渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2015年 11月13日(金)~18日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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11月15日(日)14:00~16:00 春風亭昇々、雷門小助六、柳家ろべえ、橘家圓太郎

「渋谷らくご」 爆笑必至!みんなで圓太郎師匠にトライする会

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プレビュー

1周年記念の渋谷らくご。伝説の中でも欠かせないのは「昇々ウェーブ」でしょう。9月15日の21時30分から始まった昇々さんの新作落語「DEARパパ」は、お客さんが満員となった会場で笑いの渦が巻き起こりました。NHK新人落語大賞ファイナリストにもなり、いまウェーブに乗りに乗っている昇々さん。説明不要の面白さです。狂気に満ちた目が素敵。

小助六師匠の流れるような語り口は、高品質な描写を生み出します。けれどもTHE古典という様な味付けにしないのも、小助六師匠の魅力。涼やかな顔で、落語の世界感を描き続けています。この師匠の落語は、いい。ジンワリいい!

ろべえさん、ここ数ヶ月だけでも、どんどんと脂がのっていることがわかります。ろべえさんがしっかりと継承しようとしている「引き算」の古典落語。面白い入れごとを盛り込む「足し算」とはちがって、笑いとドラマに必要な部分だけを残す「引き算」の落語。これを演り続ける覚悟って生半可な覚悟ではできません。それがいま、結実しようとしています。笑顔も素敵。

先月、ラガーマンだった青年時代のエピソードと、男気溢れる切り口で会場を大爆笑させた圓太郎師匠。1年間渋谷らくごで、お世話になりっぱなしでした。古典落語のギャグがしっかりと客席に伝わり、笑いを生み起こす職人芸。一流の職人は、隠し包丁の数が違う。ぜひたっぷりと味わってください。

レビュー

文:bk_megumi Twitter:@bk_megumi 性別:女性 年代:20代後半 ご職業:会社員 落語歴:11か月 ご趣味:お酒とアニメと音楽
自己紹介コメント:落語の余韻をつまみに飲むお酒が何よりの幸せ

11月15日14時~16時
橘家圓太郎(たちばなや えんたろう)「芝浜(しばはま)」
雷門小助六(かみなりもん こすけろく)「辰巳の辻占(たつみのつじうら)」
柳家ろべえ(やなぎや ろべえ)「小言念仏(こごとねんぶつ)」
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)「ヒーローの復讐」

「愛しき落語のダメ男たち」

落語には、いろんなタイプのダメ男がでてきます。しかし、そのダメ男たち、人間臭くて、愛らしくって仕方がない。そんな魅力的なダメ男たちの一部を紹介しましょう。

【橘家圓太郎「芝浜」】

  • 橘家圓太郎師匠

    橘家圓太郎師匠

最初のダメ男は休職中の魚屋。12歳のときに父親を亡くし、間もなくして母親も亡くしている。「魚のこと以外何も教えちゃくれなかったから、魚のこと以外は何もできない」という、不器用で弱気な男。そのくせ、人一倍こだわりが強いから、魚河岸の連中ともうまくいかない。人間関係が下手で、生きるのが下手、自信も失い酒におぼれ、しまいには休職、ニート生活まっさいちゅうである。その男が、妻の仕掛けたある小芝居に「だまされ」た結果、心を改め、酒を断ち、まじめに働きはじめる。しみじみとした味わいもありながら、生きる元気が湧いてくるような、いい話です。

名作と言われていますが、私はこのタイミングで初めて聴きました。いじっぱりのくせに小心者の魚屋や、しっかりものの奥さんの様子、感想を書きながら思い出して、また、胸がいっぱいになっているところです。

ゲストの宮地さんやサンキュータツオさん曰く、圓太郎師匠の芝浜は「プレーンな芝浜」とのこと。「プレーン」だからこそ、素材”作品”の良さや料理人”演者”の腕前が際立つというもの。登場人物の会話や心理描写だけでなく、早朝の海へ向かう様子や、朝日を待つシーン、実際に見たわけではないのに、全てがとても美しく鮮明に目に焼き付いています。夫婦のやりとりも、温もりを感じる、とても可愛らしい様子で、最後の方は、夫婦の一挙手一投足をまじまじと見つめては、細かな動きや表情に、言葉にできないあらゆる感情を読み取ってしまい、たまらなくなって涙があふれてしまいました。生まれて初めてきいた芝浜が、圓太郎師匠の芝浜で本当によかった。

ゲストの宮地さんはアニメ監督で、「亡念のザムド」や「伏 鉄砲娘の捕物帳」など私も好きな作品も監督されている方だったので、ドキドキしながらアフタートークを聴いていたのですが、宮地さんは「裏芝浜」を想像する、とおっしゃっていて、面白いなと思いました。なぜ、おかみさんは1時間早く主人公を起こしたのか、主人が河岸に行っている裏で何をしていたのか、物語の表に描かれない心理や思惑を想像するというのは、物語の創り手ならではの視点です。

そういえば、サゲは「また、夢になるといけねえ。」ですが、そこも深読みの余地がたっぷりありますよね。たとえば、もし、財布を拾ったことも、そのあと改心して一財産築いたことさえも、「夢」だったら、または、「夢」だと思わされていたら・・・何が夢か現実か、境界線が狂っていくようでぞっとします。いろんな味わい方をして、何度も何度も楽しめる、名作の所以はそんなところにもあるのかもしれません。

