渋谷らくごプレビュー&レビュー
2021年 5月14日(金)~18日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
3ヶ月に一度の菊之丞師匠の登場です! 春の残り香もあり、夏というにはまだ早い初夏といってもいい5月。どのような噺を選択するのかも興味深い時期です。
仕事人 小助六師匠に、上方落語の春蝶師匠、そして渋谷らくご大賞の笑二さんと、見どころたっぷりの2時間です。
はじめてという方にも楽しんでいただける組み合わせとなっておりますので、どうぞご期待ください。
▽立川笑二 たてかわ しょうじ
20歳で入門、芸歴10年目、2014年6月に二つ目昇進。「2020年渋谷らくご大賞 おもしろい二つ目賞」受賞。中学生の時に埋めたタイムカプセルが手元に届いたが、まだ開封していない。先月、渋谷らくごに向かう時、渋谷駅で道に迷ってしまった。
▽桂春蝶 かつら しゅんちょう
19歳で入門、芸歴28年目、2009年8月、父の名「春蝶」を襲名する。最近は早寝早起き生活になっている。Youtubeの「桂春蝶チャンネル」では、VRゴーグルをかけて鑑賞する「VR360落語」を配信している。甘いものが好き。
▽雷門小助六 かみなりもん こすけろく
17歳で入門、芸歴22年目、2013年5月真打ち昇進。楽屋入りは必ず襟付きのシャツ。猫を4匹飼って、可愛がっている。インスタグラムをやっているが、ほとんどの写真が猫である。ゴールデンウィーク中は、おもいっきり猫と遊んだ。
▽古今亭菊之丞 ここんてい きくのじょう
18歳で入門、芸歴31年目、2003年9月真打昇進。家の電球を取り換える時だけ、おかみさんから「師匠」と呼ばれる。緊急事態宣言中、寄席から落語を配信した。YouTubeチャンネル「古今亭菊之丞でじたる独演会」にてアーカイブ配信中。先日、朝9時からラーメンを食べる。
レビュー
立川笑二(たてかわ しょうじ)-大工調べ
桂春蝶(かつら しゅんちょう)-野崎詣り
雷門小助六(かみなりもん こすけろく)-お見立て
古今亭菊之丞(ここんてい きくのじょう)-船徳
どうにもこうにも調子が悪くて仕事から帰ってきた金曜の夜。そうだこの会がライブで見られるではないかと気分があがった。会場で見たい気持ちを堪えて、オンライン視聴にしておいて良かった、こういう日もある。
立川笑二さん
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立川笑二さん
笑二さんの落語に潜むヒヤヒヤ・ヒリヒリ度の高さに初めて気づいたのが、この噺だったかもしれない。嫌味と啖呵が行き交う「大工調べ」だ。店賃のカタに取られた与太郎の道具箱を取り返すため、大家に掛け合いに行く大工の棟梁と与太郎の話だ。与太郎、棟梁、大家、それぞれの言葉の端々が、あ、それ言っちゃダメなやつです、引っかかるやつです、というトゲを含んでいる。謝っているつもりでも謝っていることにならない、鷹揚に見えて全く鷹揚でない、体裁を裏切る言葉の連発にヒヤヒヤさせられる。いや、実は自分もこんな風に喋っているんじゃなかろうか、でも相手は普通大人だから汲み取ってくれているんじゃないかと思わせられる。大家を相手に棟梁が啖呵を切る場面をピークとしつつ、噺全体にずっと緊張感がある。完全に笑二さん独自の「大工調べ」の世界がそこにあった。
桂春蝶師匠
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桂春蝶師匠
様々なまくらで観客と自分(?)のボルテージを上げていく春蝶師匠、観客の反応が少々悪いと感じられたらしい師匠の「お客さんはお客さんじゃないんだ、芸人にとってのセーフティネットなんだ!」という一言にはっとさせられた。そうか!単に見ればいいってわけじゃなく、受け身じゃダメなのだ。それにしても、師匠の顔にお米を吹き付けてしまうとか、師匠の眼前に何を晒したとか、本当にあったんだろうかというようなエピソードの数々だが、本当にあったらしいから、落語家の世界はすごい。
