渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 11月10日(金)~15日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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11月15日(水)20:00~22:00 立川寸志 柳家小八 春風亭百栄 古今亭志ん五

「渋谷らくご」祝!真打昇進 しんごのらくご

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プレビュー

 11月公演の千秋楽は、この秋真打に昇進した志ん八改め志ん五師匠がトリをとる!
 古典落語一席入魂の寸志さん、小八師匠の落語を、初心者から落語ファンにまで届けたいです。
 トリの前でも最高の仕事をしてくださる百栄師匠が、ふわーっと気持ちよくさせてくれると、最後は全身から落語汁が出ている志ん五師匠の登場。
 大きくなって帰ってきました。「語りを聴く」ことの気持ちよさを味わってほしい会です。

▽立川寸志 たてかわ すんし
44歳で入門、芸歴6年目、2015年二つ目昇進。元編集マンなので、メールの返信が素早く丁寧。ツイッターの告知ひとつとっても、丁寧。パソコンのディスクトップも丁寧に細かくフォルダ分けされている。マイセンのベーコンコロッケサンドにはまる。

▽柳家小八 やなぎや こはち
25歳で柳家喜多八師匠に入門、芸歴14年目、2017年3月真打ち昇進。ラーメン二郎と一蘭が大好き。煙草の次に二郎が好き。ワイヤレスイヤホンでなにかを聴きながら、煙草をくゆらせている姿が楽屋で観察できる。高座の前にはモンスターを飲む。

▽春風亭百栄 しゅんぷうてい ももえ
年を取らない妖精のような存在。静岡県静岡市出身、2008年9月真打ち昇進。
不思議な風貌で、危ないネタをかけつづている。落語協会の野球チームでは、名ピッチャーとして活躍する。
アメリカで寿司職人のバイトをしたことがある。猫が大変お好きという意外は日常生活の様子を見せない。

▽古今亭志ん五 ここんてい しんご
28歳で入門、芸歴14年目、2017年9月真打昇進。渋谷らくごの公式読み物どがちゃがでは、志ん五師匠の似顔絵コラムが掲載中。スケートボードが上手い。いまバク転ができるよう稽古を重ねている。20代の頃は、クラシックバイクにハマっていた。

レビュー

文:瀧美保 Twitter:@Takky_step 事務職 趣味:演劇・美術鑑賞、秩父に行くこと

立川寸志(たてかわ すんし)「佐野山」
柳家小八(やなぎや こはち)「金明竹」
春風亭百栄(しゅんぷうてい ももえ)「素人義太夫」
古今亭志ん五(ここんてい しんご)「甲府ぃ」


立川寸志-佐野山

  • 立川寸志さん

    立川寸志さん

渋谷らくごが始まった3年前、前座として出ていらっしゃったという寸志さん。まだ芸歴6年目で二つ目に成りたてとは思えない、滑らかで聴きやすい落語です。マクラは相撲の時事ネタから。落語家の皆さんは本当にうまいことマクラでお客様の心をつかみますよね。時事ネタについて何を話すのかしらって思うと余計に話を聞きたくなるし、王道の手段でもそのアンテナの張り方にいつも感心します。

前に寸志さんの落語を聴いた時にはテンポの良さを感じましたが、この日は滑らかな流れの印象です。わーっと盛り上がるというより、徐々に熱を帯びていき千秋楽の結びの一番になる。ストーリーの山場に向かってしっかり着実に進んで行く。面白いことやってやろうということより、噺の持つ面白さをきっちり伝えようとしている感じでしょうか。以前、他の方でこの「佐野山」を聴いた時に、佐野山が横綱・谷風にあの技をかけられたら何両、こっちの技をかけたら何両やる……みたいな話があったけれど、寸志さんの「佐野山」ではあんまりそういうくだりがなかった気がしました。それはわざとなのか、それとも流派とか教わった方によるのでしょうか?そういう違いも考えると楽しいですね。いつか寸志さんの高座で話が聞けるのか、はたまた他の落語家さんから偶然その答えが出てくるか、気長に待ちたいと思います。その代わりというか、お金はないけれど精一杯の「佐野山ー、佐野山ー!」という応援の声を祝儀にするくだりが素敵でした。庶民に身近な感じがいい。

それにしても、改めて40歳を超えてからの落語家への転身で、こんな風にまだまだ変化し楽しませてくれるって本当に凄いことですね。シブラクの成長と共に寸志さんの成長も見られる。サンキュータツオさんがおっしゃっていた、シブラクの節目にはいて欲しいという言葉にじんわりします。まっすぐな楽しい落語を聴かせてくれる寸志さんですが、まだまだ変化球を隠し持ってる気もします。そして年齢じゃないんだなぁと、いろんな意味で密かに勇気をもらったり。寸志さんがこれからどう変わられるのか楽しみです。


