渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 10月13日(金)~17日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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10月16日(月)20:00~22:00 瀧川鯉津 春風亭柳朝 立川龍志 隅田川馬石

「渋谷らくご」 磨き上げられた古典

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プレビュー

 ギャグで笑わせるのではなく、落語をストレートにやって笑わせる。目の前に世界が広がり、人物たちが繰り広げるおかしなやりとりに思わず笑う。落語を信じて、どうやればよりおもしろく伝わるか。
 この会は、そういった誠実な人たちが、音楽でも演奏するかのように、落語を語る。年々磨きがかかっている古典落語のオンパレード。贅沢な会です。
 ※予定していた立川左談次師匠は出演できなくなりました。払い戻し希望者は開演までに受付スタッフに申し出ください。

▽瀧川鯉津 たきがわ こいつ
36歳で入門、芸歴7年目、2014年二つ目昇進。プロレス好き。ホテルのバイキングは沢山食べちゃう系男子。岡村靖幸が好き。最近は、ルマンドのアイスにハマっている。トンカツ定食を頼んだ時に、キャベツをお味噌汁の中にひたして食べる。

▽春風亭柳朝 しゅんぷうてい りゅうちょう
23歳で入門、芸歴23年目、2007年真打ち昇進。毎朝早く起きて、豆から挽いてホットコーヒーを入れている。銭湯巡りが趣味。朝ドラの「ひよっこ」を欠かさず見ていた。高座姿からはなかなか生活感を出さない隙のなさ。

▽立川龍志 たてかわ りゅうし
23歳で入門、芸歴47年目、1987年真打ち昇進。稽古の鬼、ひとつひとつの噺をとても大事にされている。生まれも育ちも向島、根っからの江戸っ子! 今回、出演を予定していた兄弟子の左談次師匠の入院にともない、代理の出演を快く引き受けてくださいました。

▽隅田川馬石 すみだがわ ばせき
24歳で入門、芸歴24年目、2007年3月真打昇進。いまでも毎日5キロ、荒川沿いを走っているため、新陳代謝がとてもよい。1年に1度は市民マラソンに参加するときめている。フルマラソンのベストタイムは、4時間を切るほどの速さ。楽屋に入られるのも楽屋から出るのも早い。

レビュー

文:さかうえかおり Twitter:@Caoleen1022 特技:腹太鼓 初恋の人:千代の富士

10月16日20時〜22時 「渋谷らくご」
瀧川鯉津(たきがわ こいつ)-片棒
春風亭柳朝(しゅんぷうてい りゅうちょう)-源平盛衰記
立川龍志(たてかわ りゅうし)-崇徳院
隅田川馬石(すみだがわ ばせき)-笠碁

「安定と興奮の横綱相撲」



畏れ多くも普段白鵬のことは、同学年の親近感から、四股名の下の名前である「翔くん」と呼んでいます。翔くんの魅力は強さと茶目っ気と華。あんまり強すぎて勝つのが当たり前になると違う力士を応援したくもなりますが、結局応援しちゃうのが翔くん。左談次師匠にも実は密かな呼び名が…。初めて観たネタ「妾馬」に感動しすぎて、お兄様と心の中で呼んでいます。イケメンがイケメンな落語をやっても普通面白くないのですが、お兄様だけは別。残念ながら九月場所の白鵬のように、今回は左談次師匠休演でした。でも、つい先日の巡業で復帰した大横綱・白鵬のように、来月また左談次師匠のお姿観るの楽しみにしてます!
さて、九月場所は三横綱二大関が休場した波乱の場所。でも、終わってみたら若手の台頭と横綱大関の熱戦で1日たりとも見逃せない場所でした。今回はまさにそんな九月場所のような回。

瀧川鯉津さん「片棒」

  • 瀧川鯉津さん

    瀧川鯉津さん

上位陣の休場で、今場所正直不安でした。そんな不安も、初日が始まったら杞憂に終わりました。三段目の未だ負け無し・炎鵬です。白鵬の内弟子としても、そのアイドルみたいな外見からも、入門前から注目を浴びていたのですが、相撲っぷりがとにかく良く、まだ髷が結えないほど入門からまだそれほど経っていないのに堂々とした貫禄があります。鯉津さんはこの回唯一の二つ目。二つ目の噺家さんがたくさん出演されるしぶらくですが、この回のようなベテラン揃いだってけっこうあるのです。鯉津さんも炎鵬のような貫禄で、唯一の若手と言うより、見応えたっぷりのベテラン揃い踏みのよう。
相撲の優勝決定戦で最もワクワクするのが巴戦。「片棒」は商家の三兄弟の巴戦のような噺です。父親が葬式の出し方を問うのですが、浪費家の兄二人ととにかくケチな末っ子。勝負が拗れそうなのに案外あっさり決まりがちな巴戦のように、末っ子があっさり巴戦を制す戦いっぷりはある意味爽快です。

