渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2018年 11月9日(金)~14日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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11月9日(金)20:00~22:00 立川寸志 柳家小里ん 玉川太福* 古今亭文菊

「渋谷らくご」くもはるフェスin 渋谷らくご

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プレビュー

 ◎トークゲスト:雲田はるこ(『昭和元禄落語心中』原作者)
 ◎「ぷらすと × Paravi」にて中継あり(トークの中継はありません)

マンガ 『昭和元禄落語心中』の原作者の雲田はるこ先生をお迎えして、雲田先生がいま聴きたい噺家さんたちに出演していただく会です。
アニメ化、ドラマ化もされ好評の『昭和元禄落語心中』。落語人気の導火線ともなったこの作品の生みの親が、いま気になっている演者さんたち。
渋谷らくご楽しみな二つ目賞受賞の寸志さん、柳家のベテラン 小里ん師匠、浪曲の風雲児 太福さん、トリは奇跡の30代、古今亭文菊師匠です。


▽立川寸志 たてかわ すんし
44歳で入門、芸歴8年目、2015年二つ目昇進。2017年渋谷らくごたのしみな二つ目賞受賞。緊張を楽しめる性格。カラオケボックスに入り稽古を重ねる。先日首都大学東京発行の雑誌にて「笑いとOR 最適解の見つけ方」という対談をした。

▽柳家小里ん やなぎや こりん
21歳で入門、芸歴50年目、1983年9月真打ち昇進。大の映画好き。ユーロスペースにたびたび映画を観にくる。浅草のパチンコ屋に出没する。浅草演芸ホールに出演する落語家さんが突然来られなくなり興行が滞りそうな時は、前座さんはパチンコ屋に走り、小里ん師匠を探す。

▽玉川太福 たまがわ だいふく
1979年8月2日、新潟県新潟市出身、2007年3月入門、2012年日本浪曲協会理事に就任。2017年文化庁芸術祭大衆芸能部門の新人賞を受賞。この秋ソニーミュージックから浪曲CDが2枚同時に発売される快挙をなしとげる。靴下が可愛い。

▽古今亭文菊 ここんてい ぶんぎく
23歳で入門、芸歴16年目、2012年9月真打ち昇進。私服がおしゃれで、楽屋に入るとまず手を洗う。前座さんからスタッフにまで頭を下げてくださる。まつげが長い。雲田はるこ先生が描く文菊師匠は、声まで聴こえてきそうなほど似ている。

レビュー

文:香川菜月Twitter:@cntszz (なんでも楽して、ちょっとズルしたい)

11月9日(金)20時-22時「渋谷らくご」
立川寸志(たてかわ すんし) 「野ざらし」
柳家小里ん(やなぎや こりん) 「五人廻し」
玉川太福(たまがわ だいふく)・玉川みね子(たまがわ みねこ) 「小江戸の二人 おかず交換」
古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく) 「心眼」

「雲の上は歩けない」


この素晴らしい日に名前を付けたくて、私の中で勝手に今日を「いい落語の日」にした。上手い語呂合わせは思い浮かばないけれど丁度11月だから良しとしよう。忘れたくない位に、いい日だったんだ。
いつも通り舞台にタツオさんが上がり、いつもより少し短い諸注意を教えてくれた後「じゃあ雲田はるこ先生、お願いします」なんてさらっと呼ぶもんだからびっくりした。先生もびっくりした様子で、バタバタと急ぐ足音が遠くから近付いてきて面白かった。
昭和元禄落語心中、私は遅いデビューで丁度去年の今頃読みました。知識が豊富に詰まっていて勉強になるしストーリーには笑ったり泣かされたり大変だった。私はとにかく飽きっぽいので大抵の漫画は読み返すことはないが、好きな噺の場面をもう一度読んだり、噺を探して漫画を読みながら聴いたりした。何度でも楽しめる漫画だ。登場人物が生きていたらいいのにと、毎ページ思った。とにかく超スーパーハイパー鬼面白い漫画です。
そんな漫画の産みの親である神様、雲田はるこ先生とタツオさんのトーク。さすがタツオさん!と拍手を送りたくなるような良い質問ばかり。雲はる先生が落語好きになったきっかけ、初めて行った寄席はどこか。誰を推して追っかけたか、寄席は最初から最後までいるのはちょっと大変なんて話も出て楽しい時間だった。
公演前の二人のトークで客席はもうホッカホカ。金曜の夜、今週もなんとか乗り越えた。少し休んだらまた目まぐるしい日々がやってくるが、今はなにより早く落語が聴きたい。魅せておくれよ。

