渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2015年 11月13日(金)~18日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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11月13日(金)20:00~22:00 立川吉笑、入船亭扇辰、神田松之丞、春風亭百栄

「渋谷らくご」 だれかを必ず好きになる!

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プレビュー

この4人は全員芸風が違います。吉笑さんは、入門して5年目のフレッシュ落語家さんですが、すでに業界内外にその名が知られた才人です。NHKの「デザインあ」にレギュラー出演したり全国ツアーをしたりと全方向に視点を向けてアーティスティックに落語を再構築している落語家さんです。

扇辰師匠は、入門26年目。上質で味わい深く、だからこそ落語を知らなくてもその「本物」の魅力がだれにでもわかる。上質であればあるほど、古典落語は初心者とか落語ファンとかの垣根を取り払うのです。 神田松之丞さんは、入門8年目の講談をなさる方。落語と講談の違いがわからなくても大丈夫。それは松之丞さんの会場の空気を制圧する力、お客さんの心をわしづかみにする力がすごすぎるから。天性の才能と度胸が、演芸初心者の方を「あー、講談って良いなぁ」と講談ファンにし続けています。革命前夜の講談、見るべきです。

そして最後は百栄師匠。百栄師匠は入門20年目のアブノーマルな新作落語をつくり続けている天才です。髪の毛はパーマ、目は狂気、年齢不詳で、妖精のような雰囲気を身に纏っている。「変態」的な新作落語の名手です。どの瞬間でも笑いを生み起こす技巧派。お客さんの心の機微を読み解くセンサーの精度が異様に高いです。安心してください、だれかを必ず好きになる!

レビュー

文:今野瑞恵 Twitter:@tsururaku 職業:鶴川落語会席亭 落語歴:23年ほど 趣味:飲酒と読書)
自己紹介コメント:2ヶ月に一度、落語会を開催しております。高校3年生と中学3年生の母親でもあります。

11月13日(金)20時~22時「渋谷らくご」
立川吉笑(たてかわ きっしょう)「カレンダー」
入船亭扇辰(いりふねてい せんたつ)「夢の酒」(ゆめのさけ)
神田松之丞(かんだ まつのじょう)「赤垣源蔵徳利の別れ」あかがきげんぞうとくりのわかれ)
春風亭百栄(しゅんぷうてい ももえ)「お血脈」(おけちみゃく)

「新たな金曜夜のお楽しみ ~シブラク一周年おめでとう!~」

渋谷らくご一周年御礼興行と題された今月のシブラク。初日から満員御礼となりました。 仕事帰りや学校帰りと思われる若い方の姿が数多く見受けられ、渋谷らくごはたった1年の間に若い人達の中に「カルチャー」として浸透していったんだなあと感じました。この会の扇辰さんのまくらに出てきたカップル(久しぶりにこの言葉を聞いた気がします!)での来場も見られ、デートに落語を選ぶ時代がやってきたのか・・・と驚くやら嬉しいやらです。千客万来、ますますのご繁栄をお祈りいたします!

【立川吉笑「カレンダー」」】

  • 立川吉笑さん

    立川吉笑さん

1人目は立川吉笑さん。無事「現在落語論」ご出版とのこと、おめでとうございます。先月の談笑一門会に伺ったのですが、その時はタイトルがどうなるか・・・と仰っていたので、ちょっとだけ心配していました。しっかりご希望通りのタイトルに落ち着かれたようで、安心いたしました。
ありふれた日常に転がっている気がつきそうで気づかない矛盾や疑問、流れていっている出来事を逃さず拾って組み立てていく・・・そんな落語を創作されるという印象でしたが、今日はその印象に「温かみ」がプラスされました。吉笑さんの噺には嫌味がなく、優しい。新作で時代設定も現代であるのにかかわらず、古典の世界感と通ずるものがあり、聞いていてほっこりとする部分が多々ありました。ネタバレになるのであまり具体的には書きませんが、他人の失敗を責めすぎない所とか、登場人物がみんな揃って間抜けなところとか、現代に不足している「ゆとり」のようなものを吉笑さんの新作落語からは感じる事ができます。だからといってのんきな噺かと言えばそんなことはなく、目の付け所がユニークで斬新で、「なんじゃ、それ!」と思っていると一気にグルグルと巻き込まれていく感じです。ボンヤリ聞いていると置いて行かれます。だって、噺が始まり、その世界に巻き込まれてきたなと思ったところでいきなりまくらに戻ったりするんですもの!でもしっかり落語なんですよね。一体、吉笑さんの頭の中はどうなっているんでしょうか。また吉笑さんの落語を拝見したいので、近いうちに吉笑さんの会に伺おうと思います。吉笑ワールド、クセになりそうです。