春風亭柳朝師匠「源平盛衰記」

  • 春風亭柳朝師匠

    春風亭柳朝師匠

国技館に行くと、意外な学びがあったりするのです。早く相撲が観たい気分は一旦落ち着かせ、正面ロビーを見渡してみましょう。古事記に出てくる相撲の場面の絵や、平安の天覧相撲、織田信長の上覧相撲の様子が壁画になっており、ちゃんと絵の解説も書いてあるので歴史の勉強になります。神話の神様が相撲好きなら古代史への姿勢も変わっていたし、信長が相撲好きなら仲間意識からもっと戦国時代熱心に勉強してたのに。
落語も意外と歴史が学べます。柳朝師匠のネタは「源平盛衰記」。こう聞くと何やら難しい真面目な硬そうなネタか、源平全く関係ない御隠居がいい加減な講釈垂れてるようなネタのどちらかのような響きです。が、ちゃんとした源平合戦の内容。だけどしっかり落語。柳朝師匠の軽さが歴史の勉強の苦手意識を綺麗さっぱり取っ払ってくれます。

立川龍志師匠「崇徳院」

  • 立川龍志師匠

    立川龍志師匠

横綱の取り組みは、やってくれるぞという信頼から安心して観られるのですが、だからと言って落ち着いていられるわけではなく、きちんと興奮するんです。途中連敗があったものの、悲観視することもなく優勝を信じられた日馬富士。だってあの立ち合いのスピードに敵う力士はいないんだもの。
左談次師匠の代演の龍志師匠。しぶらくに来るまであまり立川流を観たことがないので、龍志師匠は初めてでした。強い力士でも取り口への好みが分かれるように、落語もどんなに上手くて面白くても、稀に苦手な噺家さんもいます。なので、どんなベテランでも初めて観るときは楽しみ7割、不安3割。でも、龍志師匠には絶対面白いだろうと信じる何かがありました。案の定、出てきた姿だけで確信。やはり横綱はこうでなくちゃ。マクラで眠い眠い言う師匠にノックダウン。日馬富士が相手力士を土俵下に落とさないよう土俵際でハグするジェントルっぷりにドキドキするように、渋い外見の師匠が萌えさせてくると、もう素敵すぎてドキドキするのです。「崇徳院」は甘酸っぱくも滑稽な噺で、聴き終わった後には爽やかさに満ち溢れます。百人一首の崇徳院の歌が恋を取り持つのですが、学生時代にこの噺を知っていれば百人一首大会でもうちょっと活躍できたのに…と悔しくなります。勉強してたおかげで落語が楽しくなった事はあまりありませんが、逆に落語を聴いたおかげで勉強やり直してみたい気分になることは頻繁です。

隅田川馬石師匠「笠碁」

  • 隅田川馬石師匠

    隅田川馬石師匠

塩を撒いたり四股を踏んだり、取組前の土俵上も各力士個性があって面白く、制限時間一杯で軍配が返った途端に表情が険しくなる力士が殆どです。ところが横綱だと、あまりあからさまな表情の変化はしないものの、捕食者のような眼だけでその気合を出してきます。最後の塩を撒いて蹲踞をすると、息すらできない緊迫感。平幕では立ち合いでも場内の集中力は低くザワザワしてるのですが、横綱の取り組みでは軍配が返った途端に静寂が訪れます。
馬石師匠は噺を聴くのではなく、「観る」落語です。大袈裟な動きをするわけでもなく、表情と目の動きだけで情景を浮かべさせてきます。でも、不思議なのが表情も大袈裟に変えているわけでもないんですよね。あくまで「自然」に少し毛が生えたくらい。「笠碁」に出てくるメインの登場人物二人はなんだかまどろっこしい。はっきりものを言わない。なのに、一瞬の間と視線の動きが全てを悟らせます。もしこれをラジオや音源で聴いたら面白いのだろうか…と想像してみました。馬石師匠を一度でも観てたらきっと、視線だけで情景を想像させるあの独特の表情が浮かんできて面白そうです。視線が場を支配するのは横綱の相撲も馬石師匠の落語も同じなのです。


【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」10/16 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