渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 10月13日(金)~17日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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10月17日(火)20:00~22:00 立川志の太郎 三遊亭わん丈 神田京子** 瀧川鯉八 林家彦いち

創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ」

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プレビュー

 二ヶ月に一度、自作の落語を世界ではじめて披露する会「しゃべっちゃいなよ」。
 毎回緊張と熱狂の2時間です。
志の太郎さん、わん丈さん、神田京子先生が初登場! 
鯉八さんも12月の大賞を決める会に照準を合わせ、本年二度目の登場。
トリはもちろん、鬼軍曹 彦いち師匠。ポーランドから帰国して空港からそのまま会場に駆けつけます。
聴き終えたあと、どっと疲れる濃密な2時間。脳のふだん使わない筋肉を使います。
演者とお客様で、落語を誕生させる会です。

▽立川志の太郎 たてかわ しのたろう
24歳で入門、芸歴8年目、2015年4月二つ目昇進。日本テレビの「はじめてのおつかい」でナレーションを担当している。帽子が好きとのこと。ニッスイの大きな大きな焼きおにぎりが好きとのこと。梅酒をつくられているとのこと。

▽三遊亭わん丈 さんゆうてい わんじょう
28歳で入門、芸歴7年目、2016年5月二つ目昇進。渋谷らくご初登場。競馬やパチンコで生活をしていたほどのギャンブルの腕前がある。元バンドマンでラップが上手いらしい。

▽神田京子 かんだ きょうこ
22歳で入門、芸歴19年目、2014年5月真打ち昇進。渋谷らくご初登場。出産をなさり、先日現場復帰をされる。ジャニーズの「滝沢歌舞伎2017」にて講談指導をおこなう。

▽瀧川鯉八 たきがわ こいはち
24歳で入門、芸歴11年目、2010年二つ目昇進。2015年第一回渋谷らくご大賞受賞。後輩には辛い思いをさせないとのことで、後輩をとにかく守るような優しい先輩でもある。よく楽屋に煙草を忘れる。先日生まれて初めて「太陽の塔」をみた。

▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。
創作らくごの鬼。キャンプや登山を趣味とするアウトドア派な一面を持つ。先日無事に大型二輪の免許を取得した。教習所の指導教官から「彦いちさん」とよばれた。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam


「渋谷らくご」2017年10月公演
▼10月17日 20:00~22:00
林家彦いちプレゼンツ 創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」

立川志の太郎-昔噺
三遊亭わん丈-食欲のアキラ(コンビニ・雨・食欲の秋)
神田京子-テモとイネ~おてもやん~
瀧川鯉八-人生あやとり
林家彦いち-まん中

シブラク初登場は、京子先生とわん丈さんとの2人。しかも京子先生は講談。さらにしゃべっちゃいなよ初登場が志の太郎さんで、今期しゃべっちゃいなよ2回目の鯉八さん。何が起こるかわからないプログラムの中、みなさん想像の上を行くぶっとんだ創作を披露してくれました。演者さんにとってもお客さんにとってもリスクが大きい反面、リターンも大きいネタおろし。ここだけしか味わえないネタが聞けて今月も大満足です。

立川志の太郎-昔噺

  • 立川志の太郎さん

    立川志の太郎さん

志の輔一門というだけで期待値が高くなってしまう中でのトップバッター。相当なプレッシャーかと思いますが、スマートでセンスあふれる創作落語を見せてくれました。「昔話」を落語にするのは比較的オーソドックスなのですが、すでにパターンが出尽くしているだけにハードルも高い。その中で、志の太郎さんが目を付けたのは、物語の創作過程そのものを昔話にしてしまうこと。ウルトラC級の発想で「こういうやり方もあるのか」と驚きました。
オリジナルの昔話を作るという夏休みの宿題に立ち向かった青島親子。前半は昔話の創作過程での親子の掛け合いが楽しく、後半は息子が作った「昔話」の中で、親子間の秘密の暴露が無限ループのように続いていくばかばかしさに笑います。発想の奇抜さだけで笑わせるのではなく、登場人物の人間関係や人間性に中心に置いているのが志の輔一門らしくて好印象です。

三遊亭わん丈-食欲のアキラ(コンビニ・雨・食欲の秋)