立川寸志-野ざらし

  • 立川寸志さん

    立川寸志さん

いざ、と真剣に聞こうとしている私たちの上がった肩を「もうちょっとリラックスして良いんだよ」とゆっくり撫でてくれるような登場に、ほっと安心した。
マクラで話してくれた恐怖体験が秀逸だった。道端に置いてある検尿カップの中の真っ赤な液体の話。いかにもな心霊ライターの話。この心霊ライターさんのいじり方とか再現とか、表現力ってやつに圧倒された。
浸っていると始まったのは野ざらし。鳥肌がぶるっと音を立て、私の中にいる私何人かがが「の、の、野ざらしだ~」「野ざらしだよ~」と祭りを始めた。冒頭があまり頭に入ってこない位には興奮した。幽霊でも構わない、美女に会いたい、出来れば年増がいい、と欲望を人間の形にしたみたいな八五郎。喜怒哀楽が濃くしっかり出ていて周りを巻き込む強力なパワーもある。こんな風に振る舞えたら、毎日生き生きしそうだな。横の釣り人の巻き込まれ方もまたいい。この人は運が悪くてこういう事にしょっちゅう遭っているだろうなという雰囲気がたまらない。アッパレの八五郎ワールドだった。

柳家小里ん-五人廻し

  • 柳家小里ん師匠

    柳家小里ん師匠

今日は凄いな、なんたって「いい落語」の日だもん。そりゃあ普通の日と比べ物にならないよ。と自分を納得させないと鼻息が荒くなって横の席の方に迷惑がかかってしまう。
プロって凄い。自分の語彙力の乏しさに嫌気がさすが、凄いという言葉と感情しか出ないんだ。なんなら「凄い 類語」と調べて出てきた単語を全部使ってもいい。作り出す世界観に飲み込まれて抜け出せない。本当凄いんだ。
空気って作れるんだ、って思った。現代にないもの、ない職業、そこで起こる物語を、空気で教えて見せてくれる。タイムスリップガイド。江戸の匂いや雰囲気や、その日の月明かりの差し込み方まで見えた気がした。そんな場所でどこからか聞こえる客と従業員の話声。きっと毎晩こんな客達に文句を言われているのだろう。いやいやながらも相手をする従業員と、そんなことお構いなしの客達。喋りだけであそこまで個人の特徴がくっきり見える話術にやっぱり凄いしか言えない。

玉川太福-小江戸の二人 おかず交換

  • 玉川太福さん・玉川みね子師匠

    玉川太福さん・玉川みね子師匠

寸志さん、小里ん師匠、と繋いできた「江戸」と大きく書かれたバトンをしっかり握って登場した太福さん。最後の文菊師匠までこの勢いで繋げなくては、と始めた地べたの二人ならぬ小江戸の二人。川越と佐原市と始まって、それから二人の会話が江戸弁に。二人が話しているだけで、客席からはいつも以上に笑い声が終始続いていた。これは笑っちゃうよね。おかしくてたまらん。はたしてこれは小江戸なのか、太福さんはバトンをまだ握っているか、と途中で考えてしまっては駄目だ。ただ自分欲望のままに目の前の江戸弁の二人を感じるべし。それが小江戸の二人を一番楽しむコツなのである。
地べたの二人、雲はる先生も大好きだそう、私も大好きです。何度聞いても面白い。二人の間合い、テンポの独特さが癖になるし、くどくない。なんと地べたの二人だけ収めたCD出るって。スタジオ録音だからヤバイってタツオさん言ってた。そのヤバイを感じたい。一枚、又は年の数だけ買いましょう。

古今亭文菊-心眼

  • 古今亭文菊師匠

    古今亭文菊師匠

この日、公演が始まってから何度も後悔した。もっと前の席に座れば良かったって。寄席の、生の良い所の一つは肉声が聞けて顔の動きや表情が肉眼で見えること。心眼を演じる文菊師匠をもっと近くで見たかった。悔しい。
文菊師匠は、なんだかお釈迦様みたいなお顔をされているなあと思う。啓けた有難い感じ。頭の後ろから優しい色のLEDライトでも照らしているのかというようなオーラも感じる。なんていうんだろう。心が洗われる感じ?
そんな文菊師匠の心眼は、信じる心、支える精神、夫婦の絆という人間の綺麗な部分をうつす前半と、差別、欲、裏切りと、とことん汚い後半に、心がキュウとなる。落語にこんなことを言うもんじゃないけどオチなんて別になんだっていい。感じて、考えて、心に芽生える何かとまっすぐに向き合う為の噺だ。

すげー、、と若干の放心状態に気持ち良くなっていたら、また舞台上にタツオさんと雲田はるこ先生の姿が。なんなんだ今日は、やり過ぎでないのか。サービスが過ぎるぞ。
お二人で今日の感想を話し、その感想に共感し、うなずきすぎて首がもげてしまうかと思った。その後現在NHKにて絶賛放送中のドラマ昭和元禄落語心中の話、これからの昭和元禄落語心中の話。と盛りだくさん。会場を20倍広くしないと重要と供給が合わなくなってしまうと心配になった。
いい落語の日。良い日だったなあ。

【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」11/9 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ
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