柳家小八-金明竹

  • 柳家小八師匠

    柳家小八師匠

師匠譲り(?)の脱力系落語の小八師匠。実のところ前半は脱力され過ぎてちょっと不安になったけれど、徐々にエンジンがかかり、後半は打って変わってのパワフルさ。前半で大丈夫かなと心配した分、なんかズルい感じです(笑)。後半に向けての省エネ落語……?いや、その変わる過程も狙いなのかもしれません。金明竹の言い立てのリズムと面白さをしっかり味わわせてくれました。

小八師匠の与太郎は、何しろ与太郎ぶりが凄いです。前半の脱力感が、そのまま与太郎に繋がると言うか、実は賢いのでは?と思うことは全くなく、最初から最後まで頭に霞がかかった感じの、見事な与太郎でした。やる気は感じないけれどサボる訳でもなく、あの絶妙な加減。客人と与太郎、旦那と与太郎の対比が面白いです。

それからおかみさんのとぼけた感じは小八師匠ならではではないでしょうか。ゆったり色っぽい雰囲気と相まって不思議な魅力です。旦那に客人の説明をする時もそんなに困ってないというか、とぼけた雰囲気のままなのが面白い。小八師匠が女性だったらあんな感じなのかしら……と思ったのはここだけの話ですよ。


春風亭百栄-素人義太夫

  • 春風亭百栄師匠

    春風亭百栄師匠

どんな新作をやられるのかなーと思っていたので、いい意味で期待を裏切られました。本寸法の古典落語、百栄師匠風味。先代の志ん五師匠に教わったというこの噺。新・真打へのお祝いですね。終演後のトークコーナーでゲストの池田裕子さんもお話されていたけれど、百栄師匠の素人義太夫。同じ噺なのに、やる人によってみんな違う。その人の色で描かれた世界になる。もちろん変わらないところもたくさんあって、定番のがんもどきの製造法はやっぱり楽しいです。

百栄師匠の「義太夫が福利厚生」って言っちゃう感じがとても好き。身近な言葉でストンと納得です。それから脱腸とか、猫とか、初めて聴いた設定も楽しい。その辺のチョイスがきっと百栄師匠のセンスなんだろうなぁ。なんかいいんですよ。さかむけ、とかね。自分の生活とか日常のすぐ隣にあるような、江戸の風は少し薄くなるかもしれないけれど、今生きてる私たちとおんなじ感覚で、登場人物たちが感じているのを、覗き見ているような。シゲゾウといい、旦那といい、泣いてキレちゃう姿に「ヤダーッ」って声が聞こえてきそうです。愛嬌があふれてる。百栄師匠の魅力かな。観ていて可愛らしくなってきます。ふふふ。

義太夫で「節々が痛む」っていうのもいいですね。この言葉はもしかしたら今までも聞いたことがあったのかもしれないけれど……百栄師匠で初めてうまいこと言うなって思いました。同じ噺でも、毎回新しい発見や楽しさがあるのも嬉しい。これだから色んな人の、色んな噺を聴きたくなるんですよね。困るわぁ。


古今亭志ん五-甲府ぃ

  • 古今亭志ん五師匠

    古今亭志ん五師匠

気持ちの良い「甲府ぃ」、さすが新・真打。今秋昇進したばかりとは思えない位、安定感抜群です。出てくる人物がみんないい人で、それでいてみんなそれぞれに個性がある。豆腐屋のおかみさんが一番好きです。旦那とのやりとりに愛があるし(旦那の方ももちろん)、娘の事を話す時の表情も楽しい。それから娘婿への余分な愛情も、もう……ね(笑)。あの図々しくもどこかにくめないキャラクターがいいんですよ。ああ、でも町内のおかみさん連中のうち、ヒラヒラした人も捨てがたいなぁ。あの金魚のようなヒラヒラした動きだけで笑っちゃう。豆腐屋の娘さんもかわいいし、志ん五師匠の「甲府ぃ」に出てくる女性たちはみんな好き。特別なことをしているのは金魚ちゃん位?にもかかわらず、それぞれの人物の姿がしっかり伝わってくる。ポイントポイントで、きっちりその性格を見せてくれるからかしら。味のあるキャラクターがガッチリ脇を固めている感じです。周りのおかしな人たちを面白がっているうちにストーリーがどんどん進んでいく。もちろん豆腐屋の旦那をはじめ、男性陣との掛け合いがあるから楽しいんですが。その元となった志ん五師匠の女性観、聴いてみたいかも……。それから主人公が田舎者から、そのまっすぐさは変わらずに徐々にあか抜けていく様もいい。いいやつだなぁと素直に思わせてくれる。

甲府ぃがあまりに気持ち良かったので、帰りに志ん五師匠のCDを衝動買いしちゃいました。いつも楽しかったなぁはもちろんあるんだけれど、今回気持ちよかったなぁと感じたのはどうしてなのかな。癒しの理由を探しに、また志ん五師匠の落語を聴きに来なくちゃですね。


【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」11/15 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