渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 11月10日(金)~15日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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11月12日(日)17:00~19:00 瀧川鯉斗 立川笑二 昔昔亭桃太郎 古今亭文菊

「渋谷らくご」じっくり!文菊を聴く会

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プレビュー

 30代の若きスター、古今亭文菊師匠がトリに登場します。
今月はなにをやってくれるのかというのを楽しみに、その楽しみをさらなる高揚感へとつなげてくれる3名が前に登場します。
古典落語を丁寧に、等身大の現代人として落語を語る鯉斗さん。落語をかみ砕いて自分流に仕立てる笑二さんは骨太な落語が魅力です。桃太郎師匠は、お笑いにも演劇にもいないタイプの圧倒的に不思議な存在感で、劇場全体を体験したことのない空気にしてくれるはず。聴く前から楽しみの詰まった落語会です。
 
▽瀧川鯉斗 たきがわ こいと
21歳で入門、芸歴12年目、2009年4月二つ目昇進。元・名古屋の暴走族の十二代目総長。時代物小説が好き。最近内田有紀に似ていると言われる。眠れないときは羊を数える。インスタグラムの写真がとにかくおしゃれ。

▽立川笑二 たてかわ しょうじ
20歳で入門、芸歴7年目、2014年6月に二つ目昇進。沖縄出身の落語家。読書家。先日古本屋で手に入れたミステリー小説の最初のページに犯人の名前が書かれていた。

▽昔昔亭桃太郎 せきせきてい ももたろう
20歳で入門、芸歴52年目、1980年10月真打ち昇進。落語界の破壊者ともいえるべき圧倒的な存在感。読書好きでもあり、知識量も豊富。高校二年生のことから煙草を吸い始め、警察に補導された。いまでは愛煙家として煙草についてのインタビューをうけている。

▽古今亭文菊 ここんてい ぶんぎく
23歳で入門、芸歴15年目、2012年9月真打ち昇進。床屋に週1で通うとのこと。私服では、細身のジーンズに帽子を華麗に着こなされている。渋谷らくごには、スターバックスを片手に楽屋入りされることが多い。スタバが似合う。

レビュー

文:えり Twitter:@eritasu 30歳 女性

11月12日(日)17時~19時「渋谷らくご」
瀧川 鯉斗 (たきがわ こいと)「片棒」
立川 笑二(たてかわ しょうじ)「宿屋の富」
昔昔亭 桃太郎(せきせきてい ももたろう)「お見合い中」
古今亭 文菊(ここんてい ぶんぎく)「芝浜」

「続けることやめないこと」


欧州公演のプロデューサーでもあるクララ・クラフトさんとタツオさんのトーク。ヨーロッパで現地の人が落語を観る機会をつくっているクララさん。口演はそのまま日本語で行い、同時に字幕を、背景のスクリーンに映すそうです。落語に出てくる「へっつい」などの古い言葉は翻訳が難しいのではないかという質問には、日本人でもなんとなくしかわからない言葉はあるが、そういう場合も前後の文脈から想像できるのであまり細かく訳さないと答えていて、とても興味深いお話ばかりでした。

瀧川鯉斗さん


  • 瀧川鯉斗さん

    瀧川鯉斗さん

名古屋での独演会に小遊三師匠がゲスト出演してくれたという素敵なエピソード。鯉斗さんの気持ちの良いお人柄がたくさんの人から愛される理由だろうと、客席で見ていても感じます。「片棒」は身代を譲るなら息子三人の内の誰にするか、の判断材料として「もし自分が死んだらどんな葬儀をしてくれるのか」という妙に遠回しな質問をしますが、次男の考える葬儀はピーヒャラピーヒャラお祭り騒ぎでお囃子のリズムも心地よく、血気盛んな若者の雰囲気が鯉斗さんのヤンチャ時代のイメージと重なります。とんでもない無茶苦茶な葬儀を無邪気な笑顔で話す次男。なんだかんだ言っても悪気がなく憎めない感じも、鯉斗さんらしさが表れていて楽しいです。

