渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2015年 11月13日(金)~18日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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11月16日(月)18:00~19:00 立川こしら、入船亭扇里

「ふたりらくご」 ―究極の「動」と、究極の「静」、ここに。

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プレビュー

若き真打のこしら師匠と扇里師匠のふたりらくご。このお二方の芸風は、恐ろしくなるくらい違っています。

まずこしら師匠、座布団の上でよく動く、困っている人はより困っているように、楽しい人はより楽しいように落語の登場人物を描き分けていきます。登場人物に共感をしてもらうために登場人物の心の機微を客席にわかりやすく伝え、笑いを積み重ねていく。落語のポップさが強調される手法を使っている。アドリブ感も満載!

一方の扇里師匠は、座布団の上でぴたりと止まって、ほとんど動かない。困っている人も楽しい人もみんな同じ顔。あえて顔を変えないことで、お客さんにすべてを委ねます。人形浄瑠璃の人形のよう。「あっ、きっとこの登場人物の立場だったら、楽しい気持ちになっているはず」とか「あー、悲しいんだろうなぁ」などと想像させる楽しみをお客さんに提供する。一見するとわかりにくいのではないかと思われるかもしれませんが、そんなことは一切ありません。むしろ共感の度合いが増すこともある手法論です。扇里師匠の、高い技術力で、自然に目が話せなくなってしまう。

共通しているのは、こしら師匠も扇里師匠も変人ということでしょう。こしら師匠は田植えをして無農薬の米を育てて、収穫をして落語会で販売したりゴッホのヒマワリ柄のグッズを輸入して販売している変人。扇里師匠はtwitterで、ひたすらにベイスターズのことを延々につぶやき続けている変人。動のこしら師匠vs静の扇里師匠、究極のコントラストがここに実現します。

レビュー

文:重藤暁 男 20代 大学院生 落語歴15年 趣味:歌舞伎鑑賞

11月16日(土) 18時~19時「ふたりらくご」
立川こしら(たてかわ こしら)「小言杢兵衛」
入船亭扇里(いりふねてい せんり)「藁人形」

「渋谷らくごのベストバディーが生まれた瞬間!」

事前にタツオさんが、究極の「動」と「静」とプレビューに書いてあり、またtwitterでもこしら師匠と扇里師匠の両師匠がいろいろと呟いていて、これなにかが起きそうだぞ!みたいな空気を出していた今回の「ふたりらくご」。実際に会場で味わってみました。そしたら、こしら師匠と扇里師匠、もしかしたら渋谷らくごのベストバディーかもしれません。ものすごい回でした。

【あえてハチャメチャな道を選ぶ、こしら師匠「小言杢兵衛」】

  • 立川こしら師匠

    立川こしら師匠

出てきて早速、扇里師匠をいじり出すマイクパフォーマンスが炸裂。扇里師匠にはたくさん差し入れがあったのに、自分には差し入れがないこと。楽屋でも扇里師匠に相手にされなかったこと。しまいには、扇里師匠の亭号を忘れてみせたりと、とにかくはちゃめちゃに扇里師匠をいじり倒す。なんてこしら師匠はサービス精神旺盛なんだ!と圧巻。扇里師匠のことが否が応でも気になってきてしまう。
最終的には、扇里師匠に差し入れがあったお菓子をいじるために、深夜バイクで仙台に行ったエピソードもご披露されました。というか、なんでこしら師匠は、深夜東京から仙台までバイクで行くことになったんだ?というかどうしてそんなエピソード持っているんだよ!とこしら師匠の人間の面白さも再発見したまくらでした。
そんなことから会場がこしら師匠のマイクパフォーマンスで大熱狂になったときに、「小言杢兵衛」がスタート。実はこの「小言杢兵衛」は「小言幸兵衛」という落語の登場人物をこしら師匠が言い間違えてはじまったあの日の「ふたりらくご」でしか聴くことができなかった一期一会の作品。もうおかしくておかしくて、「究極の動」なんて言われているから余計に動いてみたりと、それがまたおかしい。会場は次から次へと爆笑が起こっていきました。30分間があっというまで、笑い疲れてしまうくらいに笑った。
オチを言って頭を下げる。時計を見たら30分きっかりの高座。こしら師匠ものすごい器用なんだなぁと改めて実感をしました。

【これが、扇里師匠の魔法!時間と空間を操った扇里師匠「藁人形」】

  • 入船亭扇里師匠

    入船亭扇里師匠

こしら師匠がガンガンに暖めた会場の空気、この空気がどうなるのか。扇里師匠が登場しました。なるほど、座布団の上に座ったらぴったりと動かない。こしら師匠が動き回っていたからこそ、目の錯覚なのか一切動かないように見えました。そしてこしら師匠のマイクパフォーマンスを軽くあやなす。しかもものすごい些細な感じに。ものすごい些細な一言なのにも関わらず、大きな笑いが生まれていました。今思えば、あのとき軽くひと笑いをとった瞬間にはもう、扇里師匠は魔法をかけていたんだなぁと思います。そしていままで味わったことのない空気から扇里師匠の「藁人形」がスタート。「藁人形」は笑いも感動もなにもないストーリー、救いがあるのかないのかわからないようなストーリー。
でも気付いたら30分が過ぎてしまっていまいた。「あっという間」という言葉がありますが、扇里師匠の落語はいままで私が経験した「あっという間」よりも遥かに短い「あっという間」でした。
目の前には意地の悪い女性と騙されてしまった男。意地の悪い女性に騙された時は心から憎い思いになった。騙された男を見た時には、心から悲しい気持ちで惨めな気持ちになってしまった。扇里師匠の登場人物と私の心が突然同期しはじめてシンクロしはじめてしまった。本当にシンクロしはじめました。心をわしづかみされたと言っていいのかもしれません。そして唐突に噺は終わる。
ものすごいあっという間。そうか、これが扇里師匠の魔法。時間と空間を操られてしまいました。こんな経験、日常生活では味わうことができない。

 こしら師匠のはちゃめちゃっぷりも、扇里師匠の時間と空間を操る魔法も、全部落語だから成立したことなんだなぁと改めて思いました。落語の懐の深さを改めて実感し、お二人の師匠の振れ幅のすごさをまざまざと体感した「ふたりらくご」でした。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」11/16 公演 感想まとめ