゾウ。同じ数字を繰り返し言ったりそれらしい部分もあるけれど、文蔵師匠の自然な雰囲気と、言い訳くさく聞こえない何気ない話しぶりがいい。そして軽快な流れからの、旦那とシゲゾウとのやりとりが好き。はっきり否定したくてもできない「来ますん」のニュアンスが楽しい。「(定吉は)子供です!子供ですよ」の力強い言葉に子供の健やかな成長を願い守ろうとする気持ちと、一方で「抵抗力を養うにはいいのかもしれないですけど」と思わず漏れ出てしまったようなセリフ。なんだかわかる気がします。そしてとうとう自分の番になってからの「聞けますん」もいい。母一人、子一人、義太夫を聞いて万が一のことがあったら……と必死な抵抗から、「死んだ親父が言ってました正直に生きろ」と逆ギレするところへの流れが可笑しい。この正直者め!と思いながら勢い笑ってしまう。義太夫を聞きたい人がいないことに拗ねた旦那をなだめる番頭もいい。もちろん頭も切れ、口もうまいと思うけれど、なにより実直に対応することで旦那様の機嫌が直った印象がある。そういう人間の描き方は文蔵師匠のお人柄でしょうか。「ぎだたん」と言う子供の愛らしさ。優しい眼差しを感じます。ダメ押しのように「聞っかせろ、聞っかせろ」と手拍子で旦那をあおるところは、文蔵師匠のリズムに合わせ、お客様も手拍子でお手伝い。参加型落語です(笑)。こういうのも面白いですね。

そうして始まった旦那の義太夫。まさにそこは戦場です。高座でほふく前進する師匠!初めて観る形(笑)。座布団の上に這いつくばり、義太夫を避ける動きがいい。全身で戦う師匠。芋の煮っ転がしが食べたい駄々っ子の自由で無邪気な姿もいい。そうそう、がんもどき作りを説明する時のゴボウをそぐ姿や、油がはじける仕草も可愛かったです。身体全体で表現する中に、繊細な仕草があるから、そのかわいらしさが際立って見えるのでしょうか。ギャップ萌え、なのかもしれません。おそるべし。


【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」10/14 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