立川笑二さん


  • 立川笑二さん

    立川笑二さん

前の14時の回で吉笑さんが笑二さんのことを話していたので、つい思い出し笑い。通しで見るとこんなこともあるので嬉しいです。笑二さんの「宿屋の富」は言葉で表現するのが難しいセリフがたくさん出てきます。イメージとしては「アタタターハタタターハチュタターハチュタター」みたいな感じ。すごく楽しい。呪文みたいで一度聴いたら忘れられません。信じられない奇跡を目の当たりにしてその事実を受け入れられずにおかしくなってしまう登場人物たちが、普通っぽく振る舞っているのがおかしくてたまりません。笑二さんの話す言葉のアクセントはいつも心地いいリズムを作り出していて、いつまでも聴いていたくなります。暖かい沖縄の海に行きたくなります。

昔昔亭桃太郎師匠


  • 昔昔亭桃太郎師匠

    昔昔亭桃太郎師匠

客席前方には桃太郎師匠のファンの方々がたくさんいらしていました。桃太郎師匠は登場するなり、待ってましたの掛け声をかけた男性に話しかけたり、前列に座っていた私に手拭いをポンと投げたり(手拭いお返ししたら、その場でイラスト入ティッシュケースをいただいてしまいとても驚きました)映画館特有の緊張感が一気に和やかになり、笑い声もさらに賑やかになりました。桃太郎師匠のおおらかな笑顔に包まれるような心地良さ。その流れでの「お見合い中」頭空っぽにしてたくさん笑って爽やか。桃太郎師匠の歌うルイジアナママ。途中すごい勢いでドタドタドタという音が聞こえてきて何事かと思ったら、なんと全太郎さんが客席の後ろからピチピチの革ジャン?を着て舞台へ登場。師匠が一曲歌い終わるまで息切れしながらも全力で踊るというすごいサプライズに大笑い。なんてサービス精神のある、愛に溢れた師匠なのでしょう。お客さんが喜ぶことを一番大事に、貫いている姿がかっこいい。客席からは「笑いすぎてお腹いたい」「最高だ」という満足そうな声が聴こえてきて、なんだかこの時間同じ会場にいる人はみんな仲間みたいに思えて嬉しくなりました。

古今亭文菊師匠


  • 古今亭文菊師匠

    古今亭文菊師匠

文菊師匠の「芝浜」聴けて本当によかった。最後にごほうびをもらえたような気分です。会場も冬の早朝のようにシンとして、時間が止まったような感覚で聴き入りました。周りの物や風景、温度や匂い、仕草も、描写がとても細かくて丁寧。でも順序立てた説明っぽさや理屈っぽさは感じないし、感情も複雑に混ざりあって真に迫るものがありました。今まで、芝浜のクライマックスといえば終盤の「おかみさんが真実を打ち明ける場面」という印象でしたが、文菊師匠の芝浜は中盤の心を入れ換える場面も素晴らしいです。文菊師匠の魚勝は目がギラリとして凄みがあり、カタギじゃないように見えるくらい恐いです。そんな恐い人がお酒で深く後悔し「みっともねぇ」「もうだめだ」と泣きながら笑うような重々しい表情と声に変わります。その人間らしさに胸を打たれました。おかみさんも最初は嫌みを言われても謝っていたりとまるでDVを受けている人のようでしたが、旦那の頬を叩いてまっすぐに訴える姿は芯の強い美しい女性で、弱かったのではなくずっと信じて辛抱していた人なんだと気づきました。長い噺を35分に詰めたというのは後で知りましたが、短くなってるとは思えないくらい人の心の機微が詰め込まれていて引き込まれ、中盤からずっと涙が止まりませんでした。心に残る一席に出会えました。

【この日のほかのお客様の感想】 「渋谷らくご」11/12 公演 感想まとめ
写真:渋谷らくごスタッフ