師匠との思い出を語って今日は師匠の十八番をやります、と宣言して始まったのが本編の「野崎詣り」。春蝶師匠の落語の風景の描き方が素敵だ。野崎観音までの道すがら、堤の上を歩く者と、川を舟で行く者がいる。5月の新緑のなか、うきうきとした人々が一方向に向かう賑やかな川沿いの風景を、最初に引きで見せてくれる。その遠景の中から、毛せん(多分赤い)をひいた舟に乗り込もうとする男二人に、ぐっと焦点が当たる。この時期限定の遊びとして、堤を歩いて行く者と川を行く者の間で口喧嘩をするらしい、勝てればラッキー、運定めの喧嘩だという。後腐れなしの一回こっきりの喧嘩なんて気持ちが良くて、これまた爽やかな季節にぴったりだ。弁が立つ男と、喧嘩も記憶力もからっきしダメな男、この二人連れの掛け合いが軽妙でおかしい。また、新緑の季節に聞きたい師匠の「野崎詣り」だった。
雷門小助六師匠
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雷門小助六師匠
吉原の花魁はもちろん買えるものではあるけれど、金を積めばいいってものでもなかったらしい。落語本編「お見立て」の喜瀬川花魁も、田舎大尽の杢兵衛という上客にほとほと嫌気がさしている。杢兵衛のいる座敷に出ないどころか、病に伏せったといえとか、挙げ句の果てには、死んだと言ってしまえ、と間を取り持つ若い衆の喜助を困らせる。
杢兵衛大尽の田舎訛りと人を疑わない純ぼくさがおかしい。喜助のとりもちぶりもなかなかなのだが、それを上回るお大尽の気の利かなさとわがまま、そして喜瀬川の機転が光る。喜助は二人に翻弄されて、笑ったり、困ったり、泣いたり、いろいろな表情を見せてくれる。亡くなった日に枕元に喜瀬川がたったと涙にくれる杢兵衛を見ながら、ニヤリとする喜助だったが、結局、無いはずの喜瀬川のお墓参りをすることになる。その時の投げやり感も、若い衆らしくておかしかった。
古今亭菊之丞師匠
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古今亭菊之丞師匠
息を落ち着かせながらのまくらは、有名人のお宝や骨董を紹介する某番組に出られたという話。お宝がないと出られないから奥様の実家から壺を借りて参加されたという。それにしても、菊之丞師匠は歌舞伎役者のような面差しで、所作も美しいのだが、今回はお茶目さが際立った。今回のたっぷりまくらでまたぐっとファンになってしまう。
この日の落語を引き合いにして居候とはというお話に続いた。居候はやったことはないけれど、見習い時分を思いだして何となく気持ちがわかるとおっしゃる。お茶出しのタイミングや濃さを把握しなきゃいけないから、「噺家は馬鹿じゃできません、利口ではなおやりませんが」と言うその間の絶妙さが、美しい所作と相まって、おかしさと楽しさをいや増す。
そして始まった本編は夏の暑さを感じたこの日にぴったりな「船徳」。居候のややおっとりした若旦那、血の気の多そうな親方、調子のいい船頭たち、女将さん、乗り込んできた客2人など、登場人物が多いし、場面もよく変わるが、菊之丞師匠の表情、所作、声色で、性格の違いから、湿度の高い暑さ、船内の狭い空間の様子まで伝わってくる。
四万六千日と言う浅草へのお参りの日は実際には7月らしい。日差しが川面で照り返して暑いのだろうな、でもこの若旦那の船頭でなければ舟に乗ってみたいなぁ、と思った。
写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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