【雷門小助六「辰巳の辻占」】

  • 雷門小助六師匠

    雷門小助六師匠

第二のダメ男は、勘違い男。あからさまにお金目的で近づいてきた芸者さんが、自分に心底惚れているものと勘違いし、愛の強さを確かめるために心中未遂までしてしまう、ちょっとおバカなダメ男です。心中未遂といっても、お互いに川に飛び込んだふりをするというだけで、結局は愛よりお金という話。ブラックユーモアたっぷりな、昭和のギャグ漫画を読んでいるような感覚で面白かったです。

小助六師匠の佇まいは上品で気のいい若旦那といった感じ。とてもテンポがよく、軽い雰囲気で語り始めるので、「芝浜」を引きずっていた私は、切り替えるのが大変でしたが、その調子に慣れてくると心地よく、粋で華やかな世界にわくわくしながら聴いていました。

この噺には、「辻占」というのが出てきますが、あれは占いなのでしょうか?「はなはさほどに思わざるけど、今もさほどに思わない」とか、ぜんぜん占ってないじゃん、今日のひとことじゃん。と思ったら、何となく昔似たようなものがあったような・・・宝島の「VOW」でよく見かけた「点取り様」でした。占いとは全く関係ないナンセンスなひとことが書かれただけのこの「辻占」、そんなものが江戸時代から存在していたなんて面白いですよね。江戸の人たちはこれを読んでどんな反応をしたのでしょうかね。「・・・・・・ん?」っていう感じでしょうか。

【柳家ろべえ「小言念仏」】

  • 柳家ろべえさん

    柳家ろべえさん

第三のダメ男は・・・ろべえさんです。いい意味でです。勝手な思い込みかもしれませんが、なんとなく裏がありそうな感じ。ダメというより、ちょっと悪そうな、ひねくれた一面を持っていそうな雰囲気があるのです。そんなろべえさんが、まくらで「物事には陰と陽がありまして・・・」なんて言うので、わっ!ろべえさんのテーマきちゃったよー!と小躍りしながら聴いておりました。小言念仏は、ある男が木魚をたたきながら念仏を唱えるが、念仏のかたわら、家族のことを叱ったり、赤ん坊の相手をしたり、ドジョウ屋さんを呼び止めたりとせわしない。かたちだけ念仏を唱えてはいるものの、その中身はまさに「俗」や「業」に染まりきった男の一人語り。サゲで、ドジョウが死んでしまったことを聴いて、最高の笑みで「ざまーみろー!!!」と言うところなんて、ゲスくってたまらないです。

最後、トークでサンキュータツオさんが、ろべえさんは「美術設定」がすごいとおっしゃっていました。たしかに、細かい空間演出にはっとさせられます。特に、こだわりを感じるのは、話す相手との「距離感」です。以前、シブラクで、「鰻の幇間」を聴いたときも、食事中、主人が目の前を横切っていくのを目で追いながら太鼓持ちが話すシーンは、主人の歩調や体の大きさまで伝わってきました。今回の噺も、通り過ぎていくドジョウ屋に何回か声をかけるシーンでは、ドジョウ屋がだんだん通りすぎていく感じがとてもリアルでした。短い噺ですが、ろべえさんの魅力たっぷり。もう一度聞きたいなあ。

また、タツオさん曰く、この「小言念仏」は、柳谷喜多八師匠が若かりし頃にヘビロテしていた演目だそうで。ここにも師弟の絆を強く感じて、なんだかしみじみとしました。

【春風亭昇々「ヒーローの復讐」】

  • 春風亭昇々さん

    春風亭昇々さん

第4のダメ男、とみせかけて実はやってくれる男なのが、昇々さんです。今回は、私の好きな学校シリーズでした。小学生のときのいじめっ子に、とてもかっこ悪いやり方だけど、復讐するはなしです。シュールなサゲも絶妙。

まくらも学生時代の話です。昇々さんが学校の音楽のテストで歌った「嵐」の「A・RA・SHI」を、ラップの部分付き、しかも、クラスメート全員の前でラップを歌うときの心の声付きで再現、このまくらだけで学校シリーズ1席できちゃうんじゃないかというほど笑いました。

最後のトークで、タツオさんが、圓太郎さんの落語に登場する女性に対して「僕らのなかの女の部分が共感できる」とおっしゃっていました。私も、落語を聴くときは、私のなかの「男子」の部分がいっしょになってわちゃわちゃしてる感じがすごく楽しいのです。昇々さんの落語もそうです。私のなかにいて、きっとそのまま成長しなかった小学生男子や中学生男子の部分が、昇々さんといっしょになって、泣いたり笑ったり怒ったり拗ねたり傷ついたりする。ときどきイタイ思い出がえぐられるようで辛かったりもしますが、それも含めて楽しい。中毒になってしまうようなところがあります。

今回は圓太郎師匠がトップで、昇々さんがトリと、通常の寄席とは正反対の順でしたが、最初に冴えた頭で芝浜がきけたあと、最後にジェットコースターのような昇々ウェーブに乗れたのが楽しかったです。ちなみに、ゲストの宮地さんが、昇々さんの高座での様子について「すっごい早いチョロQ」と表現していました。本当にその通りだ!

  • トークゲスト宮地昌幸さん

    トークゲスト宮地昌幸さん

落語のダメ男、いかがでしたでしょうか?登場人物のダメ男っぷり、演者さんのダメ男っぷり、どちらもかわいくて、すごく魅力的です。でも、高座をみると、一見ダメ男に見せかけていた演者さんたちのプロ意識やこだわりが、垣間見える瞬間があります。そのときのカッコよさといったら!!!あなたも、ぜひ、体感してみてください。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」11/15 公演 感想まとめ