  • 三遊亭わん丈さん

    三遊亭わん丈さん

シブラク用に作っていた話を直前で破棄して、出演当日の午後にTwitterでフォロワーからお題を募集して「三題噺」を作ったわん丈さん。ギャンブラーで、ロックバンドのボーカリストの過去を持つわん丈さんらしいロックでスリリングな落語でした。
出演時間22分のうち3分の2以上を費やしたのが、「自分がいかにシブラクに出たかったか」を熱弁したマクラ。師匠から「営業」を止められていたわん丈さんが、寄席の打ち上げで居合わせたタツオ氏にあいさつをして出演をアピールするくだりは爆笑でした。二ツ目さんの中にある、シブラクブランドに対する1つのスタンスが見られたのも興味深かったです。
三題噺は6分の短編でしたが、「コンビニ・雨・食欲の秋」の3つで作った中身は強烈。コンビニで働くバイト3人のうち、性欲が異常に強くてエロネタを連発する女子大生のキャラクターは大好きです。持ち時間でまんべんなく笑いを取り、爪跡を残したわん丈さんのやりきった感あふれる表情も素晴らしかったです。

神田京子-テモとイネ~おてもやん~

  • 神田京子先生

    神田京子先生

シブラクでは2人目の講談の出演。今をときめく松之丞さんの7つ上。2代目神田山陽の最後の弟子。初登場がまさかの創作ネタおろしとは。私自身、京子さんが二ツ目になった頃はよく見ていましたが、今回はかなり久しぶり。アイドル的な笑顔を振り巻き、一生懸命に語る姿が印象的だった京子さんが、講釈師としての貫禄を身に付けつつ、可憐さを失わずにしゃべっている姿を見て感激しました。創作だから、シブラクだからという気負いもなく、普段の講談の定席でしゃべっているかのような落ち着きで安心して見られましたね。
ネタは熊本民謡「おてもやん」をモチーフにした創作講談。幕末期、熊本の小作農家で生まれた「テモ」という名の女の子が、奉公に出た花街で芸者の「イネ」と出会い、友情を深めながら成長し、好きな男に告白に行くまでのストーリーです。資料を読み解き、講談の新作文法に則りながら、女性の明るい友情物語に仕立てた京子さんの創作手腕は見事。素材に対する執念を感じます。最後は高座で「おてもやん」の踊りを普通に踊る京子さん。愛と情熱があふれる一席でした。

瀧川鯉八-人生あやとり

  • 瀧川鯉八さん

    瀧川鯉八さん

鯉八さんの落語って鯉八さんの素のしゃべりは少なく、マクラから世界観をまとっているのですが、今回はマクラ自体が本編に組み込まれていて、グラデーションのある創作落語になっていました。
鯉八さんの代表作の1つ「ぷかぷか」は、「なんかいいことないかなぁ」とつぶやく普通の男が大スターに登り詰めたものの夢破れて原点に立ち返ります。それに対して本作は偉人になりたい野心家の中2男子が、有名人の格言をパクることでトップに登り詰める夢を妄想します。「ぷかぷか」と今回の2作はどこか、鯉八さんの中にある「トップを取りたい」「有名になりたい」といった願望を裏と表から描いているのではないかと推測してしまいました。
本編ではとある芸術家の有名エピソードで引っ張りつつ、ラストはそれを逆手にとった落語ならではトリックオチ。鯉八マジックにやられました。物語の中で繰り返されるピカソの「描くのに30秒しかかからない絵も100万円。だってそれは40年と30秒をかけて描いた絵だから」の格言に対して「僕の落語もそう」とつぶやく一言が印象的でした。

林家彦いち-まん中

  • 林家彦いち師匠

    林家彦いち師匠

オレゴン州のポートランドから帰ってきて、空港から直行でシブラクにやってきた彦いち師匠。帰りの機内、時差ボケの中で書いたという創作落語は、まさにドキュメンタリー落語の彦いち師匠の魅力がつまったできたてホヤホヤの作品でした。
物語は、アメリカから日本に帰ってくる飛行機の中で勃発した「肘掛け」の奪い合いから端を発する航空サスペンス風人情コメディ。飛行機内での不穏な空気、旅の気分を台無しにしかねない状況から、なぜか北関東のある地方の工場の社員旅行の物語に展開していくのがギャップ有りすぎ。飛行機内で「プリングルスを食べる男」「英会話を勉強する男」「映画を見ている隣の客に話しかける男」など、飛行機内のエピソードもリアリティがあり、旅好きの彦いち師匠のならではユニークな作品でした。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」10/17 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