渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 10月13日(金)~17日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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10月16日(月)18:00~19:00 入船亭扇里 立川こしら

「ふたりらくご」 コントラスト落語会 17年、秋。

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プレビュー

 若手真打のふたり、渋谷らくごでももっともゆったりした扇里師匠と、もっとも口がまわるこしら師匠。
 この二人によるコントラスト比最大、落語の魅力増大の落語会、秋編。
 今回は、扇里師匠が先にあがり、こしら師匠がどうまとめてくださるのか、非常に楽しみな会です。

▽入船亭扇里 いりふねてい せんり
19歳で入門、芸歴21年目、2010年真打ち昇進。絵本作家。熱狂的な横浜DeNAベイスターズファン。三国志と戦国時代の戦略に精通していることから、今回の日本の政局は読めたとのこと。渋谷らくごのポッドキャストから「扇里ファン」が急増中。

▽立川こしら たてかわ こしら
21歳で入門、芸歴21年目、2012年12月真打昇進。フットワークがひたすらに軽く、日本のみならず海外でも独演会を開催している。この夏はメキシコとオーストラリアで独演会が開催された。この秋は、フォークリフトの免許取得を目指している。

レビュー

文:海樹 Twitter:@chiru_chir_chi 最近一番食べてみたいのは、原美術館のカフェにあるガーデンバスケット

10月16日(月)18:00~19:00 「ふたりらくご」
入船亭扇里 「秋刀魚火事」
立川こしら 「抜け雀」


「さんまとすずめと扇里とこしら」



 今から数ヶ月前のこと。2017年2月10日、私は初めて落語を観に行った。ドキドキしながら始まるのを待つ、どんな人が出てくるのかもわからない初めての経験。出囃子と共に颯爽と現れたのは、立川こしら師匠だった。高尾太夫の登場するアクロバティックな「鰍沢」、そうか落語ってこういうものなのかと笑いながら思った。次に出囃子と共に現れたのは入船亭扇里師匠。しっとりと落ち着いた語り口の「崇徳院」、あれ?さっきの人の感じとぜんぜん違う、と困惑した。

  私と落語の出会いは、そんな笑いと困惑に包まれたものだった。それから数ヵ月後に同じ組み合わせの「ふたりらくご」を観に行って、感想を書くことになるとは。生きていると面白いことってあるものだ、なんて感慨に耽っていると出囃子が聞こえてきた。

入船亭扇里「秋刀魚火事」

  • 入船亭扇里師匠

    入船亭扇里師匠

落ち着いた雰囲気で、お客さんの気持ちをゆったりさせてくれる扇里師匠。その誠実そうな見た目を裏切るように、まくらではお金を稼ぐために競馬に打ち込んでいたことを語る。仕事がないときは週に四万円は稼いでいたとのこと、なかなかである。

噺に入るとパタパタとさんまを焼く音が響いてくる、18時過ぎのお腹の空く時間に。落語の流れに身を委ねながら、私の頭の中では今年食べた二尾のおいしいさんまの記憶がよみがえってきた。

一尾目は「茗荷谷のさんま」。友人に連れて行ってもらった茗荷谷駅から徒歩数分の場所にある、味のある外観の飲み屋さん。あの吉田類さんも番組で訪れたという名店。「食べてみて、間違いない、間違いないから」と薦められて注文した、さんまの塩焼き。しゅうしゅうと音のする焼きたてを頬張ると、最高。脂の乗った身の美味しいこと、美味しいこと。「でしょ!」という友人に向かって、無言で頷いた。

二尾目は「吉祥寺のさんま」。落語の御縁で知り合ったステキな方と行った、吉祥寺駅から徒歩数分の場所にある、おしゃれな外観の飲み屋さん。お酒に詳しいご主人と、ふんわり優しそうなおかみさん。「どれもおいしい、間違いないから」と薦められて注文した、さんまのコンフィ。大きな白いお皿の上で、クタッとしている丸々のさんま。「頭も骨もすべて食べられますよ」とおかみさんに言われて、さっそく四等分してかぷっと頬張ると、幸せ。じっくりと煮た、脂の乗った身がしっとりとおいしくて、お酒とも合ってすばらしい。無言で、幸せであることをステキな方に伝えた。

ふと気付いたら、きゅるきゅると自分のお腹が鳴っていた。私の周りの席からも、きゅるきゅると誰かのお腹の音がしてきた。私と同じように扇里師匠のさんまにやられたのだろう。笑いだけではなくお客さんの胃袋を掴む扇里師匠、さすがである。今年三尾目のおいしいさんまと出会えた、感謝。

立川こしら「抜け雀」

  • 立川こしら師匠

    立川こしら師匠

パッと華やいだ雰囲気で、お客さんの気持ちをグッと盛り上げるこしら師匠。その遊び人風の見た目を裏切るように、まくらではお金を稼ぐために同じアパートに住む人の自転車のパンクを修理していたことを語る。一回800円とのこと、良心的価格である。

「抜け雀」、私の知っている噺とは微妙に異なる展開だった。いつの間に宿屋の二階の一間を学習塾にテナント貸しするようになってしまったのか、経営状態が厳しいのかもしれない。絵師の男が一文無しとわかったときに「ノーマネーでフィニッシュ」なんて言っただろうか、マネーの虎に影響されたのかもしれない。絵師の男から「見えないならくり抜いてアボカドでも入れとけ」と宿屋の主人は怒られていただろうか、大きさを考えると大変そうだよな。

そんなふうにどこか自分の中に生じる違和感を納得させながら、ついにサゲにたどり着く。面白かったなと叩きかけた手が止まる、大事な親にカゴを描かせても噺は終わらない。

あれ、絵師の父親は出てきたけれど、姉とか母親とか出てきたかな。何て思っているうちに、狩野派の絵師と身内がどんどん出てくる。そして衝立にはスズメと止まり木だけでなく、飲み水やら、雨雲やら、田んぼやら、農夫やらが次々に描かれていく。
そうか、「抜け雀」は狩野派の絵師がいっぱい登場する噺だったよな。まぁ細かいことはいいや、面白くていっぱい笑ったから。

さんまとすずめと扇里とこしら
みんな違って、みんないい。


【この日のほかのお客様の感想】
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