【入船亭扇辰「夢の酒」】

  • 入船亭扇辰師匠

    入船亭扇辰師匠

お風邪を引かれているとのことでしたが、翌日6時に起きて、新潟に無事行かれたのでしょうか。気になっております。
扇辰さんの「夢の酒」。次第に我慢できなくなって、焼き餅を焼きまくって無茶ぶりしまくるお花と、夢の噺をそれはもう嬉しそうに嬉々として話す若旦那の演じ分けが最高に楽しかったです。扇辰さんの演じる女性は(特にこの噺だからということもあるでしょうが)艶っぽく、所作が美しいなあと感じています。女性より女性らしいと言いますか、そしてそれが決してオーバーではなく、さらりとさりげない。落語の所作は、シーンとしては短いものが多いのですが、こうしたところをしっかりと演じられる事が、落語の世界を深める大切な要素となります。扇辰さんはこうした所作を大切に演じられているなと、高座を拝見して感じています。今回も登場する三人の女性を丁寧に演じ分けられていて、そんなところを見ていても、もう名人の域だなと思いました。
今年、扇辰さんの師匠でいらっしゃる、入船亭扇橋さんが亡くなられました。お弟子さんの中でも扇橋さんの流れを一番汲んでいる方だと伺っております。今後もその流れを汲んだ本格派の落語を継承していかれることでしょう。
個人的なことで恐縮ですが、扇辰さんには来年1月、鶴川落語会にもご出演いただきます。その時もどんな高座を見せていただけるのか、今からとっても楽しみです。

【神田松之丞「赤垣源蔵徳利の別れ」】

  • 神田松之丞さん

    神田松之丞さん

2分のインターバル後の神田松之丞さん。「今日は真面目にやります!」という宣言通りの熱い高座を見せてくれました。
松之丞さんがまくらで解説して下さいましたが、赤穂義士伝のテーマは「別れ」。忠臣蔵=年末の長編ドラマというイメージの私にも納得の話でした。この噺は兄弟の別れの噺です。といってもただの別れではなく、赤穂浪士の一人である赤垣源蔵が吉良邸討ち入り前に兄の元を訪れるという、最期の別れの噺です。松之丞さんが「ひとりっ子にはわからない」なんて仰ってましたが、私にはたいして仲の良くない弟がおり、しかもしっかりと疎遠ときました。でもいつも心に引っかかっている。松之丞さん、私にもわかりますよ!そんな兄弟への渦巻く気持ち!
でも噺を聞くにつれて、兄弟がいなくてもわかる人にはわかるんじゃないかなと思い始めました。皆さんもご存じの通り、人は出会いと別れをくり返しながら生きています。きっと渋谷らくごを見に来られている若い方々も、これまでの人生で別れをいくつか経験されていると思います。松之丞さんの、噺に引き込んでいくパワーに身をゆだねていれば、それぞれの体験を基に、兄と弟の情の世界に入り込めたのではないかと、集中して聞き入る会場の様子から想像します。会場全体が松之丞さんの熱演に魅せられ、私ももっと松之丞さんの古典を聞きたい!とすっかり引き込まれました。そして、松之丞さん自身も古典を演じられる事が大好きなんじゃないかなと感じました。
今後の講談を背負って立つお一人である松之丞さんの本気の講談を聞いて、講談界の未来は明るいと確信したのでした。

【春風亭百栄「お血脈」】

  • 春風亭百栄師匠

    春風亭百栄師匠

前の松之丞さんが熱い人情噺だったこともあって、百栄さんの登場に力が抜けたのは私だけではないはずです。なんてったって登場して一言目が「こんにちわあ~」ですから!
この一言で一気に会場が百栄さんの空気に転換したのがわかりました。
まくらはそんな脱力キャラとは異なる毒っ気ある内容で(詳しい内容は控えますが)特に「憧れませんねえ〜」には腰が抜けるかと思うくらい笑いました。とにかく言葉のセレクトが尖っていて、百栄さんが醸し出すいかがわしくもほんわかした雰囲気とのアンバランスさ加減が魅力だなあと感じました。
「お血脈は」地噺です。地噺とは、会話の部分が少なく、説明の部分(いわゆる噺の地の部分)で展開していく噺のことです。演者独自のギャグやくすぐりを入れて構成し、自分のセンスの下に噺を作り上げていくことになります。百栄さんの「お血脈」は噺の根幹を外すことなく、百栄さんならではの個性あふれる「お血脈」でした。地噺は、骨格は古典落語の範疇だと思いますが、いろんな入れごとをしやすい落語です。百栄さんのように新作も古典も両方演じられる方にとっては、お手のものなのではないでしょうか。おさえるところはしっかりおさえている、百栄さんの奥深さを感じた会でした。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」11/13 公演 感想まとめ